第2話

 村の温泉。無料券が配布された。一人五枚。

「助かった、これで五回タダで風呂に入れる」

ヘリックツは服を脱ぐと、体重計が空くのを待たずに風呂場の戸を開けた。まずはサウナ。酒を抜かねば。夜中からバイト漬けが、また始まる。平日の夜は人も少ない。それでもいつもの顔が見えれば世間話をする。えーちゃんが死んだのもここで知った。あんなふうになったらおしまい。いや、もうておくれか?

 浮かない気分でサウナのドアを開けると、三人の村の子供たち。「あ、どうも」「おう」上の段に座ると左端に居た子供が振り返り「ねえ、へりっくつさん?なんでまだこの村に居るの?」と聞いて来た。他のふたりも振り返る。

 不意だった。子供は正直、これがみんなの意見。

 

 「はやく出ていけ」


 「なんで出ていかないんだ?」


 「そりゃあ、店をやってるからだよ」「そうかあ、やめられないのか」真ん中に座ってる子はへりっくつの末娘と同級生だった。「居なくなって欲しいのかい?」反撃してやると、「いやあ、まおちゃんたち、お父さん居なくて大丈夫なのかなって」「大丈夫さ、お母さんが居るからね」「そうかあ」

 「どうして結婚したんですか?」娘の元同級生から。

 「そりゃあ好きだからだよ」「ふうん」それから子供たちはへりっくつより暑さに耐えかねて飛び出して行った。

 ひとりで残されたへりっくつは、泣きたい気持ちだった。それでも話しかけて来たふたりの子供たちの家庭環境も単純ではない。だからかな?そんなこじつけをして、体を洗って湯船に浸かり、風呂を出た。

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