第26話 補給地点

『最初のピックアップポイントに到着しました』


 ローバーのコンソールから、無機質な合成音声が目的地への到着を告げる。

 現在もイブとの通信は途切れたままだ。


 二人はローバーを停車させ、荒野へと降り立った。


 ノヴァは腕のガジェットから映し出される地図を確かめてみる。

「追跡装置が落下場所を知らせてくれるはずなんだが……信号が送られてきてないみたいだ」


 画面に表示されるマップを拡大したり、縮小したりしてみるが、やはりビーコンの光点は表示されていない。


「壊れてしまったデスか?」


 ジローも心配そうに画面を覗き込んでいる。


「かもな。着地の衝撃でイカれたか……。  だが、計算上の着地予想地点からそう遠くに落ちてはいないはずだ。手分けして探そう。ジローは北側のエリアを頼む、俺は南側を見てみる。」


 残っている食料と水は、あと数日分もない。

 もしここで補給用物資が見つからなかったら、この旅は詰む。

 そう考えると、さすがにノヴァも焦らずにはいられなかった。


「了解デス」


 そうして、二人は互いにエリアを分担して、補給ロケットを探すこととした。


        *


 捜索から三十分ほど経過したあたりだった。  ノヴァのヘルメットに、ジローからの通信が入る。


『――ジジ……ノヴァさん……ジジ……聞こえる……ジジ……スか!?』


 激しいノイズ。距離が少し離れるだけで、通信に障害が発生しているようだ。磁場の乱れが強くなっているのかもしれない。


「聞こえるぞ! どうした!? 物資があったか?」


『ジジ……あったというか……ジジ……、とにかく……こっちに来て……ジジ……デス……』


 通信が途切れがちで、内容を正確に聞き取ることができない。だが、その声色には明らかに動揺が含まれていた。


「そっちに行けばいいんだな! すぐに向かう!」


 何かを見つけたということであれば、物資に違いないはずである。

 しかし、ジローの様子から察するに、ただ事ではない。

 期待と不安が入り混じるなか、ノヴァは荒野を駆けた。


 十分ほど走ると、ジローの姿が見えてきた。

 遠目から見るに、ジローは棒立ちとなり、足元の“何か”を呆然と見つめている様子だった。


 もう少し近づいていき、話しかけようとしたところで、ノヴァは息を呑んだ。  ジローが見ていたもの――それは、巨大な穴だった。

 以前、休憩地点で見つけたものと同じ、直径二十メートルほどの真新しい穴だ。


「ジロー、確かにこの穴は気になるが、今はそれどころじゃ……」


「あそこを見て欲しいデス」


 ジローは穴のふちを指さした。

 ノヴァはそちらへ視線を向ける。そこには、ねじ切られた金属の破片のようなものが散らばっていた。


 ノヴァは嫌な予感を感じつつ近寄り、その破片を拾い上げた。

 塗装の痕跡。そして、見覚えのある素材。


「……間違いない。補給物資ロケットの破片だ」


 焦りの感情が、冷たい汗となって背中を伝う。

 辺りを見回してみるも、肝心の物資が満載されているはずのロケット本体は、どこにも見当たらない。


「食料が落ちていないか辺りを探してみたんデスが、欠片も見当たらなかったデス」


「……なんてこった……。食料ごと持っていかれちまった」


 ノヴァは破片を強く握りしめた。

 物資ロケットは着弾しても爆発しないように改造を施してある。

 そのため、ロケットが砕けたのは何かの外力の作用によるということになる。


 つまり、こういうことだ。

 ロケットはこの穴ができる前に、この地点に落下した。

 その後に、この穴を穿った“巨大な何か”が、ロケットごと地面を丸呑みにし、一部の破片を残したまま地中へ持ち去ってしまったのだ。

 その時の衝撃で発信器も破壊され、信号が途絶えたのだろう。


「……どうするデスか?」


 ノヴァは穴の底――見えない暗闇を睨みつけた後、決然と言った。


「無くなっちまったもんはしょうがない。次を目指すぞ」

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