第117話 二度目の魔女戦
アリサさんといろんな話をしながらポチに走ってもらい、すっかり夕焼けが差す頃になった。
ポチの速度なら一日も走ればエンブラム領の大都市エンブラムから王都を経由して、さらに北上してルデラガン領の大都市ブレイブリーまで着けるというのに、まさかそこまで続く広大な森だ。
それには理由があって、ここは帝国でも非常に有名な狩場の一つで、オルタナ大森林という場所だ。名前通り大森林が広がっていて、帝国の北東部分を大半占領していて、帝国の東側が田舎と呼ばれる理由の一つだという。
領地が狭いから開発があまり進んでいないらしい。
こういう大自然も多すぎるのは問題があるな。
ポチの最小限の戦いだけで進めたおかげでほぼ真っすぐ帝都がある西を目指せている。
そのときだった。ポチが急停止しながら威嚇する
「ガフッ! ワンワン!」
「アリサさん。ポチから絶対に離れないように。できればしがみついていてください」
「はいっ!」
ポチの急停止に合わせて慣性による飛び込みで大ジャンプをしながら、スキルを【サイズマリオネット】から【エクスキューショナー】に変更し、それと同時にレイも全開放する。
「やっと見つけたぁあああああ! ベリルゥウウウウウ!」
地面からぬるぬるっと出て来たのは、身長は小さいのに筋肉ムキムキで横に広い非常にアンバランスな魔女だった。
魔女ペインことリエスティはわりと人の形を保っていたけど、エヴァネス様曰く魔女で人の形を保ててるってことは弱いってことらしい。
じゃあ、エヴァネス様達はというと、弱い状態で人型で、どんどん強くなると異型となり、さらに限界点を越えるとまた人型に戻るというが、実際たどり着けたのはエヴァネス様以外見たことがないみたい。
ブラックデイズを取り出して、魔女と対峙する。
「何のために俺を追いかける!」
「何のため……だと!? ふざけるなぁあああああ!」
魔女の叫びだけで凄まじい音圧が放たれる。
木々が揺れ、まだ生え始めたばかりの葉っぱが吹き飛んでいく。
「話ができる相手ではないみたいだな……まず自衛させてもらうぞ」
「やれるもんならやってみやがれ!」
魔女の体から一瞬禍々しいオーラが灯ると同時にレイが地面を叩きつけて俺の体を強制的に移動させる。
直後、俺が立っていた場所に魔女の太い腕が突き刺さっていた。
――――だが、その腕に肘から肩にかけて傷が付き、赤い血液が宙を舞った。
二度目の限界突破のおかげで最終進化でなくてもステータス“俊敏”がかなり高く、動ける速さ以外に反応速度も以前よりも強くなっている。
ブラックサイズによって傷つけられても魔女は構うことなく、俺に殴りかかって来る。
魔女ってもっと魔法とか使って攻撃するものだと思うんだが、彼女は何故か接近戦ばかりしている。
彼女の攻撃毎に合わせてカウンターを与えて何度もそれを繰り返す。
三十回目には彼女の腕は自分の血で真っ赤に染まっていた。だが、それでも彼女は止まる気配がない。
そのとき、彼女は両腕を合わせた。
「――――ブラッディクロス!」
地面に落ちていた彼女の血液が赤く光り、彼女に集め出した。
このまま放置するわけにはいかないな。
レイによる超高速移動に合わせて技【サイズスイング】を使う。
ポロポコ村に居た頃によく使っていた技で攻撃の長さが伸びるので非常に便利な技だ。
彼女を通り過ぎながら斬りつけた攻撃は、ギリギリ彼女の首を半分程斬れた。
だがそこにあるのは何もない空虚になっていて、すぐに元通りになってしまった。
腕を斬って血が出て魔法を使う……となると、それ以外のところはあまり意味がなさそう。弱点はやはり分厚い胸板の底か?
