最後まで生きた君に、笑顔でさよならを

夜桜月乃

Prologue

 私は久々に、学校の屋上に足を運んでいた。ここに来たのはいつ以来だろうか。彼がいなくなってからは来ていなかったように思うから、半年はたっているような気がする。


 私が通う中学校は珍しく屋上が解放されており、夕方には綺麗な夕焼けが見える。とはいえ都会ではあるから、背の高い建物も多いけれど。


 この場所での記憶は、悪いものがほとんどだ。けれど、それがあったからこそ彼と話すようになったのだから、良かった部分もある、かもしれない。


 今の時刻は午後五時程度。延長のない部活は帰らなければならない時間だ。まあ、運動部はまだ残っているし、少しくらい良いだろう。部活は今日で最後だから、夕方の屋上に来ることは、もうない。


 私は制服が汚れてしまうことも気にせず、その場に座った。


 そして、あの日の夕方から、約二ヶ月間の出来事を思い返す。

 辛くて、痛くて、大切な、長いようで短い時間を。


「優月くん……」


 もう一度だけでも会いたいなと、大切な彼の名を呟く。


 空を見上げると、あの日と同じように、綺麗な茜色に染まっていた。


 枯らしたはずの涙が頬を伝い、視界が滲む。



 これはきっと忘れられない思い出で、私の初恋だったのだろう。

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