凄腕のコーチがやってきた20

 きついフットワーク練習3セットを終えて、休憩。


 水を飲みながら汗を拭く。この汗は凄い。今までこんなに出てなかった気がする。相当きつい運動なんだ。拭いても拭いても、汗がメチャクチャ垂れてくる。


 だけど、心地が良い。なんだか爽やかな気持ちになる。不思議な感覚だ。


 休憩が終わると、次はパス練習。フットワークに続いて基礎練習だ。


 パスは胸から出すチェストパス、頭の上から出すオーバーヘッドパス、バウンドパスなどの練習をする。


「まず、身体の使い方を練習するぞ。2人1組になって」


 高宮コーチに言われて、俺たちは、2人1組になる。


「これはシュート、ドリブルにも関わってくるから、しっかり確認しておくぞ」


 高宮コーチは手をパンッと叩いた。


「パス、ドリブル、シュート、この3つをやるとき、身体のどの部分を使うと思う?」


 あれ? さっき、俺がシュート練習をしていたとき、腕だけだと無駄な力を使うとか言ってなかったか。ということは、腕じゃない。となると、どこを使うんだ。


「そうだな、なかなか動かし方を勉強するってないな。中学でも高校でもあまり教えないと思う。だけど、将来的に続けるにしても、続けないにしても股関節ともうひとつの重要な部分を使えないと、身体に負担をかけることになる」


 高宮コーチが説明する。


「体に負担がかかれば、身体に痛みが出ることもある。だから、動かし方として股関節を使うことがまずひとつ。あともうひとつは?」


 あと、もうひとつ。腕でやるのはダメっぽいから、腕に繋がっている部分ってことだよな。


「あっ……肩?」


 俺は自信なさげに答える。すると、高宮コーチはニッと笑った。


「惜しいな、肩は結局どこに繋がっている?」


 えっ? 肩がどこに繋がっているかって。背中だよな。それか胸。他には何かあるのか。


「肩甲骨か!」


 快は答えが天から降りてきたときのような反応で呟く。


「快、正解。そう、肩甲骨。パスもシュートもドリブルも腕じゃなくて、肩甲骨を動かすんだ。ちなみに樹、さっき腕だけだと無駄な力を使うって。まさにそれなんだ」


 なるほど。肩甲骨を動かすのか。だけど、どうやって動かすんだろう。


「ちなみに股関節と肩甲骨も繋がっているぞ。だから、股関節がちゃんと動かないと肩甲骨も動かない」


 えっ? そうなのか? 股関節と肩甲骨って繋がっているのか。


「だけどな、股関節も肩甲骨も重要な部分なのに、動かしているのか、感覚ではわかりにくい部分なんだ。だから、動かしているかわからなくても意識することが大事なんだ」


 高宮コーチが言うと、今度はパスをしながら、説明をする。


「パスをするとき、腕だけ伸ばすより、肩甲骨から伸ばす。肩甲骨を前に出すイメージでやるといい」


 高宮コーチは、やってみてと指示をする。


「肩甲骨から前に出す」


 慧が小さい声で言いながら、貴にパスをしていた。


「そう、肩甲骨が使えてる。腕は力を抜いて」


 高宮コーチは慧にアドバイスを送った後には、貴の肩甲骨の使い方を見ていた。


「貴、試してみようか。まず、普通に前に手を伸ばしてみな」


 貴は高宮コーチの言う通りに手を伸ばしてみる。


「今、このくらいの長さしか伸びてないだろ? 今度は肩甲骨から伸ばす」


 高宮コーチは、貴の肩甲骨を押す。


「あれっ?」


 貴は目を丸くしていた。腕だけで伸ばすよりも、高宮コーチに肩甲骨を押してもらったときのほうが、さらに伸びている。


 なるほど、そうすると、パスも長く飛ばせるということか。俺は高宮コーチと貴のやりとりを見て納得した。


「確認できたか? そうしたら、鬼ごっこするぞ。4人1組で、ひとりは鬼。3人は鬼に取られないようにパスを回していく。鬼に取られた時点で鬼を交代する」


 高宮コーチが指示を出すと、俺たちは鬼ごっこを開始する。


「パスはどんなパスでもいい。肩甲骨と股関節を意識して」


 高宮コーチは、鬼ごっこというメニューで遊んでいるようにもみえるが、真剣にパスのフォームを見ている。


「どんなに姿勢が崩れても、股関節と肩甲骨は使えると、ボールがしっかり跳ぶ」


 高宮コーチはそう言いながら、フォームが違うときは止めて、身体の動きを確認させていた。

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