廃ゲーマーの農夫転生~俺だけが知っている最弱職能の進化先で成り上がる!?~
御峰。
一章
第1話 サービス終了、そして、転生。
「今度こそ倒すぞ!」
「やってやる……! これが最後のチャンス! ここであの”魔王”を倒して俺達の正義を示すんだ!」
玉座に座った俺を見上げる六人。
それぞれの武器を俺に向ける。
「はははは! もう何度目か。白銀の英雄シレンよ」
「う、うるせぇ! 今度こそ俺達が勝つんだからな!」
「くっくっくっ。やれるもんならやってみるがいい」
俺は玉座の隣に置かれた黒いオーラを放つ禍々しい――――死神の鎌を手にし、立ち上がった。
「”魔王”ベリル! 今度こそ、お前を討つ!」
玉座に座る俺に向かって走ってくる彼らを、俺は迎え撃った。
数時間後。
「まじかよ……今日も勝てなかったんだが……」
そう溜息を吐くのは、さっきまで俺と死闘を繰り返した男、白銀の英雄という称号を貰ったシレンさんだ。
「残念でしたね。ちょうど俺の五百勝目です」
俺と彼は沈んでいく夕陽を魔王城から眺めている。
「これももう終わりか……寂しいもんだな」
「ええ。俺も……寂しいです」
「ベリルくんはこれからどうするんだ? 別のゲームはやらないのか?」
「別のゲーム……それもいいかも知れませんけど……ここ――――“ワールドオブリバティー”よりも面白いゲームなんて想像もできません……」
「すげぇわかるわ……じゃなかったらこんな過疎ってるゲームを、十年もやらないしな」
「ですね。もう人生の一部……だったんですけど、仕方ないっすね」
「……なあ、ベリルくん。もし君さえ良ければ、俺達のメンバーにならないか? 新作の“トリニティールーツ”を始めるつもりなんだ」
「新作ですか……しばらくゲームは……」
「そっか。まあ、ベリルくんならいつでも大歓迎だぞ。もう何年も一緒に
「ありがとうございます。そのときは連絡を送らせていただきます」
「待ってるぜ。じゃあ、俺はそろそろ向こうに行くよ」
「ええ。また」
そう話した彼は何の未練もないように光の粒となって消えた。
彼が行ったのはログアウト。この仮想空間世界“ワールドオブリバティー”は、本日を以ってサービスを終了する。
フルダイブ式で、自由度の高いゲームで、隠し要素もたくさんあり、十年という歳月を費やしても見つかっていない要素も多々ある。
例えば――――俺が使う死神の鎌のように。
まあ、俺が見つけられたのも偶然で、元とは言え、ブラック過ぎる父の会社で働かされ無能呼ばわりされるのが嫌で始めたゲームで、心を癒すために農夫を選んだからだ。
気付けば“ワールドオブリバティー”の最強プレイヤーとして、称号“魔王”まで運営から貰えた。
プレイ十年……今では無能呼ばわりから体を壊して……父からは勘当されて縁を切られ……使う暇もなかった貯蓄を切り崩しながら、この世界で生きてきた。
もう終わると思うと……熱いモノが込み上がってくる。
さっき俺と対戦した六人は、この世界でも最強と呼ばれているギルドだが、それでも俺に五百連敗している。
俺が楽しみにしていた唯一のイベントはそれだった。みんなと戦っているときだけが生きている気がしていた。
――――けれど。
彼らにとっては、生き甲斐ではなく、ただの遊びだったみたい。この世界を最後まで見届けることもなかった。
もし俺がソロプレイヤーじゃなかったら……もっとこの世界を楽しめたのかな? 自由な世界が売りとはいえ、この世界にも壮大なストーリーが用意されていて、それを追体験するだけで楽しいと評判だったが、俺は一切やったことがない。
だって……向かうところにいつも人がいっぱいいて……。
日が沈む絶景を眺めながら、俺は心の底から溢れる涙を流し続けた。
楽しかったな……もうここで生きることはできないんだろうな……。
そのとき――――俺の前に小さなウィンドウが現れる。
『長年遊んでいただき心より感謝申し上げます。ワールドオブリバティー運営一同』
はは……こちらこそだよ……過疎ってしまって運営も大変だっただろうに……ありがとう。
次の瞬間、ぶちっと景色が真っ黒に変わった。
ああ……ついに……この世界も……終わり……だな……。
俺はゆっくりと沈んでいく意識を――――手放した。
◆
現実に戻ると、何だか全身が熱い。
うわぁ……これ……熱出したんじゃないのか? 確か風邪薬が冷蔵庫に……。
でも体を動かすこともできず、得体の知れない怠さにただぼんやりとこれからのことを想像する。
また新しい仕事をするのか、誘われたゲームをやってみるのか、飯はどうしよう、風呂も入らないとなとか、いろんなことを考える。
しかし、一向に体が起きない。全身に感覚もない。
あ……れ? 俺いま……どうなってるんだ?
