獣人の領

第78話

《sideユーダルス・アザマーン》


 ソルトちゃんのおかげで、心を入れ替えてアザマーンへと戻ってきたけれど、これまで私が行ってきた罪深さを気づいていなかったわ。


 思っているよりも私がしてきたことは重罪で、それもコーリアス領に対してだけじゃない。アザマーンでも、その罪は犯していたのね。


「ユーダルスの姉御! お嬢がおりやせんぜ」

「そう、何か手掛かりはあるかしら?」

「怯えるメイドたちだけです」

「連れてきて頂戴」

「へい!」


 これまでは弱肉強食を謳い、強い獣人たちを登用してきたつもりだった。

 だけど、結局は自分に都合の良いバカばかりを登用してきたことはわかる。

 

 そういう男たちは可愛いけれど、今後はハニーのような聡い女性こそがアザマーン領には必要な人材である。


 だけど、ハニーたちには今後の方針を伝えている。


 ソルトちゃんを繋ぎ止めておくためには一人娘であるあの子には頑張ってもらいたいと思っていたけど、父と娘としての溝は深く開いていたのかもしれないわね。


「もっ、申し訳ありません」


 怯えて涙目で謝罪するメイドたち、だけど娘の専属メイドを務めていた者の姿がない? 護衛としてついていったと言うことかしら?


「事情を説明しなさい」

「お嬢様はアザマーンの未来を終わらせると、そのためにアザマーン様を倒せる人材を探すと」

「そう、そう言ったのね」

「……はい」


 私はユーダルス・アザマーン。


 これまで多くの獣人たちをこの手で葬った経験がある。

 それは己の力を示し、野心を抱いていたから。


 だけど、それは娘からすれば危険な思想に見えていたのでしょうね。


「わかったわ。ありがとう」

「へっ?」

「下がりなさい」

「よろしいのですか?」


 涙を浮かべていたメイドは、自分は殺されると思っていたようだ。

 それほどまでに私の業は深い。


「ええ、私はコーリアス領で、ある方に身も心も変えられてしまったの。だから、今後はアザマーンのために動くと決めているの。それはダウトの街のハニーにも伝えてある。そして、次の領主は我が娘、黒豹のライラ・アザマーンを次の領主に任命します。今後はコーリアス領と手に手をとって生きていく。そこに私の存在はいらないの」


 公式な発表として国中に宣言を出した。

 それは現国王様にも正式な書状としてご報告する。


「さぁ、あの子はどこに行ったのかしらね。あの子が戻った時に全てが終わるように準備を進めるわよ」

「「はっ!」」


 さて、あの子とソルトちゃんが会う日が楽しみだわ。


 ♢


《sideソルト》


 旅は道連れ世は情け。


 幼馴染たちとのパーティーを解散して、新たな仲間と冒険者として活動を開始することになるとは思いもしなかった。


 希少種であるフェンリル種の母娘、ルリとアオ。

 コーリアス領第四騎士団副団長クルシュ。

 同じく騎士団所属のメイ。

 エンペラースライム。


 四人と一匹が新しく仲間になって、今の俺たちはアザマーン領に入るためにダウトの街を目指している。


 幼馴染であり緻密のシンシアとして同じ冒険者業を行なっていた仲間が、実は希少属性の時空属性であることを隠していた。


 そして、隠していた理由を尋ねたくても、道化師として姿を変えて何か暗躍している。


 シンシアが王家の墓が復活すると言っていたから、それについての調査を兼ねて、アザマーン領領主ユーダルス・アザマーンにシンシアの話を聞くためアザマーン領を目指していた。


 コーリアス領の領主代行であるラーナ・コーリアス様。

 第四騎士団団長であるフレイナ様。


 二人から、いつかはコーリアスに帰ってきて欲しいという言葉ももらったことで、俺にも帰る場所ができた。


「ワフ」


 夜の星々を見ながら見張りをしていると、いきなりアオが後から抱きついてきた。


「どうかしたのか?」

「主人様がいないから探しにきたの!」

「そうか、ルリたちと寝ていたんじゃないのか?」

「む〜、本当はお母さんも私も二、三日寝なくても大丈夫なの。それに獣化して走ったほうがお馬さんたちよりも早いの」


 フェンリル種のルリとアオは、巨大な狼に獣化ができる。

 青色の毛並みをした美しい。

 だが、希少種である以上は彼女たちを獣化させることはできない。


「さぁ、そんなことよりもそろそろ寝ないといけないんじゃないか?」

「主人様と寝るの?」

「いや、俺は見張りが」

「ふふ、それでしたら私が代わりに見張りをしましょう」

「ルリ!」

「どうか、アオと共に寝てあげてください」

「いや、しかし」

「主人様と寝るの!」


 寝床は、テントと荷馬車の中で分けて用意してある。

 クルシュさんとメイには荷馬車で寝てもらって、アオとルリはテントで寝ていた。

 そして、俺が見張りをしていたが、アオとルリが起きていたので、寝るなら外かテントの中ということになる。


 そして、ルリはアオと俺が結ばれることを望んでいると前に話をしていた。


「ソルト様、事を急いでいるわけではありません。ごく自然にアオとの仲を深めていただくだけで良いのです。アオはまだ子供。そのような知識は持っておりませんゆえ」


 変態紳士であれと言いながらも、上手くルリに転がされているようにも感じるが、外で寝るよりもテントで寝た方が風除けがあり眠りは深くなる。


 休むという意味では、それは悪くない。


「わかった。寝るだけだ」

「はい」

「わ〜い! 主人様と寝るの!」


 アオが嬉しそうにしていると、ルリも嬉しそうな顔をする。


 仲の良い母娘にそんな顔をされては、悪い気はしないので、俺はテントに入った。


「ここは暑いの!」


 そう言ってアオが来ていた服を脱ぎだす。


「なっ!」

「これでいいの! 主人様! 寝るの」


 下着だけになった巨乳でスタイルの良いアオに抱きつかれて眠りにつく。

 互いにクリーンの魔法をかけ、消臭もしているので綺麗で清潔な匂いがテントの中に充満する。


 綺麗になったアオは女性特有の甘い香りがして、色々と妄想してしまうが、俺は自らを律する紳士としてヒーリングを施して眠りについた。


 目が覚めた俺は暑さと体に感じる重みで目を覚ます。


「なっ!?」


 そこには俺に抱きついて眠る、アオとメイの姿があった。


 高身長でグラマラスなアオ。

 小柄ながらもロケットおっぱいを持つメイ。


 二人に抱きしめられながら目覚める。


 コーリアス領を出てから、誰かと隣で寝ることが当たり前になりつつある。


 人は環境に慣れるものだと改めて実感させられる。


 こんな幸福な日々が俺に訪れるとは思っていなかったから、彼女たちを守りたい。


 そのためにも、シンシアがどんな混乱をもたらすのか阻止をしなくちゃいけない。

 それを出来るのは俺だけなんだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 お待たせしました。

 第二章開始していこうと思います。


 どうぞよろしくお願いします。

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