第041話 ダメでしょ


「シャルが勝ったか……」


 結果を見て、つぶやく。

 すると、フランク、セドリック、ユイカが俺をじーっと見てきた。


「何だよ」

「見たことある一本背負いだったな」

「確かにどっかで見たね」

「裏切者がここにいた」


 うるせー。


「何? どういうこと?」


 イルメラが食いついた。


「会長は体術なんて使えません。それを得意とし、会長を応援していた人がそこに……」


 ノエルが俺を指差し、チクった。


「あんたか! 明らかにドシロウトの動きをしていた会長が急に動きが良くなったから変だと思ったけど、仕込んだのか!」

「勉強を見てもらってたから代わりに教えていただけだ。他意はない」


 特訓したけどな。

 トウコの動きをめっちゃ教えたけどな。


「うわー……最低だ」

「うっさい」


 妹よりシャルに決まってんだろ。


「ちょっとトウコのところに行ってくるわ」

「あ、私も行きます」

「じゃあ、私も……」


 女子3人は立ち上がると、演習場を出ていった。


「さて、帰るか。ねみーわ」

「そうだな」

「帰ろうか」


 俺達も演習場から出ると、寮に戻った。

 そして、家に帰ると、服を着替え、ベッドに倒れ込む。

 そのまま目を閉じ、うつらうつらとしていると、隣の部屋から音が聞こえた。


「お兄ちゃん!」


 扉が開かれ、トウコが部屋に入ってくる。


「何だよ……眠いぞ」

「そんなことどうでもよくない!? 裏切ったなー!」


 トウコが身体を揺らしてくる。


「何が?」

「会長に仕込んだでしょ! 私の動きが完全に見切られてた!」

「だから何だよ?」

「開き直った! かわいい妹より女を取るの!? あんなの顔が良くてスタイルが良いだけじゃん!」


 100点では?


「めんどくせーなー……」


 あまりにも揺すってくるので起き上がる。


「ひどい! おかげで負けちゃったじゃん!」

「あのなー……シャルが勝ったから言えるけど、あんなんに負けるなよ。ちょっと動きを見切られたくらいで負ける相手か? シャルは運動神経皆無だぞ?」

「そ、それは……確かに鈍い人だなとは思ったけど……」

「お前、油断しまくり。それと動揺しすぎ。冷静に対処すれば負ける相手じゃない。それにお前の悪い癖だ。シャルは負傷し、魔力も尽きかけてたんだから距離を取って、得意の魔法を使えよ。それで勝ちだ。爺ちゃんも得意な分野より相手が嫌がる分野で勝負しろって言ってただろ」


 なんでリスクを負うかね?

 接近戦しかできない俺とは違うだろうに。


「ふ、ふんだ! 自分は勝ったからって調子に乗ってる!」


 すぐすねる奴だわ。


「仕方がないなー……よし、お兄ちゃんが内緒でお小遣いをあげよう」

「は? 何それ?」


 仕方がないので財布から1万円を取り出す。


「父さんと母さんに内緒だぞ。実は入学祝いで長瀬の爺ちゃんが2万円くれた」

「マジ?」

「マジマジ。お前にも分けてやろう」

「お兄ちゃん、かっこいい!」


 まあな。


「そういうわけで部屋に戻れ。俺は寝る」

「私も寝よーっと……あ、賭けはどうする?」


 賭け?


「何それ?」

「いや、決闘前に先生が言ってたじゃん」


 あー、あれか。

 1000マナと町の案内。


「1勝1敗の場合はどうなるんだ?」

「どっちか1個じゃないの?」


 そうなるのかね?


「よし、もう1000円をやろう。俺がもらう」

「まあ、それなら…………お兄ちゃんさ、あの人、イヴェールだよ?」

「だから何だ?」

「うーん、まあ、どうせ相手にされないし、いっかー。寝る!」


 トウコはさらに1000円を奪っていき、部屋を出ていったので布団に入り、寝ることにした。


 翌日の日曜日。

 早くに起きた俺はなんとなく走りにいき、公園を目指す。

 すると、公園のベンチにはシャルがいた。


「よう」

「ええ。おはよう」


 シャルが笑顔で挨拶をしてきたので隣に座った。


「昨日は勝てて良かったな」

「お互い様にね……ただ、私は微妙」


 うーん……終始、劣勢だったもんな。


「勝ったからいいじゃん」

「どうかな? 最後、魔力が尽きてた。先生が止めなかったら確実に負けていた」


 尽きてたのか……


「そんなもん気にするなよ。ぶっちゃけ、負けると思ってたし」


 フランクの解説を聞いて、無理だと思った。


「私もそう思ってた。そう考えると、悪くない結果ね。それによくわかった。あれは絶対に戦ってはいけない相手。明日から手袋を持ち歩くのをやめるわ」


 それがいいね。


「マチアスもどうにかした方が良いぞ」

「あれね……退学になったわ」


 はい?


