第11話 たしなみ


「やったね、レオルお兄ちゃん!」


「……うん。ありがとうね、ミーシャ」


 ブラックウルフのほとんどを倒したミーシャは満面の笑みで僕の前に頭を突き出してきた。僕はいつも通りミーシャの頭を撫でてあげる。


「えへへ~」


 ミーシャは祝福によって『火魔法』スキルを授かっている。1年前に祝福を受けたばかりなのに、もうこれほどスキルを使いこなしているから本当にすごいや。


 まだ幼いミーシャがこれほどの魔法を使えるようになるのだから、やっぱり祝福によって得られるスキルの力はとても強大だ。


 それに僕もまさかミーシャがこんなすごいスキルを授かるなんて思ってもいなかった。


「レオル様、お怪我はございませんか?」


「うん。みんなのおかげで大丈夫だよ」


 そもそも戦闘に参加すらしていなかったからね。


 ……それにしても、僕の足はまだ少し震えている。これまで戦闘の訓練はしてきたけれど、実際に魔物と戦ってきたことなんてなかったから、むき出しの殺気を浴びせられてものすごく怖かった。


 セシルの逆手で持ったナイフからはブラックウルフの赤い血が滴り落ちてきている。僕たちを襲ってきたブラックウルフにも、当然僕たちと同じように命があった。これが本物の命のやり取りなんだな……


「ふむ。残念ですが、この魔物は食べることができない魔物のようです。とはいえ、こちらの毛皮や牙などは何らかの素材にもなりそうなので解体しておきましょう」


「う、うん。そうだね」


 切り替えてルーベルの質問に答える。開拓地であれば、こういったことは日常茶飯事になるのかもしれないし、早くなれないといけない。


「それにしても、そんな場所にも魔物は現れるものなのですね」


「大方、バルトルの森から生存競争に負けて森を追われた魔物の集まりでしょう。それでも中々の強さを持っていたから、ミーシャの魔法があったおかげで助かったぞ」


「えへへ~」


 ルーベルにも褒められて喜んでいるミーシャ。なんだか微笑ましくて、少しだけ落ち着いてきた。


「さすがに今回のような魔物が現れることは少ないと思いますが、各自より周囲を警戒するようにしましょう」


「うん、そうだね」


「承知しました」


「了解だよ」


 それにしてもこんなに強そうな魔物ですら、住処を追われるんだ……


 もう少し防衛を強化したいところだけど、現状だとちょっと厳しそうかもしれない。幸いこの辺りの見通しは良いから、ルーベルの言う通り、周囲を警戒しながら作業を進めるとしよう。




「おお~どの野菜も、もう芽が生えてきたね」


 いろんな作業や検証をしていると結構な時間が経っていた。改めて畑を見ると、朝植えたばかりの野菜の種がもう芽吹いている。やっぱりこの開拓者スキルで育てた野菜は成長が滅茶苦茶早い。


 昨日植えたエンドウもぐんぐんと成長して、作ったばかりの支柱に絡まり、つるがどんどん伸びてきている。


「だけど、畑の隣に植えた種は全然成長していないね」


「うん。やっぱりこの畑で育てないと駄目なのかもしれないね。ここが不毛の大地だからかもしれないから、今度別の場所でも試してみよう」


 ミーシャの言う通り、残念だけど畑の横に植えた種はどれもまだ芽を出さなかった。やっぱりあの成長速度は畑のおかげみたいだ。


 とはいえ、まだ少ししか時間が経っていないから、もう少し様子を見てみよう。もしかすると普通の成長速度はあるかもしれないからね。


「レオル様、ブラックウルフの解体が終わりましたよ」


「毛皮の方はしっかりとなめしておきました」


「ありがとう、ルーベル、セシル」


 倒したブラックウルフは2人に解体をしてもらった。毛皮は温かそうだし、鋭い牙や爪なんかは削って矢じりとかにも使えるらしい。ミーシャの火魔法で倒したブラックウルフの素材は結構駄目になっていたけれど、それでもだいぶ素材が取れた。


 食べられないブラックウルフの肉や臓物なんかは穴を掘って埋めた。死骸や野菜の切れ端なんかは土の栄養になるらしい。この不毛の大地にとってはそこまで栄養にならないかもしれないけれど、やっておいて損はないはずだ。


「それにしても、ルーベルもセシルもよく解体なんてできるね」


「執事としての嗜みです」


「メイドとしての嗜みですよ」


「………………」


 いや、僕も執事やメイドのことについては詳しく知らないけれど、絶対に嗜みなんかじゃないと思う……




「うわ~今日の晩ご飯も美味しそうだね」


 僕の目の前には今日の晩ご飯であるパンと炒め物が皿の上に載っている。


「昨日収穫した豆苗とルーベル様が仕留めてくれたワイルドボア、そしてさきほど収穫したを炒めた料理です」


「この白い野菜がもやしですか。こちらも初めて聞く名前の野菜ですな」


 そう、セシルとミーシャが作ってくれた料理には、昨日収穫した豆苗の他にさっき収穫したもやしと大豆が入っている。


 これも豆苗と同じで、どうやら枝豆という植物の種は大豆になるらしい。そしてその大豆を普通に植えるのではなく、特殊な育て方をすると大豆からもやしが育つようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る