第091話 うへへです!


 俺はミシェルさんからもらったコーヒーを一口飲む。


「まずだけど、事の顛末は今週のどこかで校長先生から話があると思うからそこで聞いてくれる?」

「ミシェルさんが説明してくれるんじゃないんですか?」

「してもいいけど、学園の方針とか口止めとかもあるでしょうからそっちで聞いて。私は暗部として決まったことを伝えに来たの」


 暗部として?


「何かあるんですか?」

「アンディから聞いたけど、ツカサ君は別の町から狙われているっぽいね」

「ウォーレス先生からもジョアン先輩からも誘われましたね。断りましたけど」


 無理やり魔力を奪おうとする人と泥人形は嫌だわ。


「断ってくれてありがとうって言うわ」

「いや、家族がいるじゃん」


 俺、あんな両親と妹だけど、好きだよ?

 爺ちゃんも婆ちゃんも。

 なんでそれを捨てなきゃいけないんだよ。


「まあね……ツカサ君の魔力は大きい。これは本当。私はあなたよりも魔力を持っている人を見たことがない」


 俺もこの前のドーピング先生以外は知らない。


「魔力だけですけどね」

「それが大事なのよ」


 例のやつね。


「全然、モテてる気配ないなー……」


 イルメラとユイカと森デートしたけど、完全に熊をおびき寄せるエサ要因だった。


「まあ、これは当人達というより、親や家が考えることだからね。若いうちは子供のことなんか考えないし、むしろ、向上心が強いから自分より優れた魔法使いの誕生を望むわけない。というかね、普通は良い魔法使いが生まれてくる可能性が高いからってだけで付き合わないわよ。男女問わず、好きな人と一緒になりたい」


 そりゃそうだ。


「確かに俺が知ってる学園の中で一番魔力が高いのはユイカだけど、シャルの方が良いなー」


 もちろん、トウコは除外ね。


「この話はやめましょうか……とにかく、ツカサ君は魔力が高いことで他所の町から狙われていることがわかった」

「実際、どうなの? 本当に狙われている? あのスパイコンビだけじゃない?」


 禁忌を犯している2人。


「それがわからないの。もしかしたら町ぐるみで狙っている可能性もある。そうなると、今後もツカサ君を狙ってくる可能性も否定できない。それはちょっとマズいわけ」

「そりゃ俺はマズいけど、暗部というか、運営委員会もマズいわけ?」

「運営委員会というよりもウチの上層部ね。運営委員会を簡単に説明するけど、運営委員会っていうのは各町の中から1名ずつ選出される。それと別の権威を持った魔法使いで構成されているのよ」


 そうなんだ……


「各町の中から1名って町長的な?」

「そうね」

「別の権威を持った魔法使いって?」

「町とは関係なく、運営に必要とされている魔法使いよ。基本的に名のある魔法使いか実力者ね。一応、まだ席はあるけど、あなたのお爺様がその1人よ」


 長瀬の爺ちゃんかー。

 一応という言葉がついているのはヤバい腕輪を盗んで孫にあげたからだな。

 爺ちゃん、今頃、何してんだろ?


「へー……爺ちゃんってすごいんだなー」

「よくそんな感想を頂けるわね……」


 ミシェルさんが俺の腕輪をじーっと見る。


「知っているんだ?」

「この度、校長先生から聞いた……ねえ、お爺さんを恨まないの?」


 恨む?

 爺ちゃんを?


「誰にも言わないでほしいんだけど、俺、爺ちゃんの説明を聞く前に腕輪をつけちゃったんだよねー……爺ちゃんが呆れかえってアホって言ってた」


 このことは親にも校長先生にも言ってない。

 怒られそうだし。


「そ、そうなんだ……」

「そうそう」


 だから爺ちゃんを恨むとかはない。

 爺ちゃんの思惑はわからないが、ぶっちゃけ自業自得だもん。

 それに子供の頃からあんなに良くしてくれた爺ちゃんが孫の腕を奪うとは思えない。


「まあ、ツカサ君がそれでいいならいいけど、とにかく、私達暗部っていうのは各町とかは関係ない運営委員会の所属なの。でも、私やアンディは実質、アインの町の代表の部下な訳」


 あー……そういやあの町ってアインって名前だったな。


「それで?」

「町の代表を中心とする上層部はツカサ君に何かあったらマズいと判断した。まあ、当たり前ね。多額の寄付をしている名門、ラ・フォルジュの人間だもの。しかも、現当主であるお婆様のお気に入りの子」

「俺、気に入られてんの?」


 婆ちゃん、いつも説教してきますけど?


「あなた達兄妹は魔力も高いし、末っ子のジゼルさんの子だしね。エリクさんに聞いたけど、日本は遠方だからいつも気にかけているらしいわ。トウコさんが入学した時もかなりの圧力があったと聞いている。ツカサ君の時はそれ以上だったらしいわ」


 バカだからだな……

 圧力をかけないと試験に受かんないもん。

 受けてすらねーけど(笑)


「なるほど。優秀で真面目なエリク君より不出来でアホな兄妹の方が目についたわけだ」


 トウコはトウコでひどいもん。

 よく婆ちゃんに口の利き方を咎められていた。

 もちろん、聞きやしない。


「その辺はわからないけど、とにかく、上層部はツカサ君に護衛をつけることにしたの。それがラ・フォルジュ派である私」


 護衛か……


「それでわざわざ日本に?」

「ええ。こっちでアパートを借りてね。そこからアストラルに通う」


 へー……


「学園に入れるんですか?」

「コソコソとね。まあ、聞くところによると、あなたは学園で一人でいるってことはあまりないらしいし、学園内は人の目も多いから大丈夫だと思う。あるとしたら町の外に行った時ね」


 学園は人が多いし、大体、フランクとセドリックと一緒だしな―。


「護衛ってずっといる感じですか?」

「もちろん、邪魔はしないわ。遠目で見てる」


 それはそれでなんか嫌だな……


「別に護衛なんかいらないんですけど……」

「いるの。これは上層部の決定」


 決定かー……


「婆ちゃんは知ってるんです?」

「ラ・フォルジュの人間で知っているのはお婆様とエリクさんだけね。お婆様が言うにはご両親にも言うなとのことです」


 それはありがたい。

 母さんは絶対に町の外に行くことを禁止するし。


「ちなみにですけど、シャルには護衛がつかないんですか?」

「狙われている可能性があるのはツカサ君だけだからね。それにシャルリーヌさんにはすでに護衛がついている」

「そうなの?」

「ええ。クロエ・ミュレルという耳年増メイド……あいつも同級生だけど、本当にしょうもないことを言うから気を付けてね」


 知ってる。

 すぐにうひひって笑うし。

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