さっきの魔法で彼女の筋肉そのものに赤い血が付着し、赤い猛獣のように変化した。
「ベリルゥゥ……殺してやる!」
「だから一体何で俺を狙ってるのさ! こう見えても悪いことはしてないぞ! たぶん」
「貴様ぁああああ!」
スピードが上昇したのか、さっきよりも速くなった彼女の太い腕が俺を襲う。
レイを盾代わりにして受け止めると、分厚い鉄球にでもぶつかったような衝撃と共に、体が吹き飛ばされた。
いくつかの木が折れる程に俺の体は投げ飛ばされたが、レイのおかげで全くの無傷だ。
ただレイだって無敵じゃない。このまま彼女の攻撃を受け続けたらレイが先に倒れてしまう。そうなるとしばらくレイが発動できなくなるので、この先のことを思えばかなりの痛手だ。
このままアリサさんを連れて空を飛び逃げるか?
いや、すでにもう二人の魔女もどこかに潜んでいて合流させやすくするだけになる。
やはりここで彼女を倒さないといけないか。
真っ赤になった魔女が飛び込んできて、それに合わせてギリギリの距離で斬りつける。
鋼鉄を斬っているかのように金属の甲高い音と火花を散らしながら、そのまま彼女の脇腹を斬りつけた。
――――カン!
まさか斬りつけることができず、ブラックサイズが跳ね返ってしまった。
だが俺だってそこそこ長い間戦ってきた身だ。こういうときのことも想定済みだ。
反動で斬りつけた反対側に慣性移動し始めたブラックサイズを手放し、左手にデュランデイズを呼び出す。
周囲が赤く染まっている中、デュランデイズの真っ白な輝きが一閃となり、彼女の左足を斬りつけた
足が切れて体重の重心を失った魔女が倒れ込む。
俺を振り払おうと腕をバタバタとさせるが、その隙間から魔女の首を斬り落とした。
やはり血が流れているのは胴体のみのようで、切れた足と首の中は空虚そのものだ。
痛みは感じてなさそうだが、足と頭がなくなると移動だったり、目で見ることは難しいみたいだ。
頭と足は胴体から離れたところに吹き飛ばしておく。
さて……どうトドメを刺したらいいものか。というか攻撃されたから反撃したけど……理由も知らずに殺すのはあまり好きではない。
敵……なのは間違いないが、エヴァネス様やリサ、リエスティの件もあるし、魔女とはあまり敵対したくはないからな。
ひとまず胴体をそのままに、転がっていた頭部に話しかけてみることにする。
「話せるか?」
「貴様ああああ! 私の頭を返せ!」
いや……頭が頭を返せってどういうことだよ。てか離れていても意識自体は繋がっているのかよ。確かに切れた足もびくびくと起き上がろうとしているし、かなりホラー感満載だな。
「俺はお前達と戦う理由がない。何か誤解があれば解きたいが……」
「貴様何かと話すことなどない!」
少し冷静になった魔女は周りを見渡して、こちらに向かって胴体を動かしてきた。
腕が車輪みたいにグルグル回って動く様は赤い闘牛そのものだ。
このまま合流されても困るし、自由はわからないが自衛させてもらおう。
「奥義【シャドウオブデスサイズ】」
こちらに向かって来る胴体をそのまま真っ二つにした。
「ぎゃあああああ!」
ようやく痛みを感じたのか声を上げると、そのまま彼女は――――絶命した。
心臓が胸の中央にあると踏んでいたが……やはりその通りだったな。
シューッと音を立てて蒸発していく血は、彼女が人ではなく魔女であることを意味するのだろう。
――――そのときだった。
上空から女達の声が聞こえてくる。
「速度はかなり速いね」
「うんうん。背中の黒いマントにも秘密があるそう」
「武器は二種類っぽい。光と闇属性」
「装備測定結果。中級」
「中級とか雑魚じゃん!」
「油断するな。グエヌアはあれにやられたんだ。あの子の死を無駄にするな」
六名の魔女が俺をジッと観察していた。
……これ、ヤバくねぇ?
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