姉の友達(陽キャ)が毎日うちに遊びに来る、姉がいなくても遊びに来る。理由は不明。
丸焦ししゃも
姉の友達が毎日うちに遊びに来る
「弟くん、遊ぼー!」
声がしたので玄関の扉を開けると、姉の友達の
どうやら今日もうちに遊びにきたらしい。
まぁ、それ自体はさほど問題ではない。
兄妹姉妹の友達が自分んちに遊びに来るなんてよくある話だと思うし。
でもさ……。
そ の 肝 心 の 姉 が 今 は 不 在 な ん で す け ど。
「なんか言いたそうな顔してるね」
言いたいことなら山ほどあるわっ!
姉がいないのに姉の友達が遊びにくる理由が全くもって意味分からん!
「あー! 分かった! さてはエッチなこと考えてるな」
「考えてません」
「じゃあ、早く部屋にあげてよ」
「いや、姉はまだ帰ってきてないんですけど……」
「知ってる」
「じゃあなんで?」
「弟君と遊びにきたんじゃん。毎日そう言ってるじゃん」
世の弟諸君なら分かると思うが、実の姉なんてただのゴリラだ。
夜にアイスを買ってこいってパシリには使わされるし、年末の格闘技特番に影響されてよく分からない技の実験台にされたりもする!
風呂上りはいつもパンツ一丁であがってくるし、なんなら行きたくもないカラオケに彼氏役で付き合わされたこともある!
This is 女王様。
そう、それが実の姉なのである。
そんなゴリラの女王の友達なんて俺から見たら他人そのもの。
気まずい以外の何物でもないのだ。
「一応、俺、受験生なんですけど……」
「さーて! 昨日の漫画の続きでも読もっかな♪」
「待て待て待てーい!」
そのまま俺の部屋に行こうとするゴリラ(友達)を引き止めた。
ゴリラの友達はやっぱりゴリラ。
女王様の友達はやっぱり女王様。
こういう強引なところは姉とそっくりだ。
「今度はなにさ?」
「なんで毎度毎度、俺の部屋に来るんですか! 姉ちゃんが帰ってきてからでいいでしょう!」
「弟君のことが好きだからじゃん」
「へ?」
「あっ、可愛い~。赤くなってる」
「ぐぅ……」
博識な人にぜひ教えて欲しい……。
どうして世の弟は姉に勝てないのか!
もはや遺伝子レベルで負けを刻まれている気がするんだが!?
いや、この場合は姉の友達なんだけどさ!
「じゃあレッツゴー♪」
「はぁ……」
こうして今日も姉の友達が俺の部屋に遊びにきてしまったのであった。
◇
姉の友達が、俺がいつも寝ているベッドの上で悠々自適と漫画を読んでいる。
「ポテチ食べる?」
「食べません」
ベッドの上でスナック菓子食うなよ。
俺は姉の友達を無視して、机に向かって黙々と勉強することにした。
「これ新作のポテチなんだって~。辛くておいしいよ」
「そうですか」
「ほれほれ、食べたくなってきたでしょう」
「全然」
うざぁ……黙って漫画を読んでればいいのに積極的に声をかけてきやがる。
「あっ、そうだ。これ差し入れのジュース」
「ありがとうございます」
「ちゃんとお礼が言えて偉いぞ~」
ジュースを渡されたついでに、頭をなでなでされた。
ぐぬぬぬ……! ムカつく……!
めちゃくちゃ子供扱いされている。
姉の友達は完全に陽キャだ。
腰まで長い明るい茶髪。
指と手首には色とりどりのアクセサリー。
耳にピアスはついていないみたいだけど、Yシャツは第二ボタンまで外していて胸元のリボンはかなりゆるゆるになっている。
そんなどこかどう見てもギャルな彼女だが、顔つきはかなりの童顔なので妙なギャップを生んでいる。
「弟君って真面目だよね。家でずっと勉強しているし」
「真面目というか受験生なので」
「そっかー、もう中学三年生だもんね。どこの高校を受けるの?」
「……」
言いたくねぇええ!
姉ちゃんとあなたと同じ高校ですなんて絶対に言いたくない!
「まぁ、もう知ってるんだけどね。お姉さんから聞いてるし」
「じゃあ聞かないでくださいよッ!」
「あははははは!」
こんのクソ陽キャめが……! 心底楽しそうに笑いやがって!
