若返った! 追放底辺魔術師おじさん〜ついでに最強の魔術の力と可愛い姉妹奴隷も手に入れたので今度は後悔なく生きてゆく〜

シトラス=ライス

第1話 追放されたおじさん魔術師は、惨めな最後を迎える。

「おっさん、あんたとの契約はここまでだ」


 冒険者ギルドへ向かうとパーティーリーダーの【ローレンス】がそう告げてくる。


「ま、待ってください! 急にそんなことを言われても……困ります! どうかお考え直しを……!」


 俺は遥に年下なローレンスへ必死に頭を下げ続けた。


「頭を下げられても、困っちゃうよ。これ以上アンタと組んでても、無駄だし」


 回答は冷たかった。それでも俺は頭を上げず、同じ言葉を繰り返す。


ーー俺は10代の頃、故郷の村の中では、1番上手く魔術が扱え、将来有望な魔術師になるといわれていた。


 しかし"とある事件"に巻き込まれ、そのトラウマが未だに心を蝕んでいる。

さらにその時、怪我負い、俺の右足はほとんど動かなくなった。

そのためか、魔術の要である"魔力経路"がズタズタに崩壊してしまい、初級魔法以外はロクに扱えなくなってしまった。


 それでも、魔術師である俺を必要としてくれる人はいるだろう思い、今日まで必死に食らいついてきたのだが……


「じゃあな」


 ローレンスは一方的にそう言って、俺から離れていった。

非常にあっさりとした別れであった。


 果たして俺のような、体が不自由で、いまだに底辺な魔術師を迎え入れてくれるパーティーはあるだろうか。

一縷の望みを託して、受付カウンターへは行ってみたものの……


「すみませんが、ご紹介できる案件やパーティーはありませんねー。あなた魔術師ですけど、初級魔法しか使えないんでしょ?」


 受付にいた若い男性職員は、あっさりとした口調でそう告げてくる。


「ち、知識は上級まであります! だから、なんとか、お願いできませんか!?」


「あーもう、無理なものは無理なんですって! 誰も頭でっかちな魔術師なんていりませんって! 後ろつっかえてるんですから、早く退いてくださいよ!」


 俺は職員や後ろに並ぶ、若い冒険者たちの冷たい視線を一身に浴びつつ、右足を引きずってその場を離れた。


(路銀はもう底をついている……とりあえずダンジョンに潜って、稼がないと……)


と、半ばヤケクソ気味に冒険者ギルドを出ようとしたときのこと。

覚えのある話し声が聞こえてくる。


「あのおじさん、ちゃんとクビにしてきてくれた?」


「すっげぇ嫌そうな顔されたけど、まぁなんとかな!」


 入り口近くで会話をしていたのは、ローレンスたちだった。

会話に夢中で且つ、こちらへ背を向けているため、俺には気づいていないらしい。

 ちなみに俺のことを"おじさん"呼ばわりしていたのは、ローレンスの恋人で野伏職の【リナ】という少女だ。


「実は俺も苦手だったから、クビにしてくれて良かったよ!」


もう一人の仲間で、戦士職の【エディ】もまた俺がパーティーからいなくなったことを喜んでいるようだった。


(俺はローレンスたちから、ずっと邪魔者と思われていたのか……)


 彼らに誘われた時は嬉しかった。

俺のような人間でも、魔術師ということで、パーティーへ加えてくれたからだ。

だから皆の役に少しでも立とうと、自分なりに頑張ってきたつもりなのだが……


「ほんと、二人にはずぅっと嫌な思いを我慢させててごめんね! 一時的な数合わせのつもりが、ずるずる引きずっちゃってて! 次はもっとマシな魔術師を探してくるからさ!」


 俺は歯噛みし、右足を引き摺りつつ、急いで冒険者ギルドを出ていった。

そして、日銭を稼ぐために、一人でダンジョンへ潜って行く。

 

