第11話 アホの子

「~♪~♪」


どうしたんです? 随分とご機嫌ですねエタナ様。

鼻歌を歌ってクルクルと、怠惰の箱舟最下層命の終わりフロアの闇のなかで踊っているエタナに箱舟本店最高責任者の黄金のスライムであるダストが話しかけた。


「あのレトロゲーム機の修理を受けてくれるとこを見つけたんだ、ぼろくて汚くて執念があちこちに籠ってて実に素晴らしいとこだったぞ」


「うちから販売されてるゲーム機なんだから、うちで頼めば良かったじゃないですか……」


「何でもうちでやってたら、魔国の外部企業が育たんではないか」



(いや、連合に組み込んで少しでも労働環境の改善とかやりたいんですって!)



「いつの間に、図面や部品出す許可なんかしたんです?」


「お前の机から、お前の印鑑と正式書類勝手に拝借したが?」


「おぃぃぃぃぃぃぃぃ! 、せめて自分の印鑑と書類でやって下さいよ!!」


こてんと、首を倒す幼女。上に伸び縮みをしながら、ぷりぷりと怒るダスト。


「それでは、責任が私にくるではないか!」「ホント、勘弁してくださいよ」


(まぁ貴女がいいっていうなら、問題は何にもないんですがやられるこっちは結構たまらないですよそれ)


「というか、魔族の唯一神にして。我が箱舟連合本店特別顧問の割にやる事がせこくて狡くないですか?」


「しらんなぁ」


「ったく……、判りましたよ俺の責任でやっときます。後で、内部から何で俺達にやらせてくれなかったんだって文句来たら貴女の指示だってぶん投げますからね!」


らじゃーと短く返事する幼女、いつも幼女の奇行に苦労させられているダスト。

外へのサポートは切られていても、一応内部のゲームセンター竜屋やレトロ玩具センターおたから屋等の為に千年前のモノですら権利を箱舟がもっているモノなら修理可能状態で残している。無論部品は全て検品済みであり、誰でも習得できる修理動画は様々な媒体で見れるように取り揃えている。


その、本店の努力すらこの我儘な幼女には関係ないとばかりに。



そう、アクシスの心を折った魔神の名は光無。そして、その主人はこのエタナだ。


「もし、あの修理屋の修理が私の眼に叶うなら。協力会社としての打診をしてほしい」


その言葉に、ダストの表情が引き締まる。


「それ程ですか? 秘密工場のアクシスは」「中々面白い男だよ、まぁきっかけは褒められたものでもないが」


「きっかけはどうであれ、貴女に直接手渡されたってのは中々ない事ですよ」


「子供がゲーム機壊れて泣いていたから、専門でもないのに引き受けたんだぞあいつ」


私はエタナを名乗って、ウソ泣きして手渡して来たんだが。


「まぁ、貴女がエノだって知ってるのは上層部が殆どですからね。知られたらそれはそれで大問題ですが」


「私の隠者の権能を見破れるのは、私以上の存在しかおらん。それはそうとして、奴は本当にすごいな。ワザと配線シートは渡さない指示をしたんだが、文句ひとつ言わずシートを手作りし始めているぞ」


「しっかり、全部ここから見てるじゃないですか」「私を誰だと思ってるんだダスト」


「俺の机から、勝手に書類と印鑑拝借するダメ幼女です」


「しらんなぁ」


「ったく……、貴女って神は」


ダストが、貫頭衣と指抜きグローブの額に眼のある幼女を見た。


(俺なんかより、貴女の方が信頼も力もあるんですからもうちょっと自分の責任でやって欲しい)


「今、私の責任でやれとか思わなかったか?」

「思いましたけど?」


幼女とスライムが見つめ合う、そして二人でぷっと噴き出した。


「協力会社に、なってもらえるといいなダスト」

「そうですね、久しぶりに貴女が直接行くほど認めた方ならなってもらえなくても信用としては十分です」


「大路には、協力会社を資金面で不自由させるなと言ってみるか」

「あのクソ爺は貴女の言葉だと張り切り過ぎるのでやめてあげて下さい。バレますよ?少なくとも箱舟特別顧問の肩書の方は間違いなく、貴女とちがってアホの子じゃないんですから世間様は」


そうか、と優しく微笑む。


「では、ダスト。修理品を取りに行かせるのは光無にしてみるのはどうだろうか?」


その言葉に、やめてあげて下さいとだけ言うとスライムがぴょこんと椅子から降りた。


「俺は、まだまだ仕事ありますんでこれで失礼します」


そういうと、命の終わりフロアの外へはねながら出ていった。


エタナは、精がでるなと苦笑し。


「ちゃんと、自分で行くさ。そうだな、台詞はおじちゃんありがとうぐらいがいい」



そういうと、いつもの様に背中の腰に拳を握って背筋を伸ばし。


「そうだ、私は結果は問わない。誠意と勤勉さえあれば、私には全てを思い通りにする力がある故」



(人を救うのはいつでも人、神であってはならん)



人を苦しめるのも又人故、世から悪意も苦しみも消える事は無い。



神など屑でクソだ、私がそうであるように。




「お前の仕事を、ここから全て見せてもらう。お前の魂をこの闇の底から。お前の誠意と執念すらも私の眼には映っているよ。お前の心の声すら、私には聞こえている。お前が寒さに凍えた日も、脱水で倒れた日の事も」




(お前だけではなく、本当は全てが見えている)

(聞こえないフリ、見ないフリをするのも楽ではない)




彼女はエタナにして、闇の底に存在する闇属性の頂点。

世界樹を始めとするこの世のシステムを司る意思にして、力の権化たる魔族の主神。

箱舟連合本店特別顧問にして、ダストの仕事を増やす神乃屑。



アホの子にして位階神、エターナルニート・エノ。



「お前が石で、錆びを落とし。お前が初めての仕事で少女のぬいぐるみを修理した時、やはり不慣れでまち針で二回指を刺した事もここから見ていた」



お前の修理を、お前の勤勉を見るのが楽しくて仕方なかった。

お前はいつも、直った時に一番いい顔をする。



「頑張れと言葉をかける事すら、私がすれば不和となる。ならば、想う事くらいはいいだろう。正体を隠し、修理を頼むくらいはいいだろう」


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