第060話 森の中


「さて、そろそろ行くか」


 フランクが俺を見てきた。


「湖?」

「あそこは何もいねーよ。後ろの森だ」


 フランクが言うように正面には湖と平原が広がっているが、裏は森だ。

 とはいえ、そこまで険しい感じではなく、普通に歩いて行ける。

 爺ちゃんの山の方が木も多くてずっと険しい。


「魔物とはいえ、動物か……生息地は森なわけね。しかし、迷いそうだな」

「あちこちに目印となる杭や看板があるから大丈夫だよ。とはいえ、時間もないし、森は暗くなるのが早いからそんなに奥には行けないな」

「僕が灯りを出してもいいけど、そこまで無理をする必要もないでしょ。今日はちょっと覗いてみる程度」


 まあ、それでいいか。


「よし、行くか」


 そう言うと、フランクとセドリックがそれぞれ剣と杖を出した。

 なんか羨ましい。


「俺もトライデント……」

「森の中でそんなもん使えるか。メンテナンスがいらねー拳があるだろ。行くぞ」


 RPGで武器を買ってもらえない武闘家はこんな気分だったんだろうな……


「はーい……」


 俺達は森の中に入っていく。


「ツカサ、歩きながらこの森にいる魔物を説明するよ」


 セドリックが横に来た。


「何がいんの?」

「狼、猪、熊だね」


 普通だ。


「全部勝てるな」


 どんなもんか知らないけど。


「心強いね。とはいえ、猪と熊は奥に行かない限り、滅多に出ない。気を付けるのは狼だね。当たり前だけど、噛みつきに注意」

「まあなー」


 犬だもん。


「行ける?」

「余裕」

「じゃあ、お願いね。前方に狼、距離は50メートル」


 セドリックがそう言って立ち止まったので俺とフランクも立ち止まる。


「わかるのか?」

「探知魔法」


 こいつ、何でもできるな……

 広く浅く、か……


「ふぅ……獣に駆け引きなんて必要ない」


 一息つくと、全身に魔力を巡らせる。

 すると、森の奥から木を躱しながら駆けてくる狼が見えた。


「行くぞっ!」


 足に力を込め、駆けだす。

 そして、一気に狼の目の前まで来ると、狼の背中を叩いた。


「――ギャン!」


 狼は地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなる。


「普通の狼と変わらんな」


 もっとも、日本に狼なんていないからわからんが。


「こえー……2、30メートルはあったのに一瞬で距離を詰めやがったぞ」

「力もヤバいね。狼が曲がっちゃいけない方向に曲がっている……マチアスの時は本気じゃなかったわけだ」


 2人がこちらにやってくる。


「あんなんに本気を出すかよ」


 というよりも、あそこは絶対に本気を出してはいけなかった。

 それをしたらシャルがビビって、接近戦を得意とするトウコとまともに戦えなくなるからだ。


「ユイカの時も手を抜いてたのか?」

「抜いてたぞ。お互い様だけどな」


 ユイカも全然本気を出していなかった。

 まあ、病み上がりだったしな。


「バーサーカーさん達はさすがだね」

「そんなことより、これ売れんの? 食えんよな?」


 犬なんか食べたくない。


「これは食用じゃなくて、牙が売れるね。500マナ」

「安い……」


 500円じゃん。


「そうだね。だからスルーでいいよ」

「高いのは猪と熊だな」

「奥じゃん」


 時間ないじゃん。


「そうだね。だから今日はお金儲けはなし。したいなら土日に来なよ」

「そうするかー……フランク、お前も狼を狩るか?」

「俺は散々狩ったよ。親父に言われてイルメラと何回も来たしな。一人でも行った。もう狼は飽きたわ」


 武家か……

 すごいな……


「俺、一人は無理だわ。絶対に飽きる」

「お前はそうだろうな」

「そんな気がするね。じゃあ、付き合ってあげるからもうちょっと奥に行ってみようか」


 セドリックに言われて、森の奥に進んでいく。

 歩いていると、2匹の狼と遭遇したので瞬殺した。


「狼はそんなに強くないな……」

「それでも魔力を持っていて、力も速さも上がってるんだぞ」


 元を知らんからなー……


「少なくとも、熊よりよえーよ」

「お前は熊を倒したんだったな。すげー、すげー」


 ふふん!


「お前もできるだろ」

「素手は無理。よくもまあ、それだけの魔力を持って、コントロールできるもんだぜ」

「それしかできねーんだよ。俺もシャルやセドリックみたいに杖で魔法を使いたいもんだわ」


 魔法使いっぽいし。


「俺は剣が良いわ。男は剣だ」

「それもわかるわー。トライデント」

「完全に趣味だろ、それ。お前、死神が持ってる大鎌とか好きそう」


 好きだよ。

 それが男の子だ。

 シャルもウチの女共もわかってくれない。

 父さんはわかってくれたのに。

 まあ、買ってくれなかったけど。


「しっ! ちょっと黙って」


 俺とフランクが話をしていると、セドリックが立ち止まった。


「どうした?」


 声量を落として、聞く。


「うーん、熊だね」

「マジ? チャーンス」


 やったぜ。


「熊と言って喜ぶ奴を初めて見たぞ」

「ホントだよね。ただ、先客がいるみたいなんだよね」

「ん? ホントだ。確かに魔力を感じるな。それも2つ」


 全然、わかんねー……


「距離は?」

「100メートルかな?」

「そんぐらいだな」


 えーっと、フランクさんも探知魔法が使えるのかな?

 まあいいか。


「この場合、どうするんだ? 獲物を横取りするのも気が引けるぞ」

「微妙だねー。これが猪ならそれでいいんだけど、熊だし」

「様子を見に行った方が良いな。熊だと俺やツカサみたいな戦闘タイプの魔法使いじゃないと普通に一撃で死ぬぞ」


 確かにシャルやセドリックが熊の一撃に耐えられるとは思わんな。


「行くか……」


 俺達は小走りで奥に進んでいった。

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