第9話 魔物襲撃

「では作戦通りに東西南北の門に就いて下さい。」

 クロエがアギトに相談してから10日の時が流れた。


 ついに魔物襲撃の日が来た…


時が進むのは早かった。

 アギトの案の通りに進めた。結果を彼が知っていたかと驚くほど上手くいった。


 アギトのプランで一番の難関は街を出ていった勇者候補を探す事だった…


 だが彼の言った通りの街や場所に勇者候補はみんないた。


 牢獄にいるはずの彼は仲間がどこにいるか知らないはずなのにだ…



「では健闘を祈る。危なくなったら逃げろ!決して無理をするなよ!」

 シルヴァンが勇者候補の全員に告げる。だがアギトが脱獄したことは伝えていない。


 不安要素は伝えなかった。


 この場にはアギト以外の6人の勇者候補達がいた。

 シルヴァンはヴィオラと共に城に一番近い方角の北の門を守護。


 セリムは質屋のある方角の西の門を単独で守護。


 アイーシャ、アゴン、リーフの3人は貴族の屋敷に近い南の門を3人で守護。


 クロエは時計台に近い東の門を守護。

 この門はクロエが故郷ルイズからこの王都に来た際に通った門だった。



 クロエがアギトから貰った案は…


・セリムのいる王都から一番離れた街にいる。シルヴァンが出向き、共にレベリングを行う事。


 セリムは素行が悪いが、シルヴァンの強さに憧れている為。


・クロエはヴィオラと共に少しずつレベルアップを行う事。

 彼女はレベル10でも構わないので、しっかりと努力を続けさせる事。


 レベルが1上がったら、1日の終わりに甘い物を褒美にあげる事。



・アイーシャとアゴン、リーフは共にリゾート地にいる。

 アイーシャはそのままで十分な為、その周辺で自由に行動させる。


 行動の経費はシルヴァンに持たせる。

 経費申請は新月の昼間までに行わなければ自腹で支払わせる旨を伝える事。

つまりは半強制的に王都に戻らせる事ができる。


・アイーシャにリゾート地のペアチケット(二人用)を10日分渡し、アゴンとリーフがお互いにライバルとして成長するように競い合わせる事



 クロエはその案を伝えられた時は半信半疑だった。

 しかしまるで結果が予期出来ていたかのように、大成功だった。


 7人が集まった時よりも効率的にレベリングを行う事が出来た。


それこそメンバーの特性を熟知していなければ出来ないような特訓方法だ。


「本当に凄かったなぁ…やっぱりアギト君がリーダーをやった方が良かったよ…」

 しかし一方でリーダーとして何一つ成し遂げられなかった自分が、少しふがいなかった。



 夕方となり月が東の空から登り始める。

それと同時に遠くから大量の小型の魔物と1体の大型の魔物が門をめがけてやって来る。


「私頑張るよ。この王都を護るために…」


 クロエはヴィオラとレベリングを行う上でアギトに指示された事がある。


 それは得意な剣だけでなく、ヴィオラの様に魔法の練習を行う事。


 ヴィオラは魔法を教える立場になることで、彼女の自信の無さを取り除く事ができる。

 同時にクロエに黒魔法を特訓させる事が出来る。


 クロエが杖を構える。ヴィオラのお下がりの杖だ。それでも彼女には十分だった。


「黒魔法・『闇の沼』」

 それと同時にたくさんの魔物が歩みを進める地面に、真っ黒の沼が出現する。


 それにより大型の魔物以外は沼にどんどんと飲み込まれていく。


「すごい…これならば私一人でも大丈夫かもしれない。」


 クロエはそれまで緊張していた。こうして王都を護るなんて予想もしていなかった。

 1人で出来るかどうか不安だった。


 けれども今なら王都を救える気がしていた。


 小型の魔物が倒された。それにより門を守る兵士と共に大型の魔物・トロールに向かって進軍する。


「必ず…必ず王都を守ってみせる!」

 クロエは剣を抜く。大型の魔物と戦う為に。


 トロールは3メートル近くある大型の巨人型の魔物だ。

どこで手に入れたのか人間ほどの長さのこん棒を持っている。


 知性はなくヨダレを垂らしている。


 そんな魔物でも城門を破壊するには十分な力を持っている。

 討伐推奨レベルは25前後で、一般人はこの魔物を見たら逃げるように言われている。


「エンチャント・黒」

 クロエは右手に持った剣の刃を左手でなぞっていく。それにより刃に黒い魔力が付与される。


 黒の魔力の特徴『分解』

 それは攻撃力を高めたり、武器の耐久度を下げる攻撃特化の力。


「この場は私に任せて下さい。


 兵士の皆さんはゴブリンなどの魔物が城門に到達しないようにお願いします。」

 クロエは微笑みながら兵士にそう言うと、トロールに向かって急に冷たい目線になる。


 集中をしている証拠だった。

 トロールは彼女から敵意を感じたのか、彼女に向かって一直線に走って行く。


 その巨体からは信じられない位素早くクロエに近づいた。


(このトロール…通常のトロールより速いな…)


<シュ>

 風を切る音が聞こえると同時に、クロエはトロールの背後に移動して背を向けていた。


 一瞬でトロールを斬ったのだ。

 一回だけではない。何回もだ。


「1対1ならば、トロールには負けない。」

 大量の魔物がいたら、ヴィオラと共に特訓しなければ苦戦していたかもしれない。


「ウガァァァァァァ」

 トロールは叫びながら最後の力を振り絞る。こん棒を振り上げた。


「まだ戦うつもり?」

 クロエは剣を構えて、トロールを待ち構える。

 攻撃が来ると思っていたからだ。


 しかし違った。

 トロールは勝てないと分かっているクロエには目もくれずに、小型の魔物と戦っている兵士に向かってこん棒で攻撃した。


 兵士は吹き飛ばされる。


「失敗した…」

 クロエは少し後悔した。待ち構えるべきではなくトドメ刺すべきだったと。


 トロールは再び他の兵士に向かってこん棒を振り上げた。


「次はそうはさせない。」

 クロエは素早く動き、兵士とトロールの間に入る。

 剣を構えたが、その時にはトロールはこん棒を振り下ろした後だった。


<ガキン>

 クロエは黒魔法を付与した剣で、こん棒の振り下ろしを受けた。

 こん棒はクロエの剣により真っ二つになった。


 その後クロエは容赦なくトロールを斬った。それによりトロールは倒れた。

「ウガァァァァァア」


 間近でトロールを斬ったクロエが、耳を塞ぎたくなるほどのすさまじい断末魔だった。


「ふう」

 クロエはトロールを倒して一息ついた。

 その後こん棒を斬った剣を見た。


「やっぱり剣の耐久値が下がっているな…


 もう1体トロールがいたらこの剣は使えなくなるかも…」


 クロエはトロールという魔物を倒して安心していた。

 兵士達も魔物をほぼ駆逐し終えて、無事にこの城門の防衛は済みそうだった。


 しかし安心したのもつかの間だった。


「クロエ様…あれを…」

 兵士の一人がなにかに気付き、遠くを指差した。


「え…あれって…」

 クロエは信じたくなかった。先程の断末魔はトロールが仲間のトロールを呼ぶ合図だった事を…


 あの断末魔によって、トロールが4体クロエ達の元に近づいて来ていた。

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