落第聖女は科学魔法で世の中をカラフルに変える

朝風涼

第1話 暗闇の世界から


 ポチャン ポチャン 洞窟に落ちる水滴の音のような水音が聞こえる。私の体から落ちる水の音だ。体が寒くてこごえそう……。膝から下の水は雪解け水のように冷たい……。真っ暗で何も見えない……。


 ここはどこ……?


 ズキズキと頭が痛む。そっと手をやると、パックリ割れた傷口から流れた液体が手に着く。やっぱり血! それにお酒のにおいもするし……。

 

 私はだれなんだろう……?


 両手を前に出して慎重に前に歩いたら、すぐに壁に当たった。手でさわるとレンガのようなものが積まれた壁だとわかる。それに壁が曲がっている。壁はぐるりと回っているようだから、ここは丸い穴の中って事?!


 冷静に考えている場合じゃない。穴の中で水につかって血を流していたら死んでしまう。


 うん? 手を振り回していたら何かに当たった。上から伸びるロープという事は井戸の中?


 見上げたら丸く光が見える。太陽が真上にあるようで、かなり明るく感じる。


「「聖女様ダイジョブですかぁ」」


 上から声がしたけど、聖女様って誰よ……。違和感を感じる。

 私しかいないじゃない! 私が聖女様なわけ?! いやいやいや。ちょっとまって!


「今から助けに行きます。待ってくださいね」


『キュル。キュル。キュル』


 上を見ていたら誰かが降りてきた。助けてもらえそうな気がする。


『ボチャン』


「無事ですか」


 何このイケメンボイス。しかも、さわやかなレモンのような香りがするわ。


「あ。はい。生きています」


 やだ。緊張しちゃってる。

 でも、このままだと、聖女って事になっちゃうよ……。

 でもでも、死にたくないし……このまま成り行きに任せるしかないわよね……。

 でもでもでも、イケメンボイス男性、どんな顔をしているのかな。見てみたい気がする。


「おーい。ご無事だぞ!」


「「おー!」」


 すごい。大声が聞こえる。上にたくさんの人がいるんだ。


「自分とロープで体を縛ります。ご容赦ください」


 え!。男性と密着……。ま、まあ仕方ないわよね。いい匂いだったし、落ち着け私。


「わかったわ」


『グルグルグル』


「痛くありませんか」


「ダイジョブです。がんばります。ありがとう」


『ギュー』


「やっぱり。痛いです」


「正直ですね。しばらくの我慢してください」


「はい。わかりました」


『がっしり』


「えっ!」


 体を密着どころか、前から抱きしめられて、完全に固定されてしまった……。恥ずかしい。


「お~い、引っ張ってくれ」


 イケメンボイス男性がそう言ったら、グイっと上に引っ張られた。


「「そうれ。そうれ。そうれ」」


『キュル。キュル。キュル』


「「そうれ。そうれ。そうれ」」


『キュル。キュル。キュル』

 

 みんなの引っ張っている声が聞こえる。

 私は、片手で抱きしめられて、グイグイと上に引っ張られていく。


 彼がロープの締め付けを気遣ってくれているようで、思ったより痛さを感じない。


 最後は、太陽を直接見ているようにまぶしくて目をつぶってしまった。

 少しずつ、薄目をあけて周りを見渡すと、たくさんの人が私を見ているのがようやく分かった。


「「聖女様ああ!」」


「「よかったああ」」


「お疲れさまでした。不作法でした」


 イケメンボイスが謝罪してきた。そんな事ないのに。レスキュー隊と同じじゃないの……。


「そんな事はありません。助けていただいたのです。こちらこそ、本当にありがとうございました。感謝申し上げます」


 お礼を言って顔をちらりと見てみる。このイケメンボイスの男性。顔もイケメンだ。なんか胸がドキドキする。顔が熱い。恥ずかしくて伏し目がちになる。しかも誠実そう。


 それに、朝凪の湖のような青い瞳に、銀髪の短髪のオールバック……。きれい!

 

 青い瞳に銀髪?! ちょっと待って! なんでよ?!

 

 考えてたら混乱して頭痛もひどくなってくる……。ヤバイなんか倒れそうな気がする……。


 フワッと体が揺れる……。だめだ……倒れる……。


 そう思った瞬間。


「失礼します」


 彼の手が私の後ろにサッと回った。私はお姫様のようにふんわりと抱えあげられてしまう。


「え!?」


 人生初のお姫様抱っこ!


「だれか、ベッドの用意をしてください。急いでサリー様の手当をしないといけない。それに医者の手配を頼む」


 彼が、次々と手配をしていく。


「すみません。よろしくお願いします」


 頭の痛さに目をつぶって耐えていた私は、お願いするしかない。


 そして、彼の腕の中で気を失った。


 


 目が覚めたら天蓋付きのベッドにねている……。天蓋付きベッドは初めてだなあ……とぼんやり考えて周りを見渡す。


 横を見たら、見た目は人のいいおじいさんがいて、その隣にもメイド服を着た女性がいる……。


 天蓋付きベッドに、メイド服!? やっぱり変よ! ちょっとまって!


「気が付かれましたかな。ご気分はいかがでしょうか」


 人のよさそうなおじいさんから声を掛けられた。


 やっぱりここはどこ?! まさかの……。


――――――――――――――――――――


見つけてくれて、読んでくれてありがとうございます。

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