第092話 お義姉ちゃーん


 よくわからないが、俺に護衛がついたようなのでよろしくお願いしますと言って、家に帰った。

 そして、夕食を食べ終え、自室でゆっくりと過ごしていると、トウコがノックもせずに部屋に入ってくる。


「お兄ちゃーん、今日はどうだったー?」

「何が?」

「会長の家に行ったんでしょ? 土曜じゃないのに家に行くなんて、もはや完全に付き合ってんじゃん」


 もし、そうだとしても、兄のそれに興味あるか?

 俺はお前のそれに一切、興味ないぞ。


「今日はシャルが錬金術を見せてくれたんだよ」

「会長って自分の趣味を押しつける女だったんだね……」


 いやー、あれは自分が楽しいと思うことは相手も楽しいだろうというやつだ。


「皆、そんなもんだろ。俺だって、シャルに武術を教えながら自慢してるし」

「それはちょっと違うような……」


 一緒、一緒。


「それで? お前はどうだったんだ? 今日も森に行ったんだろ?」


 日課の熊狩り。


「全っ然! あの森に熊っていないんじゃない!?」


 相当、嫌われているんじゃないかな?


「前のめりすぎて熊がビビってんじゃね? なんかヤバそうなのがいるーって」

「なんで!? 私、ヤバくないよ! 白い貝殻の小さなイヤリングを落とすよ!?」


 何だっけ、それ?


「よくわからんが、諦めたら? というか、イルメラ達を付き合わせるなよ。迷惑だぞ」

「うえーん、お兄ちゃんが正論を言うー」


 うぜっ。


「前のめりそうなユイカと行けよ」

「それなんだけどさー、今日の夕方に皆で話し合ったわけ」

「何て? もうやめよって?」


 言い出したのはノエルかな?


「いや、場所を変えようって」

「場所?」

「そう。あそこの森の他にも狩場はあって、セーフティーポイントもあるんだよ」


 あー……そういえば、フランクもまずはあそこの森って言ってたな。

 当然、他にもあるわけだ。


「なるほどな」

「うん。それでさ、イルメラが次に行くのは山か川のどっちかがいいんじゃないかって言うわけ」

「山? 川?」


 自然だなー。

 夏だし、キャンプでもできるんじゃない?


「えーっと、山が変な鳥がいて、川がトカゲだって」


 そりゃ山に鳥もいるし、川にトカゲもいるだろうけど……


「魔物か?」

「そうそう。どっちも大きいんだって。しかも、売れる」

「へー……どっちに行くんだ?」

「それだよ、それ。お兄ちゃんもそろそろ森を卒業じゃない? そうするとさ、私達で行くところを分けた方が良い気がするの」


 なるほど。

 今までは日にちをずらすという面倒なことをしていたが、行く場所を変えればそういうのもなくなるわけだ。


「お前、賢いな。さすがは俺の妹。遺伝子レベルで一緒」


 多分。


「でしょー。でね、でね、お兄ちゃんは鳥が苦手だと思うの」

「まあ、俺は投石しか遠距離攻撃ができないしな」


 トウコは魔法がある。


「うん、そういうこと。だから私が山に行くからお兄ちゃんは川に行って」


 まあ、そうなるのか?


「え? ユイカは?」


 あいつも魔法を使えんだろ。


「ユイカには指弾という恐ろしい技がある。夕方に見せてもらったけど、木に穴が開いてた」


 漫画のキャラか、あいつ?


「うーん、川ねー……」

「というかね、ノエルがトカゲは嫌だって言ってるからもう山に行くことになっちゃってる」


 あー、女子は嫌いな人が多いかもしれんな。


「じゃあ、まあ、わかった。俺が川でお前が山な」

「そうそう。それでさー、私、空を飛ぶ魔法を覚えたいんだよね」


 空を飛ぶ?


「箒でも跨るか?」

「魔法使いのイメージはそれだけどさ……ほら、会長が飛んでたじゃん」


 確かに決闘の時に飛んでたな。

 しかも、ワープしてた。


「あったな」

「鳥を相手にするわけだし、私もあれを使えるようになりたいわけ。それでさー、お兄ちゃん、頼んでよ」

「誰に? 何を?」

「お義姉ちゃんに、教えてって」


 俺が?


「自分で頼めよ、トウコ・ラ・フォルジュさん」

「それがあるから頼みにくいんじゃーん」


 じゃあ、無理だろ。


「聞いてみるのはできるが、首を縦に振らないと思うぞ。ラ・フォルジュ、イヴェールのこともあるが、それ以前にお前ら、1年のライバル同士じゃん」


 シャルは二度と戦わないって言ってたけど。


「お互いを高め合うのがライバルだと思うの。ソースは漫画!」


 少年漫画かな?


「じゃあ、お前も何か差し出せよ」

「もちろんだよ。私はとっておきの魔法を教える」

「ちなみに、どんなの?」

「なんとね! 水の上を歩く魔法!」


 ……それ、いる?


「シャルは飛べるからいらねーだろ」

「いるよ! 強キャラ感マックスでしょ! 想像してみて! 空から飛んでくるキャラと水の上を歩いて近づいてくるキャラだとどっちが強そう?」


 うーん、まあ、水の上を歩く方かなー……


「なんでそんな魔法を覚えたんだ?」

「お風呂で思いついて練習してた!」


 だから長風呂なんかい……


「くだらないことしてないで早く上がれよ。もしくは、俺が先に入る」

「お兄ちゃんの後は嫌ー」


 思春期はうざいなー。


「はいはい。それでそれを差し出すから教えろって?」

「そうそう。聞いてみて、聞いてみて。私、会長の電話番号知らないし」

「じゃあ、ちょっと電話してみるわー」


 スマホを取り、シャルに電話をしてみる。

 すると、数コールで呼び出し音が止まった。


『もしもし?』

「あ、シャル? 夜にごめーん」

『いえいえ……でも、どうしたの? さっきまで会ってたのに』

「……もう彼女のセリフにしか聞こえないね」


 ちょっと黙ってろ。


『何かいるわね……』


 トウコの声が聞こえたようだ。


「トウコだな。ちょっとお願いがあるんだって」

『お願い? トウコさんが? 何味のポーションが欲しいの?』


 そればっかりだな。


「会長、それしかないの?」

『違うのか……じゃあ、何?』


 ちょっとテンションが落ちたな……


「今度、山に行って、鳥を狩ろうと思っているんだー」

『山? あー、アストラルの話ね。今度は鳥なの? 熊は?』

「白い貝殻の小さなイヤリングを落としても出てこなかったよ……」

『白い貝殻? イヤリング? あー、童謡か……わかりづらっ!』


 さっきのは童謡だったようだ。


「それでさー、鳥を狩るために空を飛びたいんだ。会長、空を飛ぶ魔法を教えて」

『嫌』


 ほらね。


「即答はひどいよー」

『なんであなたに教えないといけないのよ。どうせそれを使って私をボコる気でしょ』


 なんて奴だ!


「ボコんないよー。逃げた会長を飛んで追い詰めたりしないよー」


 ノリで言っているんだろうけど、逆効果すぎるな。


『ほら、見なさい。今度の魔法大会でこの前の復讐をする気でしょ。でも、おあいにくさま。私は生徒会長だから審判よ』


 ん? 何それ?

 うーん……

 せーの……


「「魔法大会って何? 何言ってんの?」」


 はい、ぴったり!


『また合わせてきた……』


 もう笑ってくれなくなったなー……

 飽きたみたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る