第062話 先輩


「とにかく、ありがとう。助かったよ。あの時も見事だと思ったが、あんなでっかい熊を倒すなんてすごいな」


 アンディ先輩がまたもや礼を言ってくる。


「どうも。熊は森の奥にいるって聞いたんですけど、なんでいるんですか?」


 そんなに時間は経っていないし、まだ浅いところだろう。


「ああ、それなんだけど、僕達もわからないんだよね。僕達は薬草採取に来たんだけど、君が言うようにこんな浅いところに熊はいないはずなんだ。それに僕達は魔物除けを持っている」

「魔物除け?」

「そういうお守りみたいなものがあるんだよ。じゃなきゃ、僕達みたいな魔法使いは森に来られない」


 へー……


「ある?」


 フランクとセドリックに確認してみる。


「ないな」

「狩りに来たのに持ってきてるわけないでしょ」


 そりゃそうか。

 実際、狼も襲ってきたしな。


「壊れたんですかね?」

「どうかなー? 先生に見てもらおうかな?」


 そういう専門の先生がいるのかな?


「効果が微妙なら危ないですし、今日は帰りましょうよ。俺達も帰りますし、湖まで送りますよ」

「ありがたいけど、いいのかい?」

「いいよな?」


 フランクとセドリックに確認する。


「当然だな。それに熊を狩れたらお前も満足だろ」

「工業区に行く時間を考えると引き上げた方が良いよ」


 2人も問題ないらしい。


「そういうわけなんで帰りましょうか」

「ありがとう」

「助かるわ」


 俺達は帰ることにし、来た道を引き返していく。


「先輩達ってどこ出身なんですか?」


 気になったので聞いてみた。


「僕ら? アメリカ」

「幼馴染なのよ」


 へー……

 そういうのいいね。

 付き合ってんのかな?

 いや、さすがにそれは聞かん方が良いか。


「薬草採取って言ってましたけど、そういう授業でもあるんです? 俺、薬草学を取ってないから知らないんですけど」

「薬草学は関係ないわね。私が錬金術師なのよ」


 ジョアン先輩が答える。


「錬金術ですかー。儲かるって聞きましたよ」


 シャルと一緒だな。


「確かに儲かるは儲かるわね。ただ私が目指しているのはそこじゃないのよ。私に限らずだけど、研究職の人間は目標があることが多いわね」


 目標……


「何です?」

「それは秘密。絶対に言えない。というか、普通は言わないわね。錬金術って一人でできるし、コソコソするものなのよ」


 なんかそれだけ聞くと怪しいな。


「知り合いの錬金術師が部屋に閉じこもって薬品を眺めながらニヤニヤすることが趣味って言ってましたね」


 もちろんシャルね。


「あー、そんな感じ。どうも錬金術ってあまり良いイメージがないのよね。素晴らしい学問だと思うんだけど……」

「難しすぎて全然、素晴らしくないですね。俺もポーション売ってウハウハ計画を考えましたけど、受かる気がしないんで諦めました」


 無理無理。


「お前はそうだろうよ」

「君、元素記号すら知らないでしょ」


 フランクとセドリックが呆れる。


「知ってるわけないだろ。すべり止めの高校も落ちたんだぞ」


 Hが水だっけ?


「人には向き不向きがあるわよ。そういうわけでポーション作成に使う薬草を採取しに来たわけ。アンディに護衛を頼んだんだけど、グリズリーは無理」

「無理だね。君らがいて良かったよ」


 ジョアン先輩とアンディ先輩がうんうんと頷く。


「詳しくないんですけど、薬草って売ってるんじゃないですか?」


 こんな危険を冒さなくてもいいような……


「売ってるけど自分で採取した方が良いのよ。売ってるのは日が経っているし、採取した人間が下手なことが多いの。薬草採取も知識がいるからね。まあ、それは薬草学で習うわ」


 薬草採取で金儲けは無理だな。

 やはり魔物退治の方が良い。


 俺達が話をしながら歩いていると、森を抜け、魔法陣の前までやってきた。


「すみません、ちょっといいですか?」


 アンディ先輩が見張りの兵士に声をかける。


「どうした?」

「実はここから1キロも行ってないところで熊の魔物に遭遇しました」

「1キロ……近いな。ケガはないか?」

「はい。こちらの後輩の子が仕留めてくれました」


 アンディ先輩が俺の方に手を向けた。


「そうか……わかった。このことは上に話してちょっと調査をしてみる。とにかく、無事で何よりだ」

「はい。よろしくお願いします……ツカサ君、今日はありがとうね。僕達は引き上げるよ」

「助かったわ。また学校でね」


 先輩2人が手を上げる。


「はい。さようなら」

「お疲れ様です」

「アンディ先輩はまた寮で」


 俺達も挨拶を返すと、2人は魔法陣に乗って帰っていった。


「お前ら、あの人達と仲が良いの?」

「仲が良いっていうほどじゃないけど、アンディ先輩の方は寮で会うからな」

「あの人も完全な寮生だから食堂とかで一緒になることが多いんだよ」


 なるほど。

 アメリカとアストラルの時差が何時間なのかは知らんが、時差も大きそうだし、あそこに住んでいるのか。


「俺らも帰るかー……」

「そうだな……」

「工業区に行かないといけないしね……」


 俺達はそう言いつつも湖の方を見る。

 まだ完全な夕方ではないが、日が傾き始めており、湖が綺麗だ。

 そして、そんな湖には見たことある女子4人の後ろ姿が見えた。


「あいつらも来てんだな……」


 トウコの奴、昨日の今日で来やがった。

 被るのはやめろよ。


「トウコがいるな。あいつが町の外にいるのを初めて見た」


 でしょうねー。


「どうする? 声をかける?」


 うーん、トウコと顔を合わせるのは嫌だな。

 あいつに近づくと同じ顔だとバレる確率が上がる。

 あと、ユイカがニヤニヤしそう。


「邪魔しちゃ悪いし、帰ろうぜ」

「そうするか。じゃあ、ツカサ。魔法陣に乗って工業区に行きたいと念じてみろ」

「わかった」


 そう答えながらフランクの背中を押す。


「はいはい。先に行くからさっさと来いよ」


 フランクが先に行ったのでセドリックと顔を合わせる。

 すると、セドリックは無言で魔法陣に手を差し出したので魔法陣に乗り、工業区に行きたいと念じた。

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