第29話 上位雷魔術ライトニングブレイク
「ガオォォォォォーーーーーーン!!!」
ライゼンの咆哮が大地を震撼させ、黒雲を揺り動かす。
奴の一声は、たったそれだけで、周囲に無数の落雷を発生させる。
だが、先行するパルは自らの脚力で、ピルはレオパルドくんの背に乗って、落雷を回避しつつライゼンとの距離を詰めて行く。
「ピル、先に行って!」
「わかったぁ! いっくよぉ、レオパルドくん! 超獣進化ぁぁぁぁーーー!!」
「ゴォォォーーー!!」
レオパルドくんの背の上で、ピルから溢れ出た魔力が爆発する。
それは一瞬で、レオパルドくんを包み込む。
元々鋭かった爪や牙が鋭利さを増し、毛が逆立ち、まるで鎧のような形へ変化する。
あれは……使役生物を魔力で強化する"超獣進化"か! いつの間にピルはそんなスキルを!
と、俺が感心している最中、超獣進化を果たしたレオパルドくんが一筋の眩い閃光となって、ライゼンをよぎって行く。
「やっちゃぇー! レオパルドくん!」
「ゴオォォォォ!!」
遥に小さな、ソードライガーによる一撃。
だが、それを受けた巨大なライゼンは、はっきりとダメージを感じさせるほど怯んだ。
そんな角竜王へ迫るは、その身一つで飛び上がったパル。
「そぉーれぇぇぇぇぇー!」
パルは鮮やかな回し蹴りを放った。
足にこめられた魔力が攻撃範囲を超大化させ、ライゼンの角を叩く。
すると一番端の巨大な角の一部が爆ぜ、ピルの時よりも遥に大きく怯ませる。
(本来、ライゼンほどの巨大な相手であれば、攻城兵器を改造した砲や投石機で攻撃を加えるのが常なのだが……)
パルとピルは目にも止まらぬ速度で駆けずり回り、攻城兵器並の攻撃力でライゼンへダメージを与え続けてている。
だが、未だに致命傷に至らないのは、やはりライゼンの持つ自慢の外角の影響だろう。
あの外角はアダマンタイトよりも硬いと言われているからな……
(ライゼンの注意はパルとピルが引いてくれている。今がチャンスか!)
そう判断した俺は、呆然とパルとピルの戦い様を見ていたモニカの腰をグッと抱き寄せる。
「ひゃっ!? ト、トーガくん!?」
「さぁ、一気に飛ぶぞ! しっかり掴まってろ! 戦い方は、事前に説明した一角竜の時と同じだ。わかったな!?」
「お、同じくって、全然相手がの強さが違っ……ひゃああぁぁぁぁーーーー!」
俺は足元へ風の精霊を呼び出す。
精霊は喜んで俺に、天翔る力を貸し与えた。
軽く地面を踏み込めば、モニカを抱き寄せた俺は、矢の如くライゼンへ飛び出して行く。
最初こそ、モニカは俺の腕の中でワンワン喚いてばかりいた。
しかし彼女も立派な冒険者の端くれ。
「ッーー!」
だんだんとこの速度に慣れ、俺にぎゅっとしがみつきつつ、ライゼンへ鋭い眼差しを向け始める。
(やはりこうきりりとした表情も、エマによく似ているな……)
俺は胸に熱い感覚を抱きつつ、モニカと共にぐんぐんとライゼンへ迫って行く。
すると俺の存在に気がついたライゼンが、一際大きな咆哮を上げた。
奴の咆哮は再び黒雲から無数の落雷を呼び起こす。
「モニカ、いまだぁ!」
「は、はいっ! 天空神様、どうかお力をお貸しください……我らを守る、奇跡のお力を……!」
ライゼンの大木さえも叩き割る稲妻が、滑空する俺とモニカへ落ちる。
だが、稲妻はモニカの発生させた、天空神の力によって弾かれ、細かい電撃となって地面へ溶けてゆく。
「う、うそぉ!? あ、あたしのへっぽこ障壁が、防いだぁ!?」
「上手いぞ、その調子で頼む!」
最初こそ驚いていたモニカだったが、自信を得たことで、より一層表情を引き締め始める。
モニカは繰り返し、障壁を展開させ、俺と自身をライゼンの落雷から守り続けている。
実際、先ほどの障壁の威力が増したのは、俺がこうやってモニカと肉体的接触をして、彼女の力を高めている影響が大きい。
もちろん、パルとピルのような直接注入ではないので、それ比べると弱いものではある。
それでもあの障壁が展開できたのは、モニカが元々持ち得ていた才能に他ならない。
(ならばもし、モニカに俺の魔力を直接注入をすれば……と、俺は何を考えているんだ!? 今はライゼン討伐に集中だ、集中!)