「弟君が入学したら私が学校を案内してあげるからね」
「どうも」
「もっと嬉しそうにしろー!」
「いたたたた!」
脇腹を思いっきりつつかれた。
なんで陽キャってこうも距離が近いかなぁ。
なんか姉ちゃんが二人いるみたいな感覚になってくるよ。
……でも、“姉”と“姉の友達”って決定的に違うところがある。
これを言ったらまたからかわれそうだから絶対に言えないんだけどさ。
何故か“姉の友達”って可愛く見えるんだよなぁ……。
姉本人はどんなに間違ってもオラウータンにしか見えないのにさ。
「勉強教えてあげようか?」
「だ、大丈夫です」
そんなわけで、こんな風にスキンシップを取られるとかなりドキッとしてしまう。
仕方ないじゃん、姉の友達とはいえど可愛い女の子にそんなことされたら誰でもそうなるって。
「遠慮するなって~。こう見えても、私は成績良いんだぞ~」
「嘘は良くないですよ」
「私、弟君には嘘をついたときないもん」
先輩が真顔でそんなことを言ってきた。
その見た目でそんなことを言われても、ぜーんぜん説得力がないんですけどね。
「信じてない顔してるな」
「はい」
「弟君って私のこと馬鹿にしてるでしょう」
「若干ですが」
「こんにゃろー!」
近い! 近い! だから近いんだって!
今度は後ろから抱きつかれた!
「大体、なんで姉ちゃんがいないのにわざわざ遊びに来てるんですか!? おかしくないですか!?」
「それさっきも言ったじゃん」
「ん?」
先輩が少しだけ悲しそうな顔をして俺から離れた。
「仕方がないなぁ。弟君、今日は忙しそうだから勘弁してあげるか」
「……」
「なにそのムッツリな顔」
「そんな顔してませんから」
急に引いてきやがった。
何故かこっちが悪いことしちゃったかなぁって気分になってくる。
「……ちなみに俺、その弟君って呼び方は好きじゃないです」
「ん?」
「俺の名前は
「……」
ばつの悪さを誤魔化してそう言ったのだが、先輩の顔がにぱーっと明るくなった。
「そっか、じゃあ勉強頑張ってね! 涼太君!」
恥っ! いきなり名前で呼ばれるとかなり恥ずかしい!
自分の顔が赤くなっていくのが分かる。
「私、
「なっ!?」
「じゃあばいばーい!」
そう言って、姉の友達は俺の部屋から去っていった。
「はぁ……」
つい溜息が出てしまった。
すっげー緊張した。
表情を崩さずにいるのって大変なんだよ……。
変ににやけたりしたら、絶対に姉ちゃんに報告される。
そうなったらその後の展開は火を見るより明らかだ!
「嘘はつかないかぁ……」
“弟君のことが好きだからじゃん”
先輩はさっきそんなことを言っていたよな……?
「……」
「……」
「……」
「……」
せ、せせ先輩ってもしかして俺のこと好きなの!?
いやいや! あり得ない!
だって姉ちゃんの友達だぞ!?
「まさかなぁ――」
俺は緩みそうになった口元を結び直して、再び勉強に戻ったのであった。
◇
~玄関前~
「
「ふぇえええ……今日も緊張したよぉ……心臓がバクバクだよぉ……」
「なーんでうちの弟のためにそんなに無理するのかなぁ」
「だ、だってぇ!」
「クラスでは“雑魚ちゃん”なんて呼ばれてるくせにさ」
「ざ、雑魚って呼ぶなぁ!」
「私、毎日毎日あんたのために遅れて帰らないといけないのめんどくさいんだけど」
「だ、だってぇ!
「いや、今のままでも十分おかしいって」
「う゛ぅっ」
「無理に強く見せなくてもいいと思うんだけどなぁ。素の本人はこんなによわよわななんだから」
「だ、だってぇ……こんな私を知られたら絶対に好きになってもらえないもん。それに
「同級生に自分の真似される私の身にもなってほしいなぁ~」
「う゛ぐぁ!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……今日はもう帰ったら? これからも協力はしてあげるからさ」
「
「んー?」
「私、もしかしたら
「えぇええ!?」
「理由不明で遊びにきていることになってたのにぃいい!」
「だから、それは無理があるって」
姉の友達(陽キャ)が毎日うちに遊びに来る、姉がいなくても遊びに来る。理由は不明。 丸焦ししゃも @sisyamoA
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