 俺は一応、初級魔法しか使えないとはいえ魔術師なので、最初こそは1人でなんとかできた。

しかしーー


「ぐわぁぁぁぁー!!」


 正面から突然髑髏戦士が現れ、錆びた剣で腹を刺された。

出血によってふらついた俺は、背後にあった深く暗い穴へ落ちてゆく。


 何度も岩壁にぶつかって骨を折り、血反吐を振り撒きながら、闇の中へ落ちて行った。

埃くさい地面へ落ちた時にはもう、俺は満身創痍であった。

どうやら、俺の人生は、こんな惨めなところで終わってしまうらしい……。



『おっさん、あんたとの契約はここまでだ!』



『ご紹介できる案件やパーティーはありませんねぇ〜』



『どうだ坊主? 目の前で好きな女がめちゃくちゃにヤられる姿はよぉ!!』



ーーこれがいわゆる走馬灯というやつか。

思い出されるのは様々な嫌な記憶ばかりだった。


「……ロクでもない……人生だったなぁ……」


 10代の頃、俺は故郷を捨てて、幼馴染の女の子ーーエマと魔術師として冒険者を始めた。

でも、それがそもそも間違いだった。

やっぱり俺は、農家の息子として、一生畑を耕す人生がお似合いだったのだ。


「かはっ、げほっ、ごほっ!」


 薄暗いダンジョンへ俺の咳が反響する。

この音と血の匂いを嗅いで、魔物たちはおそらく、俺の存在に気がついたことだろう。

しかし逃げ出そうにも、俺は魔物から深い傷を負わされ死を待つ身。

この状態での生還は不可能に近い。



『はは! まるで芋虫だなぁ〜! がはは!!』



 右足が痛むたびに、俺は俺から大切なものを奪った悪漢【ボン・ボン】の姿を思い出す。

でっぷりして、まるでオークのような醜悪な男。

 奴に10代の頃右足の腱を切られ、そして……幼馴染で、仲間だったエマを目の前で犯されたところから、俺の人生は狂い始めた。

その肉体的・精神的苦痛は、育成途中だった俺の"魔力経路"をズタズタにしてしまっていた。


 何も成せぬまま時を過ごし、何者にもなれないまま、俺は年老いていった。

ランクは上げられず、ローレンスのパーティーには加わりこそするもののバカにされ……挙げ句の果てにダンジョンで魔物の強襲を受け、こうして今、死の危機に瀕している。


 もはや俺はこうして、薄暗いダンジョンで一人、死を待つばかり……否!


 俺は最後の力を振り絞り、腰に差した短剣を鞘からゆっくり抜いてゆく。




『君の多幸と我らの友情を記念して、この短剣を君へ贈ります。陰ながら応援しておりますよ、トーガ・ヒューズ殿。頑張ってくださいね』




 手にした短剣は、先日酒場で一人で飲んでいる時に、意気投合をしたクーベ・チュールという行商人の男からから頂いたものだ。


「アゾット、というのか、この剣は……良い名前だ……」


 刃に打たれた銘からそう読み取れた。柄に綺麗な赤い石が嵌められた美しい短剣だった。

せっかく頂いたアゾットをこんな形で使うことになるとは、思っても見なかった……

いや、むしろ幸運というべきか。


「やる、か……」


 これまで俺は、力がなかったために自ら選ぶことができなかった。

いや、選ぶことを放棄してしまった。劣等感や怪我を言い訳にして、怠惰に過ごしてしまっていた。

結果ずっと脇役の……脇役にすらなれない、道端に転がっている石ころ同然の人生を選んでしまっていた。


「はぁ、はぁ……」


 ならばせめて最期くらいは主役になりたい。

幕引きぐらいは自分で選びたい。

そう思った俺は自害すべく、短剣を思い切り腹へ落とす。


「ぐっ……あああ……がああぁぁぁぁぁーーーー!!!!!」



 苦しみのあまり全身のありとあらゆる穴から、体液が溢れ出てきた。

次第に意識は遠のいて行くものの、焼きごてを腹へ捩じ込まれたかのような痛みが延々と続いている。


「首にしときゃ……よかった、かな……やっぱバカ、なんだな……俺って……」


 視界がかすみ、光や、音、痛みさえも無くなって行く。


ーー次の人生は、もっと幸せになりたい。

また男にしてくれるのなら、今度こそ大事な相手を全力で守りたい。

栄光を掴み取りたい!


 人生の谷間に屈せず、強く、強く、強くありたい!


そう願った瞬間、俺の意識は閉ざされたのだった。


……

……

……



……酷い喉の渇きを覚えた。

次いで水のせせらぎのようなものが耳朶を打つ。


 俺は飛び起きた。

そして一心不乱に水の音を頼りに、足元がゴツゴツとしたどこかを駆け抜けて行く。

 やがてぼんやりとした視界の中。僅かな日差しを浴びて、煌めく泉を発見する。

俺はその泉へ目掛けて、迷うことなく飛び込んだ。


「ぷっ……はぁーー! 気持ちいいー!!」


 たらふく水を飲み、全身に浴びれば気分は爽快だった。

と、その時……


「なんだ、これ……?」


 何十年も泥に塗れ、皮膚が硬くなっていた手が、若い頃の瑞々しさを取り戻していた。

張り出し始めていたお腹も、まるで10代の頃のように、腹筋バキバキに戻っている。

おまけにやや薄くなり、白髪が目立ち始めていた頭髪も、艶やかで黒々したものに変化しているようだ。


 俺は泉の波紋が収まるのをじっと待ち、鏡のようになったそこへ自分の姿を映し出す。


「俺……? しかもこの姿って……!?」


 水面には懐かしい姿が映っていた。

俺が腕を上げてればそいつは同じ行動をし、口を動かせばそいつも同じ口の形をして見せる。

今、目の前に映っているのは間違いなく俺。

しかも、10代の頃、村を飛び出したばかりの若々しい姿だったのだ。


________


こちら第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト参加作品になります。

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