第6話 希望
クロエとシルヴァンは勇者候補を率いてレベリングを行っていた。
パーティの目標をレベル15程に設定してモンスターを討伐していた。
「キツい…ちょっとリーダー…あたしもう無理…」
ヴィオラが杖で体を支えてクロエに文句を言う。
『魔法使い』であり、魔力に依存している職業。
レベルによって魔力が上がりやすいが、レベルが低いうちはどうしても足を引っ張りやすい。
レベルもまだ4とアギトより少しレベルが高いだけだ。
「はぁい。回復ねぇ!」
アイーシャが疲れたヴィオラを回復する。少しセクシーな服だ。
『踊り子』である彼女は、味方にバフを与え回復も行う。素手での戦闘も出来る万能職だ。
レベル21とクロエに次いでレベルが高い。
「さっすがアイーシャさん。便りになるな!」
リーフはアイーシャを労る。少しでも彼女に気に入られる為に…
「オラ、糞リーフが…ヴィオラに負担かかんねぇ様に、てめぇがもっと動けや!」
アゴンは大きな斧で魔物を斬りつけながらもリーフを睨みつける。さりげなくアイーシャにアピールを行う為に、ヴィオラをダシに使う。
「レベル上げも順調…なのかな?」
クロエは昨日にシルヴァンと相談して、ヴィオラがしっかりとレベルアップ出来る場所を選んだつもりだった。
パーティとしても何だかんだで連携は取れている。
しかしそれでもヴィオラにとってはキツいようだった。
アゴンとリーフも強がってはいるが、キツいようだった。
「チッ。やっぱりやってられねぇわ。」
セリムはナイフをしまう。まだ魔物がいるが戦闘態勢を解いた。
「セリム?どうしたんだ?」
シルヴァンは武器をしまったセリムを心配そうに見た。
「シルヴァンさん…俺はやっぱり一人でレベル上げるわ。
こんなレベル低い連中とつるんでいたら、いつまで経っても魔王を倒せないからさ。」
そうしてセリムはパーティを抜けようとする。
そんなセリムの背後から魔物が襲いかかる。
「あっ、あぶ…」
クロエが注意しようとしたときだった。
<シュ>
風が吹く音が聞こえたと同時に、彼に襲いかかる魔物は倒された。それを確認することなくセリムはその場を去った。
「あらぁ…カッコいいなぁ。惚れちゃいそう。」
そんな彼を見てアイーシャが唇を舐めながら呟く。
アゴンとリーフはそんなアイーシャの呟きを聞いていた。
「負けてられねぇわ。」
「うむ。」
「シルヴァンさん…俺もやっぱり一人でレベル上げするわ。」
「僕もだ!」
こうしてアゴンとリーフもパーティから抜ける。
「え…どうしよう…」
男性が抜けた事を見てクロエは慌てふためいている。
リーダーとしての焦りが、彼女達の本来の力を発揮出来なくさせたようだった。
「やっぱりもう無理ぃ。あたし帰るぅ!」
ヴィオラは駄々を捏ねる。
「そうねぇ…リーダーァ?彼女達にはここは早かったんじゃないのぉ?」
甘ったるい声でアイーシャがクロエに質問する。
「は?あたしにはここで十分だし。ただ気分が乗らないだけだっての!」
ヴィオラがアイーシャを睨みつける。男子からチヤホヤされている彼女に嫉妬していた。
こうして勇者候補の3日目のレベル上げは上手くいかずに終わった。
一時はまとまろうかとしていたパーティも、再びバラバラになりかけていた。
質素な夕食を終えた、アギトは眠っていた。
その日は考えることが上手く出来なかった。その為に休んだ方が効率が良いと判断したから。
しかし痛みの余りに眠りながらも熟睡は出来ずにいた。
<ゴソゴソ>
かすかだが部屋の隅から物音が聞こえる。しかし気のせいだと眠ろうとする。
(幽霊はたぶんいない。気のせいだ。)
<ゴソゴソ>
それでも音が続く。
(何か…いるのか?)
恐る恐るアギトは目を開けた。食材を隠している床の辺りから音が聞こえる。
部屋の隅…ここには唯一床板が上がる場所だ。物を隠しておくには持ってこいだ。
本来のゲーム内ではスキル『勇猛』を上げて脱獄する為にある穴だが…
「おまっ…」
どこからか入ってきたネズミが脱獄後に備えていた食料を食べ荒らしていた。
「最悪だ…」
アギトは自身の食料を食べるネズミを追い払おうと右手を上げるが…
(いや…こいつは看守に気付かずにこの牢屋を出入り出来る唯一の存在…)
アギトは起き上がり食料にありつくネズミを見ていた。
そしてスキル欄を眺める。
(ネズミを使って攻略法を見つける…『友情』を上げるべきか?)
職業『テイマー』。ゲームでの不遇職だ。
アギトが絶対にならない職業。『友情』を上げた場合にクラスチェンジ出来る職業。
動物を使役し、戦ったりゴミアイテムを収集する。
極めればドラゴンも扱えるが、ドラゴンに戦わせるより自身で戦った方が強い。
(テイマーになるつもりはない…けれど脱獄の糸口が見つかるのならば…)
アギトはスキルポイントを5ポイント『友情』に振る。
アギトはスキルポイントを振った事により、特技『小動物使役』を獲得。
小動物にエサを与えて、アイテム(ほぼゴミ)を拾わせる特技。
それでも今の彼にとっては救いのスキルだった。
アギトは最悪の場合を想定していた。
自身が脱獄出来ず、クロエ達もクリア推奨レベルに達していない場合。
本来は主人公である自身が勇者候補と仲良くして、王都に彼らを集めておかねばならないイベントなのだ。
通常通りだとシルヴァンのみしか王都には残らない。
(こんな事なら初日にセリムの好感度を上げるべきだったな…)
嫌なヤツだが彼の実力は認めてはいる。だが後悔しても遅かった。
そんな事を思い浮かべながら、ネズミを
隅っこに残っていたエサをネズミに与えた。
「この王都を救えるかどうかはお前にかかっているんだ。頼んだぞネズミ!」
こうして王都の命運…いや世界の命運はネズミ一匹に託された。
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