第2話 監視
高校に入ると父が病気になり、私のことを全く信用しなくなった。近所のジムにいってくるとジャージをきて出かけても、父は尾行してきた。
部活の終わりに学校の横のスーパーでたこやきを食べていると、父がやってきて私の姿を見て帰った。下校中、父の職場とは正反対の私の学校に向かう父の車を見かけた回数は、かず数えきれない。
毎日、家に着くまで、母からの電話がずっとなり続けた。読みきれない件数のメールが届いた。
どこにいる
いつ終わる
まだか
連絡しろ
早く帰れ
部活を終えてジャージで通学する私の電話が鳴り止む日はなかった。
母にとって、なにもできない弱い父は大切な守るべき存在だった。母が尽くしてあげないと、生きていくことができない。
―母は、私より父を愛した。
「父が病気だから、父が千夏に連絡しろ、確認しろとうるさいから、私は電話をかけるしかない、父が病気だから仕方ない。私のせいじゃない。」
とずっと言われ続けた。
友達の家に泊まりに行くといったら、母は泣きながらヒステリーを起こし「ずるい!」と私に怒りの矛先を向けた。友人の家の電話と住所を言わないと絶対に行かせないと、私に友人の連絡先を書かせた。
友人の母は、「高校生にもなって、お母さんがお泊まり許可の電話してくるなんて」と呆れて失笑した。
翌朝は、当然両親そろってピンポンして迎えにきた。
大好きだった友人とは、それきりになった。
大学は、やりたいことがあると話したが、私みたいな子はその道に向いていないと苦い顔をされた。
その仕事は、母が本当はやりたかった仕事だった。
私が赤ちゃんの時、「育てにくい子」だったから、
私が病気になったから、
母はその夢を、その仕事を諦めたのだと何度もきかされた。
それでも、娘のために、やりたいことはやらせてあげると学費はしぶしぶ出してくれたが、最後まで応援はしてくれなかった。
そして、父と母による私への監視行為は、大学を卒業するまで何年も続いた。
大学を出ると同時に、一切の迷いもなく私は家を出た。
しかしそんな異常な環境に5年も6年もおかれていた私が、普通に生活できるわけがなかった。パニックを起こし、人が怖くて関わることができなくなり、退職し、ニートになった。
母はそんな娘を実家で過ごさせてあげた。
自分がどうなってしまったのかわからないまま、色々調べるうちに、精神科の存在を知った。
勇気を出して、おそるおそる、「病気かもしれない。精神科にいってみる」と母に伝えたら、いつものように私に背を向けて机で仕事をしながら、「そっか」とあしらわれた。
その後、病気の治療をしながら就活をしたが、なかなか就職が決まらず苦しい時期を過ごした。
でも、同じ時に弟も就活をしており、母から返ってくる言葉はいつも決まって弟の就職の心配ばかりだった。
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