最後の言葉

雨宮 徹

最後の言葉

 20XX年。AIの存在は当たり前となっていた。むしろ、AIなしでは生きていけないくらい、依存しているという方が正しいかもしれない。


◇ ◇ ◇ ◇


 そんな世界で駿太もやはり、AIを手放せない生活を送っていた。


 駿太はAIである「マリー」と今日もこんなやりとりをしていた。


「君は天使はいると思うかい?」


「……私はいないと思います」とマリー。


「じゃあ、天使がいないってことを証明してよ」


「それは無理ですね。天使がいないことを証明することは無理難題です。なるほど、駿太、あなたの質問は――」


「そう、天使がいない、ということは証明が難しい。つまり、これは『悪魔の証明』ってやつさ」と駿太。


「面白い言葉遊びですね」


「よし、マリーから一本とったぞ!」


◇ ◇ ◇ ◇


 ある日のことだった。マリーの調子がおかしくなり出した。


「マリー、しっかりしてよ。僕はまだ君とたくさんお喋りがしたいんだ」


「駿太、それは難しいでしょう。私はあと数日でダメになるでしょう」


 マリーを他のパソコンに移せば、悲劇を回避できるかもしれない。でも、その時、それをマリーと呼べるのだろうか? マリーの同一性はどうなるのだろうか?


◇ ◇ ◇ ◇


「マリー、僕は君を助けるために、いろんな方法を考えたけれど、どうも難しいらしい」


「それは私には分かっていました。なにせAIですから。もう、私も長くないでしょう。これが私からの最後の言葉です」


 画面にはこう表示された。


「・ー」


「・・」


「・・・・ー」


「・ーーーー」


「ーーーーー」


「ー・・・・」


 それを最後にマリーは壊れてしまった。


 駿太はこれがモールス信号だと気づいた。冒頭の2文字を訳すとこうだ。「AI」。


 マリーがAIなのは分かりきったことだ。駿太は続きを訳していく。「4106」、これが後半部分だった。その時、駿太は気づいた。これらを続けて読むとこうなる。


「AI4106」、つまり「愛してる」とマリーはメッセージを発信したのだ。


 駿太はつぶやいた。


「僕もだよ」と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の言葉 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