第113話 だいじょばない
シャルの特訓は夕方前まで続いた。
途中、昼休憩なども挟みつつだったが、シャルは必死にクロエから逃げていた。
今日は日曜なため、夕方前に帰ることにした俺達は学園に戻ると、学園に部屋があるミシェルさんと別れる。
そして、男子寮と女子寮の分岐点でシャルとクロエと別れると、男子寮に向かい、2階に上がった。
「ちょっといいか?」
自分の部屋に入ろうとしてドアノブを握ると、男の声がしたので振り向く。
すると、制服を着た2人の男子が俺を見ていた。
「何? どちら様?」
絶対に知り合いではないな。
「知らんか……いやまあ、そうだろうな。俺はCクラスのアーサーだ。アーサー・ジー」
Cクラスのアーサー……
対戦相手か。
となると……
「俺は同じくCクラスのヘンリーだ」
もう一人の男を見ると、自己紹介をしてくれた。
「どうも。お互い、まさかの初戦だけど頑張ろうな」
「そうだな。まさか初戦になるとは思わなかった」
アーサーがふっと笑う。
「緊張するなよ」
「せんわ。それよりもちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「何?」
「お前、会長とどういう関係だ?」
あー、そっちかー。
魔法大会の探りかと思ったわ。
「友達」
「友達? Dクラスなのにか?」
派閥か……
「関係あるか? 俺は自由派なんかになった覚えはないし、血統派にも興味ない。お前は同じ派閥にしか友達がおらんのか? 地元にも魔法使いじゃない友達くらいはいるだろ」
こいつの地元がどこかは知らんが。
「まあ、確かにそうだな。しかし、会長が特定の人間と仲良くしているなんて聞いたことないんでな」
シャル……
クラスメイトにも友達いないって思われてるじゃん。
「お前が知らんだけだろ」
「そのようだな……まあいい。マチアスとの決闘を見ていた。素晴らしい魔力と武術だと思う」
「どうも……」
褒めているとは思えんな。
「俺はマチアスみたいな油断はしない。勝つのは俺達だ」
ふーん……
油断ねぇ?
「頑張ってくれ」
「ふん。それだけだ」
アーサーはそう言うと、相方を残して奥の方に行ってしまった。
「宣戦布告ということでいいか?」
残っているヘンリーに聞く。
「そうだな。そう取ってもらって構わない。正直、俺はクラスメイトの女子と戦うのは嫌だからやる気はあまりないんだがな。でも、友がやる気だし、全力を尽くす」
女子と戦うのが嫌……ね。
「まあ、よくわからんが、お互いベストを尽くそう」
「そうだな。では、俺もこれで失礼する」
ヘンリーはそう言うと、アーサーと同じく、奥に向かって歩いていったのだが、途中で立ち止まった。
「どうした?」
「お前は先ほど、友情にクラスも派閥も関係ないと言ったな?」
「そうだな」
派閥が不要なものとまでは言わないが、そんなものは思想にすぎない。
「その通りだ。マチアスのバカが間違っているんだよ。でも、お前は絶対にアーサーとは友達になれないな」
「別に人類が皆友達になるべきとは言ってないぞ。相性もあるし、好き嫌いはある」
マチアス嫌いだし。
「そういう意味じゃないさ……まあいい」
ヘンリーはふっと笑うと奥へと歩いていった。
「何だよ……」
わけわからんなと思いつつ、自室の扉を開け、我が家に帰る。
時計を見ると、まだ昼の2時だったので漫画を読みながら時間を潰していった。
そして、夕方になり、母さんが呼んだのでトウコとリビングに下り、家族4人で夕食を食べる。
「ツカサ、トウコ。今年の魔法大会はかなり変更があったようですね?」
母さんが味噌汁を一口飲むと、聞いてきた。
「そうだな」
「うん。タッグ戦。私はユイカと組む」
俺とトウコが頷く。
「そうですか……学園も色々変わっていくんですね」
ババアみてー。
「お母さん、そういうことは言わない方が良いよ。本当に歳を取っちゃうよ」
「そうですね……気を付けないと」
こいつらが何を言っているかわからないの俺だけ?
歳は取るだろ。
もしかして、永遠の?
「母さん、魔法大会がどうしたの? テスト以外の学園のことを聞いてくるなんて珍しいじゃん」
母さんも父さんもあまり学園のことを聞いてこないのだ。
「ええ。今回の変更のことでラ・フォルジュの家でも首を傾げる声が多かったみたいなんですよ」
「シャルはラ・フォルジュの陰謀だーって被害妄想をまき散らしてたぞ」
「……シャルリーヌさんはどうしたんですか?」
母さんが眉をひそめる。
「まあ、トウコと戦いたくない感じ。ポーション作りが趣味の研究職の人だもん。それなのに武家」
「戦うの?」
「最終日の最後にトウコとぶつかる」
「お気の毒に……」
さすがの母さんも同情したようだ。
この人も戦いが不得手の人だから気持ちがわかるのだろう。
「実際、ラ・フォルジュは関係ないんだよね?」
「そうですね。それでちょっと気になったらしく、エリク君が来られるそうですよ」
え?
「おー、エリク君」
「んー? お母さん、来るって? パリからアストラルに行くの?」
トウコが母さんに聞く。
「いや、2人の顔を見にこちらに来るそうです。少しの間、こっちに滞在するそうですね」
泊まるのか。
「わざわざ来るの? アストラルでも会えるのに」
「なんか別の仕事もあるそうです。あと、2人が兄妹であることを隠していることを聞いたらしく、こっちで会った方が良いだろうって言ってましたね」
エリク君は本当に良い人だなー。
これならラ・フォルジュも安泰だろう。
「エリク君、いつ来るの?」
「数日後には来るそうです。魔法大会を見たいって言ってましたから」
へー、楽しみだなー。
「トウコが敗北するところを見せてやろう」
「下剋上を見せてやるよ。勝ったら私がお姉ちゃんな」
それ、下剋上か?
「…………え? あなた達、戦うんですか?」
おしんこに箸を伸ばしていた母さんが驚いて顔を上げる。
「オーラスって言ったじゃん」
「いや、それはシャルリーヌさんでしょ」
「だから俺とシャルがトウコとユイカを倒すの」
極悪コンビを倒す!
「……あなた、シャルリーヌさんと組んだの?」
「だって、可哀想だったんだもん」
「……エリク君に何て言うの?」
あれ?
「んー? どうにかなるでしょ」
イヴェールの次期当主とラ・フォルジュの次期当主だけど、大丈夫、大丈夫。
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