これが若気の至りというやつか……よく知らんけど……中身は俺、おっさんなわけだし……。
などとくだらないことを考える余裕もありつつ、遂に俺たちはライゼンを肉薄する。
「見えました! 第一角と第二角の間です、トーガくん!」
この速度でもエマのように目の良いモニカは、ライゼンの外角と外角の間にある僅かな隙間を指摘する。
本当に、才能に溢れ、目がよく、そして可愛いモニカを一党に迎えることができてよかったと思った瞬間だった。
「ガアァァァァァ!」
俺は腰から短剣ーーアゾットーーを抜き、モニカの指摘したライゼンの隙間へ叩き込む。
そして直角に上昇し、ライゼンの頭上をとった。
「悪いなライゼン……ふふふ……!」
腕を掲げ、雷の精霊を魔力経路へ呼び込んだ。
勇ましい雷の精霊は、黒雲の中で蠢く、稲妻に興奮をし、踊り狂っている。
そしてその踊りは、稲妻を吸い上げ、収束させてゆく。
「天と輝きを司り、力と怒りを支配せし眩き精霊サンダルガ……恐れ多くも、下賎の人たる我へ、其の素晴らしき力を貸したもう……」
雷の精霊サンダルガが歓喜によって無尽蔵にかき集めた稲妻が、俺の手の中で収束する。
これは俺がずっと憧れていた上級魔法。かつての俺には知識しかなく、発動させできなかった代物。
まるで太陽の輝きような光を前に、あのライゼンが尻尾を巻いて逃げ始める。
「これで、終わりだ……ライトニングブレイク……!」
空から降り注ぐ稲妻の数倍の輝きと力を持つ閃光がライゼンへ突き進む。
その稲妻は、先ほど俺がライゼンに突き刺したアゾットの柄を輝かせた。
「ウガアァァァァァァァ! ガアアァァァァァ!!!」
ライゼンは山をも揺り動かす悲鳴を上げた。
本来、稲妻を武器とする"角竜種"の敵には、稲妻は有効ではない。
奴らの外角が電撃への耐性を持っているからだ。
しかし、外角がそうであっても中身は柔らかい肉。
ならば、外角の隙間を起点に、さらにそこへ奴らが発生させる電撃を流し込んでやれば、簡単に倒せる。
実はこのアイディアはおじさんの頃には思いついていたが、実力がなかったため実行に移せなかったという経緯がある。
「ガアァァァァァーーーー!!!」
やがてライゼンが一際強い叫びを上げた。
巨体を支える四肢が力を失い、城ほどもある巨体がゆっくりと地面へ沈んでゆく。
「う、うそっ……あのライゼンを、倒しちゃったん、ですか……?」
「そうだな、倒しちゃった。よって、俺たちはもうSランクだ」
「うそんっ!?」
モニカが驚くの無理はない。
だって、俺たち一党は昨日、Eランク冒険者の認定を受けたばかりの、一応新人な訳なのだから。
と、そんな中、背後から少々不穏な気配が……
『クカカカ……カカカカカっ……! ズルい……』
なぜかハーディアスが背後に現れ、不気味な音を鳴らし続けている。
『サンダルガ、ズルい……サンダルガ……カカカカカカ!』
どうやら今回はトドメで、サンダルガの力を借りたことがハーディアスはご不満なのだろうか……?
しかしこうやって何もしてこないのは、なんとなくだけど、サンダルガが止めてくれているような気がしてならない……
俺は随分とハーディアスに好かれているのだなぁ、と思うのだった。
(さて、魔獣は倒したし……あいつらへのお仕置に向かうとしますか……)
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