第21話 パン
「そうだね、今回来てくれた開拓民のみんなに戦闘は難しそうだもんね」
「も、申し訳ございません!」
「あっ、コランたちを責めているわけじゃないよ。そもそも開拓民の募集の時にそんな条件は入れていないからね。農業を手伝ってくれているだけで大助かりだよ」
「儂も武器を作るのは得意じゃが、戦闘はできんのう……」
「もちろんギルにも直接戦闘をしてもらうつもりはないから安心して。そもそも戦闘なんてほとんど起きないと思うから、本当に念のためだよ」
今回来てくれた開拓民とドワーフのギルに戦闘をさせるつもりはない。もしかしたら有事の際は後方支援なんかをお願いするかもしれないけれど、戦闘にかかわりのない人が戦闘に参加すると余計に場を混乱させるだけだ。
それに戦闘は先日ここまでやってきたブラックウルフのようにバルトルの森から追いやられた魔物がここまでやって来る可能性が少しあるくらいだ。
「将来的には開拓地の正式な護衛団を組織したいところだね。今回は家畜を捕まえにいくための一時的な戦力が欲しいから、冒険者を雇うのが良さそうかな」
「そうですね、それが良いと思います」
「はい、そちらで良いと思いますよ」
セシルとルーベルが僕の意見に賛成してくれる。
戦闘はほどんど起きないと思うけれど、この開拓地はバルトルの森から近いという懸念点もある。念のためにこの開拓地を守る護衛団はいずれ組織しないといけない。
「それじゃあ開拓がある程度進んだら、ルーベルには悪いけれど、近くの街で冒険者を雇って近くの森で家畜にできそうな魔物を捕まえてきてもらうかな」
「かしこまりました。お任せください」
「戦闘は難しいかもしれませんが、確か私と一緒にこの開拓地へ来たライアムが以前に牧場を手伝っていたと言っておりました」
「本当! 家畜の扱いに慣れているならすごく助かるよ」
「ええ。戦闘はさせませんので、森へ家畜になりそうな魔物を捕まえに行く際、同行してもらえるととても助かりますな。明日話をしてみましょう」
「うん、もちろんライアムの意思を尊重してね。コラン、教えてくれてありがとう」
「い、いえ! 勿体ないお言葉です!」
ライアムは30代後半くらいの男性だ。牧場の経験があるならとてもありがたい。さすがのルーベルやセシルでも家畜を飼う経験はないらしいから、専門の知識があるととても助かる。
「明後日には新しい家屋を建てることができるようになるから、狭い家だけどもう少しだけ我慢してくださいね」
「とんでもないです! 雨風を防げる家があり、あれだけの食事をいただけて、レオル様には本当に感謝しております!」
「僕たちもみなさんがここに来てくれて、本当に助かっているからお互い様です。明日からもよろしくお願いしますね」
「は、はい!」
さすがにコランたちとはまだ完全に打ち解けられていないみたいだけれど、少しずつ仲良くなれればいいな。
「セシルとミーシャにも悪いけれど、もう少しだけ同じ家でお願いするね」
「もちろんでございます。というより、私とミーシャはこのままレオル様と一緒の家で問題ないのですが……」
「さ、さすがにそういう訳にもいかないよ!」
先日のセシルとの会話を思い出す。僕ももう10歳なんだから、セシルやミーシャと一緒に寝るのはいろいろとアウトだろう。
「ふにゅ~」
ミーシャはまぶたを擦ってだいぶ眠たそうだ。さっきから一言も喋らずにウトウトしていたから、だいぶ眠いのだろう。
「それじゃあ今日はこれくらいにしておこう。こんな感じで数日に一度みんなで今後のことを話したいと思っているからよろしくね」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おお、すごい! ついにパンができるようになったんだね!」
「はい。レオル様の仰る通り、小麦という作物を挽いて粉にしたものに水と塩を加えてこねた物を窯で焼いたものがこちらになります。ヴィーレイからできたパンとは色も香りも異なりますが、こちらのほうがおいしいパンに仕上がりました」
開拓民たちを受け入れてから10日間が過ぎた。
小麦という作物自体の成長はとても早く、たったの3日で収穫まですることができたけれど、ウインドウの説明によると収穫した小麦は乾燥する時間が必要だったから、初めてのパンは今日になってしまった。
本当はもっと乾燥する期間が必要だったけれど、ルーベルのアイディアでミーシャの火魔法を使って乾燥の期間を短くすることに成功したのだ。
「うん、おいしい! ヴィーレイのパンよりもおいしいんじゃないかな!」
ヴィーレイはこちらの世界での小麦のような作物で、この小麦という作物のように挽いて粉にしてから水と塩を加えて焼き上げてパンにする。だけど味はこっちの小麦のパンの方がおいしい。それに色も茶色いヴィーレイとは異なって真っ白だから、見た目もこっちの小麦のパンの方がいいかもしれない。
「おお、これはうまい!」
「こ、こんなおいしいパンは初めて食べました!」
「おいしい~!」
どうやらみんなにも好評のようだ。小麦の収穫もそうだけれど、それをパンに仕上げるまでがいろいろと大変だったもんなあ。
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