第21話 物資問題
ノヴァは、ジローとともに探索の準備のために倉庫へ向かった。
倉庫は船の最後部エリアに配置されており、最前部に位置するコクピットエリアからだと移動に数分を要する。
「探索はどのくらいの時間がかかる?」
倉庫に向かう道中で、ノヴァがイブに計算を依頼する。
船の中ではどこにいてもイブとやり取りをすることが可能だった。
『ここから半径二〇〇〇kmのエリア内の、複数のポイントを回ることとなります。 進行速度によりますが、出発から帰還まで三十日から五十日ほどかかることが見込まれます。』
直後、二人のヘルメットバイザーにマップと探索ルートの情報が表示された。
「おおっ! いきなり目の前に地図が出たデス!」
ジローは少し驚いた様子だった。
それもそのはずで、これはイブがジローの装備と情報の送受信ラインを勝手に確立し、HUD(ヘッドアップディスプレイ)へ強制的に情報を割り込ませたということだ。
つまりは、“ハッキング”がなされたことを意味していた。
普通であれば警戒するシチュエーションである。
だが、ジローは目を輝かせた。
「イカスデェス!」
……ノヴァは気にするのをやめた。
地図には三つのポイントと、そこまでのルートが表示されている。
「お腹が減っちゃうのが心配デス」
と、ノヴァを追いかけながらジローが言う。
「確かにな。問題は食料と水をどうするかになってくる。それに空気も持っていかなくちゃならん。ローバーに乗せられる食料と空気の積載量は、合計でだいたい〇・五立方メートル。五〇〇リットルぐらいだ。ジローほどの大喰らいと一緒だということを考慮すると……」
探査用ローバー《ナンバーナイン》は、ある程度の日数を要する移動も想定しており、それなりに物資などが詰め込めるように設計されている。
ただし、ノヴァのローバーは調査機器やエネルギータンクなどが満載されているうえに、採取した素材も載せて帰ってこなくてはならないため、物資の積載可能スペース(ペイロード)はそれほど多くなかった。
通常の惑星探査ミッションでは、それほど日数を要する長距離移動であれば、宇宙船ごと移動してしまう。今回のようなケースは想定外ということになる。
「私はノヴァさんの三倍は食べたいデス!」
ジローには節制という言葉は存在しないらしかった。
「……探査日数が五十日間だと仮定して、通常の人間なら食料五十キロ、水百五十リットル。 だがお前の場合、その三倍……食料百五十キロ、水四百五十リットルが必要になる。」
ノヴァは歩きながら、計算用コンソールを弾く。
一キロあたりの食料パッケージがかさばることを考慮し、空間体積に換算すると――
「合計で一六〇〇リットル(一・六立方メートル)。 ローバーの積載限界の三倍以上だ。酸素タンクを積むスペースどころか、俺が乗る場所もなくなるぞ。」
物理的に不可能だ。
やはり、地道に近場を往復するしかないのか。ノヴァが頭を抱えかけた時、イブが口を開いた。
『私にアイデアがあります。ジローさんの船にミサイルは残っていますか?』
「あるデス。撃ってないやつがいっぱいあるデス。」
『そのミサイルの飛距離はどのくらいですか?』
「この星の反対側まで飛ばせるデス。」
その言葉に、ノヴァが指を鳴らした。
「……! そうか、“プレポジショニング”か! ミサイルを使って中継地点に食料を送るのか!」
”プレポジショニング(事前集積)”とは、二十一世紀の宇宙開発初期から用いられている手法であり、火星への有人ミッション計画などにおいて、隊員の到着に先立ち、必要な資材や食料を目的地に事前に配置しておく戦略を指す。
『その通りです。ミサイルの弾頭を外し、起爆装置を停止させたうえで、食料と水を搭載して発射します。 落下地点は計算可能ですし、発信器を付けることでピックアップが可能です。』
「最高のアイデアデス! これで、毎日お腹いっぱい食べても心配いらないデス!」
諸手を挙げて喜ぶジロー。
ノヴァはジト目でそれを見る。
「こいつ、もう一回砂に埋めた方がいいんじゃない?」
『推奨します。それによりマスターの生存確率は二〇〇%上昇します。』
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