小犬になった魔女クロエと少年ジップの冒険譚

チワワ大将軍

第1話 クロエ

 私の名前はクロエ。魔女である。魔女クロエの名前は知らなくても、黒の森の大魔女と言えば聞いたことのある人はいるかもしれない。

 歳は200歳から後は数えたことが無い。この世に生を受けた時の肉体はとうに失われ、魔力と魔素により作られた肉体を持つ、今は永遠の25歳である。

 かつては何人かの男を愛した事もあったが、この数百年はもうそんな気持ちにもなれない。大体、自分が人間だという確信も無いのである。とても人間相手に惚れた腫れたという気持ちにはなれない。 


 その有り余る時間を使って私がやっているのは、新しい魔法の発見と研究である。数百年の時を費やして研究してわかった事は、まだ私は魔法の深淵の入り口の所にいるかどうか、いや、入り口にすら至ってないのかもしれないという事であった。

 今の私に寿命があるのかはわからないが、魔法は生涯を費やして研究するに値する。それ程魔法とは奥深いのである。

 生きる時間の長さに比例して、私の魔力は増大して、ただの魔法使いであった私は、いつしか周囲から畏れを込めて魔人とか、大魔女と呼ばれる事となった。


 現在、魔法と言われて広まっているものは魔法で魔素を操り様々な事象を起こすものであるが、実は魔素そのものを力や物質に変換させる失われた魔法、古代魔法や神代魔法と呼ばれる物が存在する。

 古代遺跡やダンジョンで稀に手に入れられるその力は絶大で、それを得た者は魔王を倒す勇者や伝説の王になったりするという。

 当然、得た者は秘匿するため、その存在は御伽話や伝説であったが、実は私は既に2つの古代魔法を習得している。1つは不滅の肉体を作り不老不死となる魔法。厳密には不滅では無いのだが、ほぼ不滅である。もう一つは精神感応により無詠唱で魔法を発動する方法。通常は魔本陣を描いたり、詠唱により擬似魔法陣を作用させることにより魔法を発動させるが、無詠唱魔法は魔力を触媒として魔素を変換させる魔法で一般魔法とは発動原理が違う。ただ、現在は小さな傷を治癒したり、ちょっと火をつけたり、暑い日に風を送ったりするのと、小さな火球やかまいたちで弱い魔物を倒すことくらいしかできない。今後に期待である。


 数年前から私は北の大陸の古代遺跡とそこにあるダンジョンに不定期に潜っている。

 世界各地にあるダンジョンはそこを調べたり、ダンジョンボスと呼ばれる強い魔物を倒すことにより、希少な魔道具や古代魔法の魔導書を手に入れることができるのだ。

 永久凍土と雪に閉ざされたこの遺跡の存在は周りの環境からも多分誰にも知られていないと思われる。面白そうな物を見つけると戻って研究したりしていたので、数年かけて、今日やっとその最下層である72階層に到達したのだ。

 私は決して弱くは無いが、戦闘の専門家ではない。ダンジョンの魔物に負ける事はないが、効率よく倒したりはできない。


最下層は石造りの建造物が連なる、いかにもザ・遺跡的な世界が広がっている。このダンジョンは極寒の地にあるが、他のダンジョンと同じく、中にはジャングルの階層があったり、砂漠の階層があったり、変化に富んでいる。


 最下層に降りると、早速2体のアイアンゴーレムが現れる。かなり強力な魔物ではあるが私の敵ではない。極炎魔法一発で溶けて消滅してしまう。

 次に現れたストーンゴーレムも極炎魔法をかけ、続けて凍結魔法をかけるとガラガラと崩れて消滅する。石化魔法を使うコカトリスも風刃魔法で切り刻む。そしていよいよ最奥のダンジョンマスターの部屋の前。今までこのダンジョンではポーションや、破邪の剣、魔法のランタンなどの魔道具を手に入れたが、結局、新発見的なものは出なかった。ダンジョンマスターのドロップ品に期待である。


 青銅の扉を開けると、部屋の奥に王座のようなものがあり、司教のようなローブを羽織った骸骨が座っている。リッチだ。

 そしてその両脇にはデスナイト。アンデッド系と私の相性はあまり良くない。だが、実力差が大きければ相性などどうでも良い。身の回りに魔法障壁を二重掛けして右側のデスナイトに極炎魔法。

 所詮鉄の鎧の魔物である。高熱により一瞬で溶解する。魔法収納ができる腰のポーチからこのダンジョンで見つけた破邪の剣を取り出し左側のデスナイトに投擲。刺さった剣の浄化作用によりデスナイトが光の粒子に変わってゆく。 リッチの放った凍結魔法が魔法障壁に阻まれ小さな稲妻を放ちながら相殺されてゆく。素早くリッチに駆け寄り、右手で殴り倒しそのまま拾った破邪の剣でリッチの胸郭の中にある心臓の形をしたをものを破砕する。

 あっけなくリッチは光の粒子に変わってゆき、跡には魔石とドロップ品である古い書物が残されていた。古代文字で書かれたこの書物が古代魔法について書かれたものなのかは、帰ってからのお楽しみである。


 それにしてもダンジョンとは何なんだろう。ダンジョン内の魔物を倒すと魔物は光の粒子となって消え、魔石や魔道具、ミスリルなど魔素を含んだ金属、魔導書などがもらえる。それに対してダンジョンの外で見つかる魔物は倒しても消えたりする事はない。食用にもなるし、素材としても使える。


 それにダンジョン内の魔物はいったい何を食べているのだろう。外の世界の魔物は人や家畜を襲って食べるし、魔物同士で食い合ったりもする。

 ダンジョンの特定の階層や最奥には階層主やダンジョンマスターの部屋があり、そこで彼らは何をするわけでも無く訪問者が来るのを待っている。

 ダンジョンは大概古代遺跡と共に見つかり、それが魔素を利用した力で動いているのは間違い無いが、どのような仕組みになっているのかはわからない。

 案外、ダンジョンは古代魔法を作った人々の娯楽施設であったものが、その人々の消えた後も稼働しているのではないか?とが考えてしまう私は変だろうか?本をポーチに収納して私は部屋の出口に向かう。


 黒の森の自宅で、私は北のダンジョンで手に入れた本を解読している。古代文字も文法もいくつかの異なった系統があり、簡単に解読できるとは限らない。

 今回の本はある人物の日誌のようにも研究記録のようにも思える。もう半年くらいかかりっきりであるが進みは遅々としたものである。まぁ、急いでいる訳でもないし、時間は有り余っているから構わないのであるが。





 

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