第024話 赤羽ユイカ


 演習場の入口付近で立っていたユイカが俺達のところにやってきた。


「フランク、セドリック、何してんの?」


 ユイカが無表情で聞いてくる。


「ちょっと演習をな……それよりお前、風邪は大丈夫か?」

「1週間も休むから心配したよ」

「ちょっと拗らせちゃったね……でも、ノエルが看病してくれたから大丈夫」


 ノエル、優しそうだしなー。


「え? 寮にいたのか?」

「実家に帰りなよ。というか、病院は?」

「病院……」


 ユイカが無表情のまま首を傾げる。


「行ってないのかよ」

「だるいし、待たされるのが嫌い……」


 いや、行け。


「まあ、治ったならいいけどね」

「そう、治った。そして、風邪を引いた私はバカじゃないことが証明された」

「迷信だろ、それ。それよりもなんで風邪引いたんだ?」


 フランクが聞く。


「ゴールデンウィークに山に籠って滝行をしていた。寒かった」

「バカじゃん」


 バカだと思わないでもないが、同じようなことをしようとして、爺ちゃんの山に行った俺はノーコメントだ。


「バカじゃない……ねえ、その人は誰?」


 ユイカが俺を見てくる。


「あ、ゴールデンウィーク明けから来た新入生だ。お前と同じ日本人だな」

「長瀬ツカサ君だよ」


 2人が俺を紹介すると、ユイカが無言で俺のそばまでやってきて、じーっと見てきた。

 俺もそんなユイカをじーっと見る。


 ユイカは小柄であり、トウコよりちょっと低いくらいの背の高さだ。

 多分、150センチくらい。

 顔つきはかわいらしいが、ずっと無表情である。

 髪は黒髪のショートカットだ。

 そして、かなりの魔力であり、トウコと同じくらいはある。


「……こいつら、なんで見つめ合ってるんだ?」

「波長が合うんじゃない?」


 フランクとセドリックが首を傾げた。


「長瀬……ツカサ。長瀬は聞いたことがある気がする」

「俺も赤羽を父さんから聞いたな」


 長瀬の家と関わり合いがないって言っていた。


「ふーん……ねえ、どっかで会ったことある?」

「ないと思うな。少なくとも、俺は覚えがない」

「うーん……どっかで見た顔なんだよなー……どこだっけ?」


 多分、トウコだろうな……

 よく見りゃ同じ顔だもん。


「どっかですれ違っているかもな。日本だし」

「それもそっか……フランク、剣を持ってるけど、演習ってフランクとツカサ?」

「そうだな」

「僕が戦うわけないしね」


 セドリックは争いが好きそうじゃないしなー。


「ふーん……ちょうど良かった。病み上がりの運動をしにきたんだよ」


 ユイカがどこからともなく、短い剣を2本取り出した。

 剣は対になっており、刃が50センチ程度しかない。


「どっち?」


 セドリックがさり気に自分を外し、俺とフランクを交互に指差す。


「フランクは防御主体でつまんないからツカサの方」

「やーい、つまんない男ー」


 ご指名されてちょっと嬉しかったりする。


「つまんなくていいんだよ。死んだら終わりなんだから防御主体が正解なんだ」


 まあ、正論だな。


「ね? フランクはつまんない。やろー」


 ユイカは俺を見てくる。


「俺、女は殴らないんだ」


 トウコ以外。


「大丈夫、当たらない」


 そう言われたのでユイカの顔の前に手をやる。

 そして、右手で腕を掴むと、足を払った。

 ユイカはそのまま払われたのだが、目の前から姿が消える。


「おー」


 見上げると、いつの間にか俺の右腕から脱出したユイカが宙を飛んでいた。

 そして、くるりと一回転すると、俺の後ろに着地し、俺の首筋に剣を当てる。

 どっかの美人とは大違いの動きだ。


「パンツ見えたぞ」

「アンスコだよ」


 一緒じゃい。


「ふーん、そのまま引いてみ?」


 そう言いながらユイカの腕を掴む。


「む? いつの間に……動かない……」


 ユイカがそう言った瞬間、左から気配がしたので腕を離し、しゃがんだ。

 すると、頭上にもう一本の剣が通過する。


「危ないなー」


 慌てて距離を取った。


「フランク、何あれ? 動きが全部見切られている」


 ユイカが不満そうな顔でフランクに聞く。


「お前と同じ脳筋さんだ。武術をやってんだと」

「なるほど……」


 フランクめ。

 女につきおった。


「セドリック、あいつは何だ?」

「見たまんま。君と同じ強化魔法の使い手。あの双剣でオートマタをバラバラにして、ジェニー先生を泣かせた一人」


 先生を泣かすなんて悪い生徒だ。


「ふん。お仕置きがいるな」

「あれ? そのセリフ、すごいデジャブ……誰かに言われたような」


 トウコかな?


「気のせいだ」

「んー? そういえば、匂いが一緒……あれ? あれれ?」


 犬か、こいつ……


「殴りはしないが相手になってやろう」


 そう言うと、腕を組んで悩んでいたユイカが腕を下ろした。

 そして、無表情のままぼーっと俺を見てくる。


「ほどほどになー」

「もう戦闘モードになってるし……バーサーカーだなー。日本人って大人しいイメージがあるのに」


 セドリックがそう言い終えると、ユイカの姿が消えた。


「今度は下か?」


 ものすごい姿勢を低くしたユイカが斬り上げてきたので横に動いて躱す。


「飛ぶとパンツ見てくる」


 ユイカが空いている剣で横に払ってきたのでバックステップで距離を取って躱した。


「アンスコだろ」

「一緒って顔してた。スケベ」


 思ったけども……

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