第120話 アーサー、ヘンリー「え? あんなのと戦うの?」


 ユキとロナルドは演習場中央にいるジェニー先生のもとに行くと、静かに対戦相手を待っている。

 ユキは相変わらず、目を閉じているし、ロナルドも余裕はありそうだった。


「こんなに人がいて注目されているのに動揺はなさそうだね。午前中は明らかに緊張した子もいたのに」


 確かに午前中にそういう生徒もいた。


「ロナルドは飄々としていますし、ユキに至っては当主ですからね」

「僕より年下とは思えない2人だね」


 先輩は先輩で暗部っぽくないんだよなー……


「トウコ様とユイカさんも出てこられましたね」


 クロエが言うように別の出入口からトウコとユイカが出てきた。

 トウコはシャルリスペクトの運動着であり、ユイカは紺のハーフパンツにTシャツだった。

 というか、ユイカは体操服にしか見えない。


「ユイカさんの格好は何?」


 シャルも気になったようだ。


「多分、体操服だな。ウチの学園にそんなものはないし、中学のとかじゃないか?」


 俺達が通ってた中学もあんな感じだった。


「他にないのかしら?」

「あいつはアクロバティックに動くからな。制服だとスカートだし、本業の服装はちょっとえっちらしい」

「それであれ……別にいいけどさ」


 シャルがちょっと呆れていると、2人も先生のもとに行く。

 先生が4人に何かをしゃべると、ユキとトウコが後ろに下がっていき、ユイカが双剣を取り出した。


「ユキさんとトウコさんが後衛みたいね。トウコさんが下がるとは思わなかったわ」


 俺も思わなかった。

 あいつらは2人で前衛をすると思っていた。


「間違ってはいませんよ。あの2人もロナルドさんとユキさんがどういう戦い方をするのかわかっていませんし、様子見でしょう」


 クロエがシャルに説明する。


「トウコさんもちゃんと考えられるのね」

「そうでもない。あれは悪手だ」


 やっぱり勉強ができるだけのアホだわ。


「え? そうなの?」


 シャルが聞いてくる。


「ユイカはともかく、トウコは前衛も後衛もできる。俺ならその場合、前衛をやる」

「なんで?」

「敵に塩を送ることをしないからだ。この場合の敵は俺達な」

「あー、そういうこと……確かに私達にとっては参考になるわね」


 俺とシャルは特化型ゆえに戦法が俺が前衛でシャルが後衛の1つしかない。

 それと同じスタイルを取るのは俺達が得するだけだ。


「優勝という概念がないから問題はないですけどね。単純にお嬢様方に賭けている人達がラッキーなだけです」


 アンディ先輩な。


「とにかく、俺達の参考になることは確かだ。よーく見ておこう」

「そうね」


 シャルが頷くと、ジェニー先生の手が上がった。


「それでは午後の部の初戦、トウコ、ユイカチームとロナルド、ユキチームの演習を始めます!」


 先生がそう告げて手を下ろした瞬間、ユイカが目にも止まらぬスピードでロナルドに斬りかかる。

 ロナルドはユイカの初撃を身をずらして躱すと、槍を突き、反撃した。

 しかし、ユイカはその突きを簡単に躱し、ロナルドの懐に入る。


「速っ」

「あれがユイカさんのスピードです。お嬢様も覚えておいてください」


 クロエがそう忠告している間にもユイカが双剣でロナルドを攻撃していた。

 しかし、ロナルドは槍の柄を上手く使い、受け流している。


「ロナルドさんは慣れていますね」

「リーチが長い分、近づかれての小さい攻撃が弱点かと思ったが、そうでもなさそうだな」


 ロナルドはユイカのスピードについてきているし、十分に対処している。

 これは強いわ。

 そして、俺も苦労しそうだ。


「うぉっ!」


 ロナルドが声を出す。

 それもそのはずであり、ユイカがスピードをさらに上げたのだ。


「速すぎじゃない?」

「まだ上がりそうですよ」


 クロエが言うようにユイカのスピードが徐々に上がっていく。

 それでもロナルドは躱したり、槍で上手く受け流していたが、徐々に後ろに下がり始めた。

 すると、後方のユキが両手を広げ、手を胸の位置くらいまでに上げる。


「ん? 何だ?」


 俺が首を傾げると同時にユキの上空に無数の白い剣が現れた。


「あれが具現化魔法よ。魔力で物質を構築する。そして……」

「千剣!」


 シャルが説明してくれた途端、無数の剣が発射され、ユイカを襲う。

 ユイカが飛んできた剣を巧みに躱していたが、ロナルドが隙をついて突いた槍をジャンプして躱してしまった。

 すると、複数の剣が方向を変え、上空にいるユイカ目掛けて、一斉に飛んでくる。


「アイスエッジ!」


 トウコが魔法を使うと、複数の氷の刃がユイカに当たりそうだった剣を砕いた。


「シャル、あれを頼むわ」

「わかった」


 シャルが頷く。


「しかし、すげー攻撃だな。マチアスのまっすぐしか飛んでこない魔法とは大違いだわ」


 速いし、剣の軌道が途中で変わっていた。


「あれは具現化魔法、浮遊魔法、操作魔法の合わせ技です。非常に高度であり、魔力消費も大きい。ですが、それを涼しい顔でこなしています。相当、魔力が高く、優れた魔法使いでしょうね」


 クロエが解説してくれた。


「魔力はそんなに高いようには見えないけど? 私とどっこいどっこいよ」


 俺もそう思う。


「魔力を隠していますね。日本の魔法使いは歴史的にその傾向があります」

「なるほど……」


 シャルは納得しているようだが、俺にはまったくわからない。


「歴史って?」

「なんであなたが知らないのよ……江戸時代に鎖国とキリシタンの弾圧があったでしょ。その影響」


 へー……あったっけ?


「なるほどねー」

「やっぱり歴史取ったら? 金曜の午後は無理だろうけど、他のクラスのやつなら受けられるでしょ」

「やだ」


 歴史嫌い!





――――――――――――


明日も投稿します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る