凄腕のコーチがやってきた!

 俺は村野樹むらのたつる


埼玉県立城伯高等学校さいたまけんりつじょうはくこうとうがっこう2年。


「めんどくせぇなー」


 俺はだんだん眠たくなってきた。こんなに眠くなる授業はない。


 日本史の授業。本当は学科の中では好きなんだけどな。だけど、日本史を担当する先生の授業はつまらない。


 話が長く一方的に授業をしている感じがする。


 そのうち、うとうとしてきて机に顔を伏せて完全に寝てしまった。


「おーい! 樹!! 起きろ!! 大変なことが起きてるぞ!!」


 ん? この声は斉木慧さいきけいの声か。


 あれ? なんで慧がここにいるんだ?


 まだ、寝ぼけ眼の俺。顔をパンパンと叩きながら、眠っている脳を叩き起こした。


「ん? どうした? 慧?」


 慧は深刻な顔をして俺を見ている。


 あっ、忘れていた。紹介しよう。斉木慧。同じクラスでバスケ部に所属している。


 ちなみに俺もバスケ部だ。


 学校には勉強に来るのではなく、ほとんど部活をやりに来ているようなものだ。


 はっきり言って勉強は嫌いだ。誰も学校の授業が好きなんて人はいないか。授業は暇だよな。


 あっ、また、忘れていた。そうそう、慧はなんで呼びに来たんだ?


 ふと時間を見ると、時刻は15時30分。もう、部活の時間じゃん!! 慌てて準備をする。


「サンキュー、慧!」


 すぐに体育館に向かおうとしたとき、慧が俺の腕を掴んだ。


「待て! 今日は練習できないかもしれない」


「えっ!? なんで?」


 慧の思いがけない言葉に俺は耳を疑った。


「まずいことが起こってるんだよ! 今、事実を確認している最中なんだ」


「まずいことが起こっているって? どういうことだ?」


 俺は慧の言っていることが飲み込めず聞き返した。


「コーチが1年生に体罰した。それをバレー部の奴らが見ていて、バレーの顧問に伝えたらしい」


「なんだって?」


 俺は頭を抱えた。あのコーチならやりかねないなと思っていたが、とうとうやったか。


「今、先生たちが集まって聞き取りしている」


「今日、練習どうなるんだ……」


 慧に言われて、俺はショックを受けた。練習できなかったら、学校に来る意味がないじゃないか。


 まぁ、あのコーチは好きじゃないけれど。練習中も自分の気に入らないことをやられるとすぐに罵声が飛ぶし。それに俺が、いや、が嫌なのは、独裁者のようなやり方だ。


 コーチは俺たちの意見なんて聞きやしない。プレイ中は特に何があるかわからない。コーチだけの指示ではどうにもならないこともある。そんなときは、自分たちの判断で対応で成功することもある。コーチの指示が絶対ではない。歯向かうと殴られる。ときにはボールを投げつけられることもある。


 だから、いつか問題になるのではと思っていた。


「なぁ、いつも3時30分から開始だよな? 始まる前から体罰ってどういうことだ?」


 俺は慧に聞くと、慧は呆れたように答えた。


「昨日のこと覚えているか? 最後、1年だけ集められたじゃん。1年も頑張って練習しているのに、テクニックがないとかへたくそとか言いたい放題でさ」


「あぁ、そうだったな」


 思い出した。1年に罵声を浴びせていて、練習終わりに集めらていたな。そのときになんか言われたか。


「集められたときに、今日、1年は練習を開始する30分前に来いと。でも、30分前には来れないだろ? ホームルームがあるから、せいぜい、練習開始、15分前だよ。来れても」


「そうだよな、それで、これなくて理由を話してもダメだったってことか。コーチは担任持ってないから、わからないんじゃねぇのか? ふざけてる」


 俺はため息をついた。とりあえず体育館に行くか。どういう状況なのか把握しておかないと。


「とりあえず、体育館行こう。練習するかどうかはそれからだ」


 俺が慧に告げると、慧は険しい顔をしながら頷いていた。


 俺と慧は嫌な気分のまま、体育館へと足を運ぶ。

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