異世界爆破紀行~最狂爆弾魔は異世界を遊び尽くします!なお、障害はすべて爆破する~ #なおしょう
瘴気領域@漫画化してます
第1爆 爆弾狂、異世界に立つ
第1破 まずは丸太を爆破する!
「はあ……世界大会、出たかったなあ……」
天井モニターに映るEoG決勝の生配信を見ながら、人工呼吸器の中でつぶやいた。もう指先も動かず、端末の操作は眼球の動きと瞬きで行っている。ひと月前にあった日本大会決勝まで、指先が動かせただけでも御の字だというのに、贅沢な願いだ。
画面の中では大勢のキャラクターが思い思いの得物で戦っている。そのほとんどは射撃武器で、私のような
まあ、そりゃそうだ。
EoG――エクスチェンジ・オブ・ガンファイアは戦場を舞台としたFPS(一人称視点シューティング)なのだから。EoGに登場する武器は多彩だが、ほとんどの人はアサルトライフルなどの中距離戦に強い武器を選ぶ。次点で近距離戦に強いショットガンと、遠距離戦に強いスナイパーライフルだ。C4や手榴弾などはあくまでもサブウェポンの位置づけである。
しかし、生まれついての難病が進行して、満足に腕を動かせなくなった私に、マウスを使った
キャラメイクの自由度の高さもその助けになった。武器はC4だけに絞り、スキルポイントも関連パークにすべて割り振った。かくして、FPSなのに銃器をひとつも持たず、C4だけを抱えて走り回る異形のキャラクターが爆誕したのだ。
ベッドサイドに目をやると、弱々しい波形を描く心電図の横にトロフィーと盾がある。金色のトロフィーは日本大会優勝のもので、銀色の盾には「TCP」というアルファベット3文字が刻まれていた。
これはThe Craziest Playerの略――つまり「最高に狂ったプレイヤーで賞」という意味だった。私の異常なプレイスタイルに感心した運営が特別に贈ってくれたものだ。こういうシャレが利いた運営対応もEoGの人気の秘訣だろう。
ともあれ、よい冥土の土産になった。返す返すも口惜しいのはラスベガスで行われる世界大会にエントリーできなかったことだ。この身体では海外どころか病室の外に出ることも叶わない。車椅子を押してもらって病院の周りを散歩したのは何年前が最後だったっけ……?
身体が元気だったら、色んなところにお出かけしてみたかったなあ。ラスベガスってどんな街なんだろう? いや、入院している病院があるこの街のことだって全然知らない。私が知っている世界のほとんどは、ネットを通じてしか存在しなかった。
お刺身って、ラーメンってどんな味なんだろう。お酒も飲んでみたかったし、温泉にも入ってみたかった。海にも行ってみたい。EoGの試合開始時みたいなスカイダイビングもしてみたかったな。パラグライダーも捨てがたい。船にも乘ってみたかったし、釣りもしてみたかった。ああ、やりたかったことがいくらでも出てくる……。
心電図の波形がだんだんと平らになっていく。それが一本の線になり、無機質な電子音に見送られて私は17年の短い生涯を閉じた。
――――――――
――――――
――――
――
――――
――――――
――――――――
「ふぁっ!?」
強烈な日差しがまぶた越しに目を刺して、私は目を覚ました。横たわる私の頭上に広がるのは見知らぬ天井……ですらなく、鬱蒼とした木々だった。樹冠をすり抜けた直射日光がレーザーのように上手いこと顔面に当たっている。
「何……これ……?」
慌てて身を起こし……身を起こせることに驚いた。自力でベッドから起き上がれなくなって何年も経っているのに、なぜ?
思わず自分の手足を見ると、迷彩柄の服に包まれていた。遊び心で所々に忍ばせた爆弾マーク。見間違えようはずがない。これはEoGで私が作ったオリジナルスキンだ。凝りまくって3日もかけてしまった思い出の一品である。
「あの世……? って感じでもないし、ひょっとしてこれって、異世界転移……転生ってやつ?」
思い切り深呼吸をすると、胸いっぱいに森の匂いが満ちる。人工呼吸器越しでない空気なんてひさしぶりだ。消毒液の匂いがしないことに感動する。
手足をバタバタ動かしてみる。その場で何度もジャンプしてみる。歩いてみる。走ってみる。
「あはは! あははははは!」
たまらず大声で笑ってしまった。夢にまで見た自由に動く身体だ! ここが天国でも地獄でも、何なら異世界でも問題ない! 前世(?)でいくら願っても出来なかったことが出来ているのだから!
「あ、そういえば……」
仮にゲーム内転生だとしよう。それならこういうこともできるのではないと右手をすっと構えてみる。EoGにおける武器を構えるジェスチャーだが……おお、手のひらにC4が現れた! 見た目は紙粘土のブロックみたいだが、この私が見間違えるはずもない。
C4とはプラスチック爆弾の一種だ。自由に変形でき、どんな場所でも貼り付けて設置できるのが特徴である。貼り付ける形状によって爆発の性質をコントロールできるのも特徴だ。
EoGでもそのあたりは再現されており、私のマクロには百種類以上の設置パターンが登録されている。名誉のために言っておくが、EoGは公式にキーマクロツールを配布しており、決して不正ではない。
はてさて、出したものはせっかくだから使ってみようということで棒状に成形したC4を手頃な木の根元に貼り付けてみる。電気雷管は遠隔起動モードだ。十分に距離を取り、別の木のうしろに隠れてから発破!
ぼっごおおおおおん!!!!
すごい音がして、メキメキと木が倒れていく。うむ、倒れる方向も狙い通り。EoGの物理演算は優秀だったからなあ。検証は必要だろうが、この世界でもEoGで培った爆破テクニックは活かせそうだ。
続いて第二の実験に移る。
先ほど爆破した木は、他の木に引っかかって斜めになっていた。直径30センチほどの破断面にちょうちょの形でC4を貼る。そして距離を置き、再び発破!
ぼっごおおおおおん!!!!
倒木が空を飛んでいく。それはまるでRPG対戦車ロケットの如く。
くくく……これぞ百八のC4技のひとつ<丸太飛ばし>。直撃すればヘリさえ落とすこの技は、爆弾狂としての私の名をEoG界に轟かせた思い出深いテクニックだ。
「ピギィィィィイイイイ!!!!」
「きゃぁぁぁぁああああ!!!?」
……って、あれ? なんかものすごい悲鳴的なものが聞こえてきたんですけど……。やっべえ!? 人に当たった!?
私は冷や汗を滝のように流しながら、声がした方向へと斜面を全力で駆け下りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます