第112話 鬼ごっこ?


 転移の魔法陣で湖にやってくると、シャル、クロエ、ミシェルさんがすでに来ていた。

 どうやらフランクとセドリックと話をしていたせいで遅れたっぽい。


「遅れてごめん」

「あなたの家は遠いから仕方がないでしょう。それでクロエ、何をするの?」


 シャルが頷いた後にクロエに聞く。


「では、こちらに……」


 クロエがそう言って森の中に入っていったので俺達も続く。

 そして、クロエがちょっと奥に入ったところで立ち止まった。


「この辺りでいいでしょう。

「ねえ、クロエ、本当に何するの?」

「そんな難しいことではありませんね。鬼ごっこです」


 子供の頃やったなー。


「鬼ごっこ? なんで?」

「単純に逃げる訓練だからです。私をトウコ様かユイカさんと思ってください。捕まった時点でアウトです。トウコ様に首の骨を折られるかユイカさんに斬り殺されるかです」

「えー……そんなのやるの?」

「もちろんです。範囲は演習場と同じで半径50メートルといったところです」


 演習場もそんなものだった気がする。


「狭くない?」

「実際の演習場はここと違って木などの遮蔽物もありません。助けになるのはツカサ様だけなことを覚えておいてください。そして、魔法大会は2対2です。もし、一人がツカサ様を足止めした場合、お嬢様は一人でトウコ様かユイカさんのどちらかを相手にしないといけません。そのための訓練です」


 大丈夫かね?


「まあ、わかるけど……」

「実際にやってみましょう。さあ、逃げてください、うさぎちゃん」

「誰がうさぎよ!」


 シャルはそう言いつつも走り出した。


「背を向けるなよ……」


 ぼそっとつぶやくと、隣にいたクロエが消えた。

 そして、逃げるシャルの上に現れると、シャルの上に乗っかり、地面に押さえつける。


「ぐえっ! って、ずるくない!?」


 うつ伏せで倒れたシャルが顔を上げてクロエに文句を言う。


「鬼ごっことは言いましたが、これは戦いの訓練です。敵に背を向けるなんてお嬢様は本当にうさぎですか……飛行魔法でも転移魔法でもいいのでこちらの攻撃を躱してください」

「先に言いなさいよ!」

「いや、わかるでしょ……」


 わかるよなぁ……


「もう一回よ」

「はい。では、どうぞ」


 シャルは起き上がると、クロエと対峙する。

 そして、転移魔法で10メートルほど下がった。


「そこは間合いの範疇ですよ」


 クロエがそう言うと、ものすごいスピードでシャルに近づいていく。

 シャルは慌てて逃げようとするが、腕を掴まれ、そのまま投げられてしまう。


「速すぎよ!」

「うーん……やっぱりひどい。ツカサ様は甘々ですねー。もうちょっと厳しく教えるべきでしょう」


 いや、厳しくしたら続かないだろ。


「シャル、トウコもユイカもそのぐらいは動くぞ。マジでもうちょっと距離を取れ」

「そういえば、トウコさんは簡単に距離を潰してきたわね」


 シャルはぶつぶつ言いながらも立ち上がる。


「では、行きますよー」

「来なさいっ」


 シャルがまたもや転移で距離を取ると、クロエが突っ込んでいく。

 すると、シャルが今度は上空に逃げた。


「どうですかねー?」


 クロエが聞いてくる。


「トウコもユイカも飛行魔法は使わん」


 ユイカは使えないんだけど。


「でも、ユイカはそのくらい飛べるわよ」


 ミシェルさんがそう言うと、クロエがジャンプし、シャルの足を掴んだ。


「え!? おかしくない!?」


 クロエはそのままシャルの足を引っ張ると、シャルが地面に落ちていき、クロエに捕まった。


「おかしいってー!」

「ユイカさんはこれくらいならできるそうです」

「絶対におかしいって……」


 シャルはそう言いつつも立ち上がり、特訓を再開した。


「ミシェルさん、ユイカのことを知ってるんですか?」


 ちょっと詳しい気がする。

 よく考えたらこの人、ユイカのことを呼び捨てだし。


「あの子も一応、暗部なのよ」

「へー……え!?」


 そうなの!?


「あの子の家ってそういう家だから入学してすぐに勧誘したわけ。そしたら二つ返事だった」

「じゃあ、あいつが護衛でいいじゃないですか」


 護衛の任を全うできるか微妙だけど。


「それがねー……一応って言ったでしょ? 今は仕事を後回しでいいから勉強を優先しろってことになってる。だから席があるだけね」


 あっ……


「勧誘したはいいけど、そんな仕事をできる状態じゃなかったんですね?」

「そういうこと。勧誘して研修をしたんだけど、その時に『術式って何?』って聞かれて頭を抱えたわ。それで暗部内で話し合って、当面は授業に集中してもらおうってことになった」


 なるほど……


「確かにそれは学業を優先すべきですね」


 わかる、わかる。

 俺もだもん。


「そういうこと。だからユイカの実力はわかってる…………あれ、無理じゃない?」


 ミシェルさんがまたしてもクロエに捕まって倒されるシャルを指差す。


「やらないよりはいいでしょ。1秒でもいいから時間を稼いでほしいですね」

「まあねー。しかし、可哀想だわ。シャルリーヌさん、遠距離型の魔法使いなのに……」

「普通なら俺が守ればいいんでしょうけど、トウコとユイカ相手ではきついです」


 ちょっと無理。

 そもそも俺、素手だし。


「ツカサ君は特訓とかしないの?」

「俺の特訓はこの魔法大会が終わった後ですね。テストです」

「あ、なるほど……となると、ユイカもか」


 そうなるね。

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