第081話 知らんわい


 月曜になり、また1週間が始まった。

 とはいえ、特にトラブルもないし、授業は難しいもののチンプンカンプンというほどではない。

 そして、そんな日々を過ごしていると、木曜になり、午後の授業を終えた。


「あー、疲れた」

「お疲れさん。お前はこれからバイトだっけ?」


 フランクが聞いてくる。


「そうそう。先輩2人と掃除」

「授業の後に大変だなー。まあ、頑張れ。俺達は先に帰るわ」


 フランクがそう言って立ち上がると、セドリックも立ち上がる。


「じゃあ、頑張ってね」


 セドリックがそう言い、フランクと共に帰っていった。

 女子達や他の生徒も帰りだしたので俺も立ち上がり、教室を出る。

 そして、校舎を出ると、掲示板の前にアンディ先輩とジョアン先輩が立っているのが見えた。


「遅れてすみません」

「いや、僕も今来たところ」

「2人は授業だったんだから仕方がないわよ」


 2人は気にしてない感じだ。


「早速、行きますか?」

「そうね。時間もないし、行きましょう。こっちよ、ついてきて」


 ジョアン先輩が校舎の中に入っていったので俺とアンディ先輩も続く。

 校舎の中に入ると、右奥へと進んでいった。

 すると、とある部屋の前でジョアン先輩が立ち止まったので俺とアンディ先輩も立ち止まる。


「ここです?」

「そうそう。この部屋の中に地下へに階段があるのよ」


 ジョアン先輩がそう言って、鍵を取り出すと、扉にかかっている錠前を開けた。


「開かずの扉みたいでドキドキしますね」

「そうかしら? じゃあ、中に入ったらもっとドキドキするかもね。先に入っていいわよ」


 ジョアン先輩にそう言われたので扉を開け、中に入る。

 すると、部屋の外の綺麗な校舎に似つかわしくない地下へと降りる不気味な石造りの階段が部屋の真ん中にあった。


「おー……ダンジョンへの入口っぽい」

「そうかしら?」


 女子にはわからんか。


「建物を取り壊す際にここを封鎖しなかったんですかね?」

「私もウォーレス先生に聞いた話なんだけど、この学園は歴史がある分、色んなところにこういう階段や部屋があったりするらしいのよ。そこには貴重な資料なんかが眠っている。だから封鎖できない感じね。もちろん、勝手に入ったらマズいからこうやって部屋に鍵をかけてる感じ」


 へー……

 まあ、何百年って言ってたしな。

 お宝探しっぽいわ。


「一斉に調査して保管すればいいのに」

「それが難しいのよ。そういった資料は魔法使いにとって命より大事なものだったりするわけ。実際、私の研究資料も誰にも見せられないわ。そんな大事な資料があちこちに眠っているんだけど、その所有権はその研究者が残した家にあるのよ。この前、この学園のOB・OGの力が強いって言ったでしょ? つまり誰も手が付けられないような状況なのよ」

「その家が回収すればいいじゃないですか」


 そんなに大事なら家にしまっとけ。


「それが血統派連中のきついところね。あなたはよくわかっているんじゃないかしら?」


 全然、わかりませんが?


「そう言われても俺は血統派じゃないですし……」

「そうねー……じゃあ、例を上げるわね。とあるA家の研究者が資料を残しました。ですが、その研究者が死んで研究成果は子供に託されます。この子供はA家という名門とB家という名門の子です。さらにはその子はC家という名門の子と結婚し、子供を作りました。これが何百年前の話。さて、現在、その研究者の成果はどこの家のものになるでしょう?」


 わからん……


「A家?」

「普通はそう考えるわね。でも、B家、C家もその研究者の一族と言えるし、所有権を継承しているから権利は持っているのよ?」

「難しいですね」

「でしょ? 昔は今みたいな管理社会じゃないし、適当だったらしいのよ。それで今、所有者で揉めている。要は完全な膠着状態なわけ」


 へー……

 ラ・フォルジュのなんかもあるのかね?


「でも、それだったら勝手に入ったらマズくないです?」

「この階段の下はかなり広くてね。色んな部屋があって封印されている。今から行くのはその一つなんだけど、先生が色んな家に回って交渉してきたのよ。とりあえず、研究成果を保存しませんかっていうことでね。何年もかかったらしいわ」


 すごい情熱だな。


「そんなに良い成果があるんですかね?」

「わからないわよ。手付かずなんだから」


 え? 博打?


「ハズレもあり得るんですか?」

「そうね。今だったら教科書に載っているような劣悪ポーションの作り方かもしれない」

「マジっすか? それなのに何年も?」

「ええ。バカみたいに思えるかもだけど、もしかしたらすごい研究があるかもしれない」


 えー……

 あるのー?


「何百年も前に研究ですよね?」

「今から行くところは150年前かな?」


 150年前……

 昭和じゃないだろうし、江戸時代……?


「ごめんなさい。歴史的価値はある気はするんですけど、魔法的な価値はあるんですか? そんなに前なんですよね?」

「ん? ん? 150年前だよ。第二次世界大戦より前よ?」

「ハァ……? なんか歴史の授業で習った気がします。ウチの国と先輩達の国が戦争したんですよね?」


 そうじゃないっけ?


「この子、もしかして、第二次世界大戦の魔法代理戦争を知らない?」


 ジョアン先輩がアンディ先輩を見る。


「知らないと思う……この子、5月に魔法使いになったって聞いてるし」

「ツカサ君、歴史は取ってないの?」


 ジョアン先輩が聞いてくる。


「取ってないです」


 嫌いだし、呪学の授業があるから受けられない。


「そ、そうなんだ……私、魔法代理戦争を知らない魔法使いを初めて見た」

「戦争を知らない子供達っていう言葉があるけど、知識としても知らないとはね……」


 え? 知ってないとダメなの?

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