プロ選手との練習10
千葉レッドブルーというチームと合同練習を終えた俺たち。
プロ選手との練習ができただけで感激なのに、質疑応答にも対応してくれるという。
こういう時間まで作ってくれるとは驚きだ。
でも、驚きすぎて、聞きたいことがたくさんあったはずなのに、頭が真っ白だ。
一番、聞きたいことってなんだっけ?
あぁ、メンタルのこと一番聞きたいな。
「あの……」
俺は緊張しながら、並木選手に声をかけた。
並木選手は、俺と同じポイントガードだから、ポイントガードとしてのメンタル、心構えとか聞けたらいいな。
並木選手は、緊張している俺を見て、笑顔で話しかけた。
「結構、緊張するほう?」
「えっ……あっ、はい、すぐ、緊張して……だから、えっと、その……ポイントガードとしての役割が……」
俺は、並木選手に声をかけられて動揺して、自分でも何を聞いているのか、わからなくなった。
「凄く、緊張してるね。まぁ、リラックスしろと言っても、なかなかできないよな」
並木選手は、俺の緊張している姿が可笑しかったらしい。笑いが止まらない。
うぅ……リラックスしろっていうほうが確かに難しいけれど。
並木選手は緊張しないタイプなのか?
「まぁ、緊張があるのは当たり前だからな。緊張を味方にすることができるかだよ」
並木選手は、しばらく爆笑していたが、ちゃんと、俺の疑問に答えてくれた。
「緊張を味方にする?」
俺の頭の中には疑問符しか浮かばない。
「緊張するのは、恐怖と不安から。100パーセント準備しても、本番は100パーセント準備した通りにできるかどうか不安になるしな。怖くなってくるよな」
確かに並木選手の言う通りだ。
そう、どれだけ準備しても、できなかったらどうしよう、もし、ミスしたら……と恐怖と不安がよぎる。
「それは、どの選手も同じだ。どんなに一流の選手でもだ。大スターでも」
並木選手は俺の背中をパシッっと叩く。
おぉ、強い。
並木選手にしてみれば、軽く叩いたつもりなんだろうけど、相当なトレーニングをしているからか、パワーがある。
身体がよろめいてしまいそうだった。
「並木選手も緊張するんですか?」
俺は恐る恐る、並木選手に聞いてみる。
「もちろん、俺も凄く緊張するよ。なかなか緊張を味方にできないこともある」
並木選手は、一息入れるために長く息を吐いた。
「もう、やることはやった。あとは自分を信じて、今できることをやるだけだと言い聞かせるしかないんだ」
「言い聞かせるしかない?」
俺は目をぱちくりさせた。
「そう。緊張するのは当たり前のことだし、緊張を消すことはできないし、どうにもするしかない。だから、深呼吸をして、今、できることをやってベストを尽くすしかないからね」
無理矢理、緊張を消そうとしてたけど、それはダメなのか。というより、消すことはできないのか。
「緊張したら、自分がパワーの出る言葉を呟く。深呼吸をする。今できることをやってベストを尽くす。この舞台に立てたことに感謝する。楽しむ意識を持つ。緊張を少しでも味方につけるには、その4つしかない」
並木選手は俺の肩に手を置く。
「俺は強い! でもいいし、さぁ、行こうか。でもいい。パワーが出て、自分らしくいられる言葉を見つけておくんだよ。それが一番、効果的かな」
「そうなんですか?」
俺は、並木選手も同じ人間なんだと実感できて、安心した。
「頭でいろいろ考えていると、余計、緊張するから、同じ言葉を呟いたり、深呼吸したりして思考を停止させるんだ。五感で感じることをメインにする」
並木選手から緊張したときの思考法を教えてもらって、なんだか勇気が湧いてきたぞ。
「そうそう、緊張を味方につけるためには、体を動かすことも有効だから、ウォーミングアップを長めにやるのもいいぞ」
俺は目を丸くした。
ウォーミングアップを長めにする。
それは、体力を使うことでもあるから、本番で体力がなくなってしまうこともある。
「ウォーミングアップを軽めに長めにやって、ギリギリまでやると、意外と緊張を忘れていたりする」
並木選手は、目を丸くしている俺に笑顔を見せた。
今日は凄く有意義な時間を過ごせた。
また、これから練習して絶対に上手くなってやる!
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