王者、福岡私立富滝高校との練習試合13
練習試合2試合目、早くも高宮コーチはタイムアウトをとった。
「技術やテクニックは上手でも、1番重要なのは駆け引きだ」
高宮コーチは、戦術は話さない。それは、自分で考えろってことだ。
「いろいろな戦術はあるけれど、型にハメたらその型でしかできなくなる。だから、どうするかは自分で考える」
高宮コーチは、拓斗を見る。
「楽しくさせる試合内容ってどういうものだと思う? 駆け引きをするには、見ている人を楽しくさせることを考えるのもありかな」
高宮コーチはニヤリと笑った。
その意図はどこにあるのか、俺にもわからなかった。
「自分のことを考えると戦術は出てこない」
高宮コーチは人差し指を立てて答える。
「見ている人を楽しませるにはどうするか、これを考えられると駆け引きもできるかもしれないぞ」
人を楽しませるにはどうするか。
大切なことかもしれない。楽しませることを考えて、駆け引きができるようになるかのかは不明だけど。
「人を楽しませる、そのために自分はどんなプレイをして魅了したいか、常にそれを考えていく。勝つための考え方は、勝つことに、こだわりを持っているだけじゃダメだ」
高宮コーチは手をパンパンと叩く。
「自分が見ている人に対して、どんなプレイを見せたいのか、どんなプレイで沸かせたいのか、どういう姿勢を見て欲しいのかが大事だ。それが試合に集中すること。試合に集中しなければ、まず、勝ち目はない」
高宮コーチは、強く言い放つと、コートへ送り出した。
タイムアウト終了。
試合が再開される。
拓斗は素直に高宮コーチの言っていた、自分はどんなプレイをして、人を魅了させたいかを考えているのか、ディフェンスをしながら、じっくりと南を見ている。
南はゆっくりとドリブルをして、拓斗の様子を窺っている。
その時は一瞬だ。
拓斗が怯んでしまった。
南に圧をかけられたのか、拓斗は一歩引いてしまった。
そこを逃さなかった南はスリーポイントを放つ。
そのスリーポイントは簡単に入ってしまった。
「スリーポイント打つとは思っていなかったみたいだな」
南はフッと笑った。
「拓斗、ドライブしてくると思ったのか」
俺は、拓斗が一歩引いたときに、ドライブしてくる南を想定して、準備していた。
でも、南はドライブすると見せかけるだけで、実際にはスリーポイントだった。
「拓斗の動きがバレてる……」
俺は拓斗の動きを見て、自分ならどうするかを考える。自分ならどういうプレイをするか。人に見せたいプレイは何か。
そう考えた時に、俺もこの試合で拓斗と同じだったことに気がついた。どんなプレイをしたいのか、人に見せたいのか定まっていなかった。
だから、プレイにも出てどんなことをしたいのかも、ちゃんと仲間に伝わっていなかったんだ。
俺も、もっと自分がどんなプレイをしたいのか、人に見せたいのか、しっかりと決めないとダメだ。
ピッー
笛が鳴る。
いつの間にか10分経っていた。
結局、10ー35で城伯は負けた。
拓斗もシュートを打つことすらできず、ディフェンスでは読まれて、全く何もできずに終わった。
俺たち城伯にとって勉強になる練習試合になったことは間違いない。
練習試合は、あと2試合やったが、4試合全て富滝に勝つことはできなかった。
本音を言うと悔しい。でも、それは負けたからというより、どんなプレイがしたいのか決まってなくてブレていたことに対して悔しかった。
高宮コーチは、練習試合のことについては、俺たちには何も言わなかった。それは自分で考えろということかもしれない。
だけど、高宮コーチは俺たちがびっくりするようなことを言い出した。
「今日はお疲れ様。今度はプロ選手を呼んで練習しようか」
「プロ……!? Bリーグの……」
慧はちょっと嬉しそうだ。
「あぁ、交渉してみる」
高宮コーチはニッと笑って頷く。
プロを呼んでくるなんて、日本代表育成コーチをしていたから、できることだろうか。
高宮コーチは俺たちに刺激を与えるために、あえて、プロを呼んだり、日本一の強豪高校に練習試合を申し込んだりするのかもしれないな。
なんとなくフワフワしているから、もっと、心も強くならないとな。
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