第025話 欲しいなー


「着替えてくれば?」


 そう聞くと、ユイカが再び突っ込んできて、右の剣で突きを放ってきた。


「寮に戻ったらノエルが怒っているから嫌」


 俺は突きを躱したのだが、ユイカがくるりと横に一回転し、左の剣で斬りかかってくる。


「何したん?」


 そう聞きながらしゃがんで躱し、水面蹴りでユイカの足を払った。


「おっぱい触った」

「詳しく」


 足を払われたユイカは体勢を崩したのだが、手で地面をつき、飛び上がる。

 そして、俺から距離を取って着地した。


「別に……目の前に大きいのがあったから触っただけ」


 へー……


「どうでもいいけど、パンツ見えたぞ」

「アンスコだよ」


 だから一緒だよー。


「お前ら、黙って戦えないの? しかも、すげー低俗な会話」

「というか、ユイカ。ノエルに謝ってきなよ」


 俺も謝った方が良いと思う。


「ノエル、怒ると怖い……」


 まあ、いつもニコニコしているのがノエルだからな。

 怒らせると怖そう。


「イルメラに仲裁を頼めよ」


 そう言いながら今度は俺は突っ込む。

 そして、ある程度手加減した蹴りを放った。


「イルメラは寝てる」


 ユイカはジャンプして躱すと、俺の顔面に向かって突きを放つ。


「起こせばいいじゃん」


 そう言いながら剣を躱すと、ユイカの腕を掴んで一本背負いした。


「ぐっ……イルメラは一回寝たら朝まで起きない」


 ユイカは受け身を取り、距離を取る。


「ふーん、じゃあもう土下座だな」

「それしかないか……なるほど。ツカサ、強いね。こっちの動きが全部バレてる」

「お前は狙いがわかりすぎ。というか、見すぎ」


 目の動きでわかるわ。


「目……なるほど」


 ユイカは何を納得したか知らないが、目を閉じた。


「バカだ。バカがいるぞ」

「いや、あれは心眼に違いない」


 あっちはあっちで盛り上がっている。


「行ってもいいか?」

「来るといい。私の本気を見せてあげる」


 そう言われたので空間魔法を使って財布を取り出し、右の方に投げた。

 そして、財布が落ちると同時に音も出さずに左の方から突っ込む。

 だが、ユイカはまったく財布の方に反応しない。


「引っかかった……これぞ薄目作戦」


 ユイカが目を開き、斬りかかってきた。

 どうやら目を閉じていなかったらしい。


「チッ!」


 躱せないと思い、魔力を左腕に込め、防御する。

 すると、ユイカの剣が俺の左腕に当たり、食い込んだ。


「痛っ……くないな。そんなに」


 俺の左腕にはユイカの剣が食い込んでおり、骨で止まっている。

 だが、まったく血は出ていなかった。


「ぐっ、切れない……とんでもない魔力」

「なあ、なんで血が出ないんだ?」


 この傷だと絶対に血が出ないといけないのにまったく出ていない。


「ここはそういうところ。戦闘不能になれば、観客席に飛ばされるけど、それまでは特にダメージはないし、痛みも多少は軽減される」

「へー……ユイカ、腹に力を込めろよ」

「へ?」


 俺はユイカのみぞおちに掌底を当てた。

 すると、ユイカが数メートル後ろに飛ぶ。


「ぐぇ……」


 ユイカは着地したものの、腹部を抑えてしゃがみ込む。


「変な感じだなー」


 左腕に残された剣を抜くと、まったく血が出ていない傷を見る。

 すると、すぐに傷がふさがっていった。


「怖っ! 何これ!?」

「累積ダメージになるんだよ。それで戦闘不能状態までカウントされたら終わり」


 フランクが教えてくれる。


「へー……ユイカ、立てるか?」


 ユイカはまだしゃがみ込んでいた。


「無、理……」


 ユイカがそう言うと、ユイカの姿が消えた。


「あ、ユイカが戦闘不能になった」

「ああなるんだよ」


 セドリックが観客席を指差したので見てみると、ユイカが観客席に座っていた。


「へー」


 ユイカはすぐに立ち上がると、観客席から飛び降り、こちらにやってくる。


「むぅ……強い」


 俺のところまで来たユイカが見上げてきた。


「お前、攻撃したら止まるのをどうにかした方が良いぞ」


 スピードでかく乱するタイプが止まったらダメだ。


「普通はあれで腕が飛んでいる。その後、もう一個の剣で首を飛ばしてた」


 首を飛ばされるのは嫌だなー。


「怖いなー」

「どの口が言う? フランク、次はあなたがやるといい。私も初めて知ったけど、痛みは軽減されても息ができない苦しみはそのまま。死ぬかと思った」


 みぞおちはなー。


「お前らの戦いを見て、やりたいと思うわけないだろ」

「2人共、涼しい顔してえげつないしね。ただ、お互いの作戦は非常にお粗末だったけど」


 うっさい。


「私の薄目作戦は成功した…………あ」


 ユイカが何かに気付き、演習場の入口を見る。

 すると、そこには笑顔のノエルが立っていた。


「あーあ……ほら、行ってこい」

「ノエルは優しいから誠心誠意謝れば許してくれると思うよ」

「日本人の作法を見せてやれ」


 俺達がそう言うと、ユイカがノエルのところに行き、綺麗な土下座を披露した。


「帰るか」

「だね」

「そうすっかー」


 俺達は存在感をなるべく消し、必死に言い訳をするユイカの横をすり抜け、寮に帰る。

 そして、フランクとセドリックと別れた俺は自室に戻った。


「ちょっと疲れたし、飲んでみるか」


 空間魔法から1000マナで買ったポーションを取り出し、飲んでみる。


「うん……まっず」


 薬の味がする……

 やっぱりシャルにもらった方が良いわ。


 俺は空き瓶を机に置くと、部屋を出て、1階に降りる。

 そして、リビングを覗いてみると、母さんが一人でテレビを見ていた。


「あら、おかえりなさい。晩御飯はもう少ししたらです」

「うん。母さん、ちょっといいか?」

「何ですか?」


 母さんがこちらを向く。


「さっきさ、演習場で赤羽の子と戦ったわ」

「赤羽の子ってユイカさん? あまり女の子と戦ったらダメですよ。女子はそういう時に結託しますからね」


 挑まれただけなんだが……

 まあ、気を付けよう。


「それでさ、ユイカに腕を斬られたんだけど、強化魔法を使って骨で止めたんだ。そん時に気が付いたんだけど、演習場で腕を切ったら腕輪を外せない?」


 そう聞くと、母さんがテレビを切った。


「それは無理ですね。校長先生が言うには腕輪はあなたの腕と一体化しているらしいのです。だから外せないと思います。切っても元通りでしょう」


 ダメかー……


「じゃあ、無理か」

「地道に解呪を学ぶしかないです。もちろん、ラ・フォルジュの家でも動いてますけど……」


 頑張ってほしいね。


「わかったー。あ、母さんさー、欲しいものがあるから買ってほしいんだけど……」

「何ですか?」

「トライデントっていう三又の槍」

「ダメです」


 やっぱりか……

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