「なんで? 俺に負けたからか?」

「いえ、あなたに負けたことは確かだけど、それ以前に差別発言をしてたでしょ。あれが先生の耳に入って、親御さんに報告。ジャカールの当主であるマチアスのお父さんは真面目な方だからそりゃあもうカンカン。色んな国から魔法使いが集まっているアストラルで人種なんかを差別することはタブー中のタブーなのよ」


 あー、そっちか。


「それで自主退学か?」

「そうね。一から鍛えるそう。昨夜、ジャカールの当主から直々に連絡が来たわ」


 哀れマチアス。


「まあ、それは良かったな」

「ええ、とっても。それでちょっとトウコさんと話をしようと思ってる」

「話?」

「話というか謝罪ね。さすがに親御さんを侮辱するのはやりすぎ」


 あー、発端はそんなんだったな。


「いいんじゃない?」

「ふぅ……まあ、時期を見てね」


 いつするんだろ?


「シャルさ、今日はどうする?」

「運動はパス。そんな気分じゃないわ。勉強なら付き合ってあげる。今週の復習もあるし」


 昨日の今日で武術の訓練はする気が起きんか。

 まあ、激闘だったしな。


「じゃあ、頼むわ」

「わかった。ファミレスでいい?」

「いや、ウチにおいで」

「…………ウチ?」


 シャルがジト目になった。


「毎回、ファミレスなのもどうかと思って」

「まあ、ドリンクバーと昼食だけで1日中居座るのも気が引けるのは確かだけど……」


 シャルがジト目で見続ける。


「いや、普通に親おるぞ」

「それはそれで…………うーん、まあ、勉強するだけだしねー」


 そうそう。


「そういうわけでウチに来な」

「まあいいけど、一回帰るわよ。勉強道具を持ってきてないし、こんな格好だし」


 シャルは運動着だ。


「じゃあ、ウチの近くのコンビニで待ち合わせしよう」

「わかった」


 シャルと別れると、家に帰った。

 家に帰り、朝食を食べてシャワーを浴びると、待ち合わせ時間まで時間を潰す。

 そして、時間になったので近くのコンビニに向かった。


「制服かー」

「私服が良かった?」


 うーん……


「いや、どっちでもいい」

「あなたって、たまに無神経なことを言うわね……」

「どっちも似合ってるって意味。悩むね」

「前言撤回しましょう」


 俺達は歩いていき、家に戻った。


「ふーん……一軒家ね」

「普通の家だよ」


 シャルを連れて、家に入る。


「母さーん、ただいまー」


 リビングに行くと、母さんがテレビを見ていた。


「おかえりなさい。早かったですね」

「まあね。母さん、友達を連れてきた」

「そういうことは事前に言いなさい」


 母さんはテレビを消すと、立ち上がってリビングを出る。


「は、はじめまして」


 シャルが挨拶をして、頭を下げた。


「あらあら、いらっしゃい……ツカサ、こっちに来なさい!」


 笑顔で挨拶を返した母さんが俺を引っ張ってリビングに戻っていく。


「何だよ?」

「女の子なら女の子って先に言いなさい! というか、何ですか、あの子は? 身の程を知りなさい!」


 このババア……


「いつも勉強を見てくれる子だよ」

「あー、ファミレスの……そういえば、学園の制服ね……」

「そうそう」


 母さんが腕を組んで悩むと、すぐにリビングを出た。


「すみません。いつもうちの子がお世話になってます」


 母さんが笑顔100パーセントで応対する。


「いえ、こちらこそお世話になっています。あ、私はツカサ君と同じ学園に通うシャルリーヌ・イヴェールと申します」


 シャルが自己紹介すると、母さんが笑顔のまま固まった。

 そして、ゆっくりと俺を見てくる。


「生徒会長。頭が良いんだぞ」

「あなたは何を言ってるんですか?」

「別にいいじゃん」

「頭が痛くなってきた……」


 母さんが頭を抱える。


「寝ろ」

「そうね。これは夢……」


 母さんがリビングに戻っていった。


「あ、あの……」


 シャルが呆然と母さんを見送る。


「まあ、あれはいいわ」

「え? 私、何かした?」

「うんにゃ。2階なー」

「う、うん……」


 俺達は2階に上がっていった。

 そして、俺の部屋の前に来る。


「ここが俺の部屋。でも、その前に用事を済ませよう」

「用事?」


 シャルが首を傾げたが、スルーして隣の部屋に向かう。


「トウコー、起きてるかー?」


 声をかけて扉を開けた。


「トウコ?」


 シャルがまたもや首を傾げたが、お構いなく部屋に入る。

 すると、トウコが10時だというのにまだ寝ていた。


「お兄ちゃん、何……? 眠いんだけど……」


 トウコが布団を被る。


「いいから起きろ。客だぞ」


 トウコを布団越しに揺すった。


「客って何? 知らないよぅ……」

「シャルがお前に話があるんだと」

「シャルって誰? お兄ちゃん、何をバカなことを言ってるの……え? はい?」


 トウコが布団から顔を出すと、扉の方を見て、固まる。


「だからシャルが話があるんだと……」


 トウコはシャルをじーっと見ている。

 シャルもトウコをじーっと見ていた。


「ど、どうも……」

「お、おはよう……」


 2人は目を泳がせながらぺこりと頭を下げた。





――――――――――――


ここまでが第1章となります。


これまでブックマークや評価をして頂き、ありがとうございます。

皆様の応援は大変励みになっており、毎日更新することができております。

また明日から第2章を投稿していきますので、今後もよろしくお願いいたします。

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