新チーム13

 兄ちゃんのNBAに関するニュースは、城伯高校でも話題になっていた。


「おまえの兄ちゃん、いよいよ、NBAに行ける可能性が出てきたな。ドラフトだもんな」


 クラスの皆も俺に声をかけてくる。


「あぁ……」


 俺は適当に受け流した。あまり、まともに聞いていると、自分自身にプレッシャーをかけてしまうから。


 長い授業が終わり、部活の時間。俺はさっさと体育館へ向かう。


 体育館からドリブルする音がする。


 俺より早く来ているとは珍しいな。


 体育館で先に練習していたのは、風斗だった。風斗はひとり、ドリブルからのシュートの練習をしていた。


 風斗は俺の姿に気がついて、笑顔で挨拶した。


「樹先輩、こんにちは」


「あぁ……こんにちは。先輩はつけなくていいって」


 俺は先輩と言われることに、少し恥ずかしさを感じた。


 風斗は素早く動けるし、シュート成功率も良い。1対1や個人で練習しているときは、積極的な攻撃を見せてくれる。ただ、5対5で練習すると、どうも控えめになってしまう。そこがもったいない。


 俺から聞いてみたほうが良いかもしれないな。


「風斗、その技術、5対5でも積極的に出させると良いな。5対5だとちょっと控えめになるからな」


「すみません……俺、あまり目立ちたくなくて」


 風斗は苦笑いした。表情が硬いから、苦笑いするところを初めて見た。


「目立ちたくない?」


 俺が聞き返すと、風斗は頷いた。


「俺、注目されてて……メディアからは、ああだこうだ言われて、練習に集中できなくて、そのうち、完璧になってミスったら、やっぱり駄目だったかとああだこうだ言われて。仲間からも妬まれるようになったように感じて……」


 風斗は抱えていたものを打ち明けてくれた。


「あぁ、わかるよ。注目されるって、良いことではあるけれど、度が過ぎると、集中力も欠けるし、嫌になってくる。俺らはただ、上手くなるために練習しているだけなのにな」


 俺は兄ちゃんが注目されているから、弟も凄いだろうと勝手にメディアが注目してくるからよくわかる。


「俺は自分の技術が上手いなんて思ってないし、もっと上手な人はいる。だから、なんで、俺が? 静かに練習させて欲しい。そう思うんだ」


 風斗はため息をついた。


「そうだよなぁ、俺ら、目立つために練習しているわけではないし、見せるために練習しているわけじゃない。良いプレイを見せるために練習している。練習から注目されるのは違うよな」


 そんな話をしていたら、バスケ部が集まってきた。


 風斗は打ち明けたことで、スッキリしたのか、メンバーに笑顔で挨拶していた。


 特に解決策はないけれど、こうやって話すことでスッキリすることがある。これから風斗も積極的にバスケの練習できるといいな。

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