第082話 変?
「魔法代理戦争って何ですか?」
聞いたこともない。
「まあ、詳しくは調べたり、別の詳しい人に聞いた方が良いと思うけど、簡単に説明しましょう」
「お願いします」
さすがは先輩。
「アストラルはかつての魔女狩りから逃れた魔法使いが作った世界です。そこに様々な国の魔法使いが少しずつ逃げてきて、今日に至ります」
「それはさすがに知ってます」
いまいちわかってないけどね。
「つまりこの世界って色んな国の人がいるわけよ。それでいて、あっちの世界とこっちの世界を行き来して生活している人もいる。ちょうどあなたみたいにね」
「そうですね。俺は日本の実家から通っています」
「そうなるとさ、あっちの世界での争いがこっちの世界でも影響してくるのよ。例えば、100年戦争の時はフランス勢とイギリス勢はとんでもなく仲が悪かったらしい」
100年?
半分、フランス人だけど、まったく知らねー。
「ハァ?」
「その最たるものが2度の世界大戦ね。そりゃもうひどい有様で実際にアストラルでも戦争が起きた。理由はアストラルを運営する委員会のトップの中に枢軸国と連合国がいたからね」
う、うん……
何言ってんの?
「はい」
チンプンカンプン。
「……難しいかしら? えーっと、とにかくあっちの世界での世界大戦がこっちでも連鎖して、魔法使い同士の戦争が起きたわけ」
「なるほど」
「その時に結構な魔法使いが死んじゃってね。さらには運営が真っ二つに割れたことや争いが激化したことで失われた魔法や技術ってかなりあるのよ。つまり、この地下にある魔法は有用な魔法研究成果である可能性も十分にあるの」
なるほど。
つまり戦争で失った魔法がこの下に眠っている可能性があるんだ。
長々と説明してもらったが、それだけは理解した。
「わかりましたー」
「……悪いことは言わないから歴史取れば?」
無理。
「今は皆、仲良くしてるんですよね? じゃあ、いいじゃないですか」
「まあ、そうかしらね……?」
そうだよ。
「よーし、地下に行きましょう」
「この子、大丈夫?」
「大丈夫じゃない? こういう子もいるでしょ」
ジョアン先輩とアンディ先輩が顔を見合わせる。
「まあいいか……じゃあ、行きましょうか。一応、ライトの魔法を使うけど、足元注意ね」
ジョアン先輩がそう言って、菜箸みたいな杖を取り出すと、階段に向ける。
すると、真っ暗な階段の奥が明るくなっていった。
「すげー! 電気がついた」
「電気って……これ、初級魔法ですけど……あ、いや、まだ1、2ヶ月だったわね。こういう明るくする魔法があるのよ。壁を明るくし、昼間みたいにするの」
すごいなー。
「行きましょうか」
ジョアン先輩がそう言って、階段を降りていったので俺とアンディ先輩も続く。
そのまま階段を降りていくと、一本のまっすぐの道があった。
さらには左右に扉が並んでおり、先は見えない。
「いっぱいありますね」
「昔は今よりも魔法使いが多かったからね。一人一つの研究室を持とうとすると場所が足りないのよ。だから地下」
「あー……そういえば、校長先生が寮の部屋を案内してくれた時に一人一つの研究室って言ってましたわ。いまだに何も置いてませんけど」
「研究職じゃない人はそういう人も多いわね。武器ばっかりが置いてある人もいるわ」
フランクがそれっぽい。
「しかし、多いですねー。目的の部屋以外は入ったらダメなんですよね?」
「もちろんよ。もっとも入れないけどね。こっちよ」
ジョアン先輩が歩いていったので俺とアンディ先輩も続く。
そして、しばらく歩くと、ジョアン先輩がとある部屋の前で立ち止まった。
「えーっと、ここかな……120……ここね」
確かに扉に120と書かれている。
「ここは開くんですか?」
「今から封印を解くわ。ちょっと待ってね」
ジョアン先輩は何かの札を取り出すと、扉に貼る。
すると、札が一瞬にして消えた。
「これでオッケーよ。中に入りましょう……あれ?」
ドアノブを握ったジョアン先輩が首を傾げる。
「どうしました?」
「開かない……」
ジョアン先輩が思いっきり、ドアノブを引っ張るが、まったく開く気配はない。
「鍵でもかかってるんですかね?」
「そんな感じじゃないわね…………あちゃー……これは錆ついてるわ」
ジョアン先輩がドアノブやドアのサッシをまじまじと見る。
「錆ですか?」
「長年放置されていたからでしょうね。どうしようかしら?」
「俺がやりましょうか? 強化魔法を使えば、最悪はこんな扉なら破れます」
いける、いける。
「中に大事な研究成果があるから強引はよくないなー。うーん……仕方がない。私が扉を新品に戻すアイテムを作ってくるからそれでどうにかしましょう」
「そんなもんを作れるんですか?」
「そういう研究もするからね。でも、ちょっと時間をもらうわ。約束通り、今度の日曜までには作っておくから」
どっちみち、日曜が本格的な掃除だからそれでいいか。
「わかりました。アンディ先輩もそれでいいです?」
「え? あ、そうだね。そうしようか」
ん? アンディ先輩の様子が変だな。
さっきからまったくしゃべってないし。
「じゃあ、そうしましょう。今日は場所を把握しただけで良しとします。帰りましょう」
俺達は引き上げることにし、来た道を引き返し、階段を昇った。
そして、校舎を出ると、丘を登り、男子寮と女子寮の分岐点までやってくる。
「じゃあ、私はこれで。2人共、日曜の1時だからね」
「わかりました」
「ああ」
ジョアン先輩は手を上げると、女子寮に向かっていったので俺とアンディ先輩は男子得ように向かって歩いていく。
そして、男子寮に着き、階段を昇ると、2階で立ち止まった。
「じゃあ、アンディ先輩もまた」
「うん……ツカサ君、今日のジョアンをどう思った?」
はい?
「ジョアン先輩ですか? いつものジョアン先輩だった気がしますけど……」
「そうか……いや、すまないね。気のせいだと思う。じゃあ、日曜に」
アンディ先輩は何かを悩んでいたようだが、そのまま3階に上がってしまった。
俺は何だろうと思いつつも、よくわからないので自室に戻ることにした。
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