許嫁は吸血姫

さむがりなひと

第1話

許嫁とは、子供の人生を縛る枷である

しかし時としてそれは、人生を解き放つ鍵にもなる




とある青年が夜の街を歩く

眠らない街。居酒屋やバー、キャバクラなど数多の店が夜通し営業を続けるこの地を歩む青年は、黒いパーカーを目元まで被りポケットに手を入れていた

派手なメイクと服で着飾った女が青年に声を掛けるが、聞こえていないかのようにピクリとも反応しない

そんな青年がふと立ち止まった


(…今のは)


何かの気配を察知したのか走り出す青年

路地裏に飛び込み、目の前に現れたモノに目を向ける

それは、女を取り囲む男だった

これ自体はさして珍しいことではない。金銭的な争いはよくある街だ

しかし問題なのは、その女がパッと見でかなり若く、服装が高校生かそこらであること


「そこで何をしている」


青年が声を掛けると、3人の男のうち左側の1人がジロリと青年を睨んだ

その目は明らかに普通の人間のそれではなく、猫のように瞳孔が細い


(獣人種、それも特化型かな。左から速度、腕力、右の男は欧州型吸血鬼といったところか…)

「なんだテメェ?すっこんでろ!」

「そうもいかないんだよ。これでも一応、困っている人を放っておけないタチでね」


上半身を獣化させた2人に目を向ける

左の男は猫科、中央は犬科であることがわかった


(見た目だけならチーターと狼か。軍用の遺伝子がどこかからか漏れたのかな)

「何やってるの!?逃げて!」

「…ま、なんでもいいか」

「あぁ!?ナメてんのかテメェ!」


おおよそ人間には出せないほどの速度で爪を振りかぶる猫型の獣人

振り下ろされた腕から余裕を持って逃れる

それを見て狼型の獣人が拳を握り、回避直後の青年の胸目掛けて素早いストレートを打ち込む


「ふむ、タイミングは悪くない。が、僕には到底及ばないな」


その拳を受け止めたのは、どこからか取り出された白い大剣だった

よく見ると青年の首にかけられていたネックレスがなくなっている


(れ、錬金術師…?でも狼型の獣人の攻撃を片手で…)


少女がそんな事を考える間に、吸血鬼が手のひらを青年に向けた

そして人間の言葉ではない何かをつぶやき、赤い球体を出現させる


(魔術!?危ない…!)


少女が走り出すより早く、青年が剣を縦に振った

かなりの距離があったはずだが、その剣は確かに吸血鬼の体を縦に真っ二つにしてしまい、その場には血が飛び散っている


(い、いまのは…なに…?)

「全く…魔術を使われたらさすがに警察にバレてしまうからね。壊させてもらったよ、術者ごと」


というが実際のところは吸血鬼に備わる死ににくさのお陰で今の攻撃くらいであれば再生できてしまう

その証拠に、吸血鬼は肉体が地面に倒れるより早く体が元通りになっていた

しかし何をされたのかがわからない以上恐怖を感じ、その場に立ち尽くす


「…加減しすぎたかな。まぁいいや、君たちもああなりたいのかな?」


青年が振り返るとそこには猫型と狼型が連携し、同時に爪を振り下ろしていた

しかし少女が瞬きをする間に全身を浅く切り刻まれ、あまりの痛みに叫び声を上げながらその場に倒れ込んだ


「期待外れだね。鍛え直してからまたかかってきたらどうかな」


笑顔で残酷な言葉を突きつけられた3人の男は、悲鳴のようなものを上げながら脱兎のごとく逃げていった


「ははは、猫型や狼型、さらにはコウモリがうさぎの如しってとこかな」

「あ、あの…あなたは…?」

「ああ、僕か」


大剣がネックレスに戻り青年の首へと自動的に装備され、青年が振り返る

少女に向けて笑いかけながら名乗った


冬風ふゆかぜ彩斗さいと。死神・冬風夜斗よるとの息子だ」


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