そのとき、俺の体が勝手に何かに
「#$&!$#%##$&%」
ん? 何かが……聞こえる?
「$#!&$%~♪」
何を言っているのかはわからないけど、何故だか懐かしくも温かい声に、俺はしばし耳を傾けた。
体は動かせないけど、全身に伝わってくる温もりは、また泣いてしまうくらい懐かしいものだ。
母さん……天国で楽しく暮らしているのだろうか?
◆
二年後。
「ベ~リ~ル~」
大きい図体と男らしい太い声から似つかない甘そうなことを言いながら、すぐに俺に頬を擦り付けてくる。
「やあ! いやあ~」
俺は全力で彼を拒否する。
だって――――
「ん~! うちのベリルくん可愛すぎる~」
い、痛いぇええええ! ひげが! 刺さってる! 痛いよ! ――――父さん!
そう。
彼は俺の父、アルク。
いや、俺の本当の父は別にいるんだけど、この人も本当に父で……って、何を言ってるんだ俺は。
つまるところ、俺はどうやら――――赤ちゃんとして生まれ直したらしい。
というのも、俺は何故か“ベリル”と呼ばれているし、父も前の父とは全く似てない。
それに何より、筋肉ムキムキで着ている服もボロボロ、いわゆる貧乏家庭と言っても違いないが、実はここではこれが当たり前だ。
「貴方~ベリルくんが嫌がっているわよ」
「これは愛情表現なんだ。シーナ」
「わかりますけど、貴方の無精ひげは痛いからそろそろやめてあげて」
「うう……」
残念そうに俺を離す父。
……くっ。痛くて放して欲しかったのに、離れるとちょっと……こう……心がもやる。
仕方がない。ここは……息子として赤ちゃんとしてサービスだ。
俺はトボトボ歩いて、父の足を抱きしめる。
「うおおお~! ベリル……ベリルうううう~!」
「あはは~ベリルくんってお父さん大好きだもんね~」
そう話すのは僕の母、シーナ。
美女かというと、多分美女。うちの父がよく結婚できたなと思えるくらいに綺麗な人。それに何よりも――――
ゆっくり近付いてきた母は、俺の頭を優しく撫でてくれる。
ああ……この光景も二年もすると慣れたものだな……。
◆
三年後。
家の外を歩けるようになって知ったのは、この世界はどうやら異世界のようで、日本ではないってことだ。
まあ、それくらい知っていた。だって、父も母も髪色と瞳の色が黒じゃないから。
父は茶髪。母は金髪。俺は、何故か黒。
どうやら髪の色が違う子供が生まれることも多々あるみたい。いわゆる先祖返りってやつらしいけど、母と父の子なのは誰よりも俺が知っているからな。なんたって、生まれたときから記憶があるから。
それといろいろ鑑みてわかったこと。
それは――――この世界が、“ワールドオブリバティー”に酷似していることだ。
何故それがわかるかというと、心の中で『ステータス』を思い浮かべると――――なんと! 目の前に澄んだ青色で透明なウィンドウが現れた。
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【名 前】ベリル
【年 齢】5歳
【職 能】農夫
【称 号】魔王と呼ばれていた者、転生者
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【レベル】1
【 力 】1
【俊 敏】1
【器 用】1
【頑 丈】1
【魔 力】1
【抵 抗】1
【 運 】1
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【スキル】
農耕の心得(-)
草刈り鎌使い(0/1000)
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【魔王と呼ばれていた者】
・威圧(魔王級)無効
・恐怖(魔王級)無効
・挑発系統無効
【転生者】
・獲得経験値1/10
・獲得熟練度1/10
・得られるステータスポイント10倍
・スキル無条件進化
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ステータス画面も、システムも、何もかもが……“ワールドオブリバティー”とそっくりだぜ!
ただちょっと気になるのは【称号】がいくつかあるのだが……そんなことよりもだ。
【職能】は本来なら“無”になっていなければおかしくて、そこから自分が好きな職能を選んで進めるのだが……最初から農夫になっている。
これって……お前は最初から農夫をやれ……ってコト!?
たが、俺はこれを悲観的には思っていない。
職能なんて教会に行けばいくらでも変更できるし……変更する必要もない。
だって、もしこの世界が本当に“ワールドオブリバティー”に酷似している世界ならば、俺が農夫からスタートするのは――――
ある意味、理にかなっているからだ。
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