阿佐見香

ゆる

第1話 朝のアラーム

 今日は目覚まし時計が鳴らなかった。毎日正確に起こしてくれたアラーム音。


 5時42分。廊下が軋む音。誰も起こさないようにゆっくりと進む。

 5時46分。米をとぐ音。ジャカジャカと水を浴びる米。すぐに炊飯器にセットされたのだろう、スタートの可愛らしい機械音。ピー。

 5時53分。卵を焼く音。豪快に焼かれる。美味そうな音と匂い。俺が甘めが好きだからか、少し甘ったるい匂いがする。

 この辺りで俺は布団の中から這い起きて、素早く着替えと身嗜みを整える。今日は寝癖が収まらないけど、これでもいいかと一息つく。

 6時03分。米が炊けた音がする。俺も廊下に出て台所へ向かう。

 6時04分。ばあちゃんにおはよう。

 おはよ、ばあちゃん。おはようカオちゃん。朝ごはんできるからね、座って待っててね、お水飲んで。そういえば今日も暑いわね、エアコンつけようか? ううん、窓でいいよ。あとでエアコンにすればいい。そっか、そうね。はい、ご飯できたよ。いっぱい食べてね。ありがと、いただきまーす。


 今日の時刻は6時ちょうど。スマホのアラームが無機質に起こした。俺を出迎えてくれる朝日もなければ朝食もない。やる気が出ない。

 溜息をついて窓を開ける。ヒュル、と髪を撫でる感覚があった。


『おはよう、カオちゃん』


 ああ、今日から自分で起きなきゃいけなくなっちゃったよ。おはよ、ばあちゃん。明日はもっと早起きして頑張って飯も作ってみるから、風を吹かして挨拶しに来て。

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