共依存Ⅱ
タカナシ トーヤ
第1話 不信
「こんな子に育てた覚えはない。」
「私、育て方間違えた。」
私が思春期の頃、母にいわれた言葉だ。
上は、潔癖の母が、いつまでたっても片付けができない私に、怒りと涙を交えて放った言葉。
下は、反抗期に祖父母宅で不機嫌な私をみて、祖父に申し訳ないと思ったのか、母が、私の前で祖父に愚痴った一言。
人に尽くすことが生きがいの母は、家族のことを、なんでもかんでも全てやってくれます。
料理を教えてもらおうとしても、もたつく私のことが途中から邪魔になり、イライラして、あとはお母さんがやるからもういい、と全部やってくれます。
洗濯を干そうとしても、母のやり方と違うから喜ばれず、全部やってくれます。
私の部屋が散らかっていると母のストレスがたまるから、勝手に私のものを捨てて部屋を綺麗にしてくれます。
そして、「やってあげた」「してあげた」と口癖のように言う。なにひとつ頼んでもないのに。
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母は弟が可愛くて仕方なく、いつも弟の味方だった。
そして幼稚園に通っている妹のことも、片時も手放さず、出かける際は常に窮屈になった抱っこ紐に抱えて歩いていた。
私は、お母さんに甘えたい我儘な自分を心の奥底に封印し、物静かで手がかからない大人しい子どもになった。
勉強も真面目に取り組み、読書が趣味。自己主張せず、感情も表に出さない。
ずっと親に敷かれたレールの上を歩いてきた。
抱っこされたい、褒められたい、そう思っても、「お姉ちゃんなんだから」、口にすることはなかった。
母が私に興味を示すのは、なにかを書いた時だけだった。
なにかを書いていれば、母に認めてもらえる。
私は、幼少期から、暇さえあればずっとなにかを書いていた。絵だったり、文だったり、漫画だったり。
でも、物心ついたころからは、書くものがどんどん捻くれていったので、それを母に見せることはなかった。
中学で、クラスメイトから嫌がらせを受け、我慢の限界がきて、勇気を出して先生に話した。
先生のひいきの女子たちだった。
先生は言った。
「あの子達はいい子だ、あなたのことも心配している。そんなことするわけがない。」
先生は私に笑顔を向けて、その場をあとにした。
クラスにお調子者だがすごく優しい男子Nがいた。
一見不良で、先生に怒られてばかりのNだったが、誰にでも平等に接する。昔から変わらずそうだった。だから、いじめられて転校してきた男子Mとも、ごく普通に仲良くしていた。
転校生のMはみるみる明るくなった。それはNのおかげであるのは明白だったが、親たちの間では、なぜか担任の先生が素晴らしいからだという話になっていた。
私が母に、先生が私の話を信じてくれないと話すと、母も先生と同じように、私ではなく相手のことを信じた。
「あの先生は、Mくんを元気にしてくれた、とってもいい先生なんだよ」
その日から、私の中でなにかが変わった。人に対する不信感がコップの淵から溢れ出し、泥沼のように足元に蓄積されるようになった。
私は、母が怒ることをわざとするようになった。派手な格好をしてみたり、悪いことをしてみたり、父に電話がくれば、女の人じゃない?といった。
弟の
母は、「優悟ちゃんがそんなもの見るわけがない!ゲームをするために決まっている!!」と、ものすごい形相で私に怒りをぶつけた。
ゲームをするのって、偉いことなんだっけか?
弟のパソコンやテレビを買うために、私と弟の共同プレゼントが勝手に売られた。
自宅では、下品で教育に悪いからと、テレビはNHK以外は見ることが禁止されていた。キスシーンのある流行りのドラマなんて、途中で消されてしまうので見れたためしがない。
そういう話が大嫌いな母に私は、鬱憤を晴らすかのように、わざと、家族風呂にいこうとか、セックスって何と聞いたりした。
あの頃、母はさぞ私を憎んで嫌いになっただろう。
高校なんていくつもりはさらさらなかったが、父が行かせたい、くそ真面目なガリ勉高に、勉強を毎日徹夜で教えてくれて、入らせてくれた。
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