アリーとソニアの泥棒の旅
humiya。
裕福な貴族のお宝
第1話 悪漢に脅される
この世界には何十何百、何千もの武器防具が存在する。そんな装備の中でも群を抜くのが魔法具と呼ばれる、魔法の力を備えた道具達である。
なんて
結局、ヒトは自分勝手に使える物さえあればそれで良いのだろう。
私が今居るこのまちはとても裕福で、店一つ見てもどこも大きく、品揃えも豊富だ。そうなれば当然店員に客とヒトの出入りが多くなる。そんな賑やかなまちの中、ワタシはあらゆる店を物色していた。
「少しよろしいかしら?」
そんな風に声を掛けてはどんな物があるか、そんなヒトが買っているかを聞いて行き、そして粗方店の中を見て回ったら何も買わずに店を出る。
偶に買う事もあるけど、今回は特に何も買う事も無くその日一日を終えて、部屋をとっている宿へと戻った。何日か滞在している為に、そんなワタシの顔を覚えた何人かがウワサしているのを耳にする。
「またあのお嬢さんだ。」
「今日は何も買わなかったらしい。」
「贅沢だよなぁ。それなりに身分のある家の生まれなんだろ?」
「店だって余程の金持ちじゃないと店の中に踏み入れる事だって出来ないんだろ?それなのにただ見て終わり。贅沢なもんだな。」
身分があるのは合っている。金持ちなのも合っている。それ故にただ歩くだけでも目立つのは自分でも分かっている。でもそんな事を気にしない。だってワタシは見られる事に慣れているから。ソレが良いものか悪いものかは関係無い。そういう家に生まれた者は皆そういう風に見られる。当然の事だ。
だからワタシも気にせずに部屋の中、寝台の上に思い切り手足を放り出して寝転がる。行儀が悪いなんて言うヒトはこの場にはいない。
ワタシは
不用心だろうが、ワタシはあまり傍にヒトを置きたくない。ただでさえ家では窮屈な思いをしていたのだから、こういう時こそ一人で羽を伸ばしたい。
宿の安全はしっかり守られている。余程のバカが大きな爆弾を抱えて突撃して来ない限りは大丈夫だろう。少なくとも治安が良いと言われるまちでそんな事を考えるヒトはいないハズ。
「…さて、明日はどうしようかしら。好い加減別のまちにも行きましょうか。」
そんな独り言を言う位にワタシ自身、油断をしていた。だからこそ、それが直ぐそこまで来ている事に気付かなかった。
突如、ワタシの髪が靡いた。それと同時に肌寒さを感じた。見れば、仕舞っていたハズの窓が開いていた。その時は単純に窓の閉め忘れとか、窓の金具が壊れて開いてしまったと思っていた。
歩き回っていた疲れもあってワタシは頭を掻きつつもゆったりと歩いて窓の方へと近寄り、窓を閉じようと手を伸ばした。
その瞬間、何かに襟首を掴まれ、思い切り引っ張られて押し倒された。
一体何が起きたのか分からない。押し倒された瞬間、頭を打ちつけようとしたから受け身をとろうとして変な体勢になり、少し体を床に打ちつけて、打った体の箇所が痛む。痛みで何が起きたか頭に理解するのに時間が掛かった。
そして漸く咄嗟に閉じていた目を開いて、目の前を見た。そこには、ヒトが立っていた。
ボロボロで真っ黒な外套、と呼んで良いのか。ただボロキレを纏っているだけの様に見えるが、とにかく布に隠れて顔がまともに見えない。そんな異様な人物が自分の目の前に立っていると言う事実でワタシは体を強張らせた。
するとその顔も見えない人物は、ワタシの方へと歩み寄って来た。ワタシは立ち上がろうとしたが、足がもつれて上手く動けず座り込んだまま。そしてその人物が直ぐ目の前まで来ると、顔を近付けた。
「お前、かねもちか?」
かねもち、つまり金持ちという事だろうか?発音が妙に訛ったている様な感じで上手く聞き取れなかったが合っているハズ。
ワタシは自分の身可愛さに素直に縦の首を振った。するとその人物は続けて口を開いた。
「はらへった。お前、何かもってこい。」
突然の要求にワタシは一瞬だけ混乱したが、相手が懐から何かを出すのを見て血の気が引いた。外から部屋の中に射し込んだ光か何かに反射して光る先の尖ったもの。明らかに刃物だった。
更に自分の命が危険だと察知してワタシは言われた通りに用意する事にした。まるで弾かれる様にして勢い良く立ち上がり部屋を出た。
部屋を出た瞬間。ワタシは自分の心音を聞きながら息を整えて落ち着こうとした。そして徐々に落ち着いて来て、今ならヒトに助けを呼べると思う、宿のヒトの元へと駆けた。
そして息を切らしながらやっと店主を見つけた。店主はワタシが息を切らして走り寄ってくた事に驚き私に話し掛けてきた。そこでワタシは部屋に何者かが侵入して脅されたと言おうとした。瞬間、何かが視界の恥で光るのが目に入った。
ワタシの見える位置、そこに先程ワタシを脅してきたヤツがいた。それもワタシにしか見えず、他のヒトや店主には見えぬ物陰に隠れて、刃物をちらつかせてそこにいた。
そこに目にした瞬間ワタシは息を飲み、直ぐに今の自分の状況を理解した。
話したら、ヤられる。
そう思い、ワタシは言うのを止めた。
「ハァ…ハァ…あの、ワタシの部屋に食事を持って来て下さらない?出来るだけ早めに。」
そう言い、ワタシは何事も無かったかのようにして歩いて部屋へと戻った。
きっと店主や見ていた他の客には、『金持ちの少女が腹を空かせて、急いで食事を用意をしろと要求してきた』と見えただろう。何てイヤな勘違いをさせたんだろう。しかし、そうする他無かった。
あぁ、何て最悪な事だ!
ワタシは見聞と称して一人旅を満喫しようとしていたのに、やはり金持ちである事は隠しておくべきだった。高い身分をちらつかせえば楽に動けると思ったが、反面危険も伴うと分かっていたハズなのに!
ワタシは歯を食いしばり、自分の今までの行動の軽率さを後悔しながら、きっと待っているであろうあの危険人物のいる、自分が寝泊りしているだけだったハズの部屋へと戻った。
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