夜の雑談 延長戦
ユウがトイレに行っている間、ここぞとばかりに変態コメントが爆裂していた。体感四割増しくらいで、やはりリスナーに表裏のない人は少ないのかもしれない。
「ごめんごめん、戻ったよ」
もちろん、ユウが戻ってきた瞬間に変態コメントは明らかに激減した。無駄に統率がとれている感が否めないところである。
しかし、これだけのBAN待ったなしコメントが運営にスルーされているのは不思議なことだ。
――待ってたにゃん♡
――およよ? トイレの流す音聞こえた……音声班よろぴく
――↑さすがにナニには使えんやろ……
――はぁ? 使えるに決まってんだろ
――おちんの大きさを教えてください♡
――上裸みせてー
「(同接数がまた十万超えた……いい流れだなぁ)」
浅草B7ダンジョンでの配信に引き続き同接数が十万を超えたことに脳汁が溢れる。
今日はそろそろ終わろうかなんて考えていたが、同接数をみて『まだ伸びる』と気が変わったようだ。
彼は適当に目に入ったコメントを拾う。
「ん? 大きさ?」
――!!!
――コメ拾ったゾ!!!
――これは……
――長さ、太さ、カリ回り、全ての情報をお願いしまぁぁす♡
――もちろんビンビンのときの大きさね♡
――震えてきた
――BANされんか?
「(あ、これ……やっちまったか……)」
拾ってはイケないコメントを拾ってしまったことに気付き、ユウは一瞬言葉に詰まる。
だがそれと同時に、コメントの流れが一気に増えたことに快感を覚えてしまった。
「あぁ〜……これってBANされないかな……大丈夫なの?」
――世の女性を救うことになります♡
――先っちょだけでいいから! 教えて!
――は や く し ろ
――期待なのだ
――大丈夫!!! 運営は絶対許してくれるから
――とうとう私のディルドコレクションが火を噴くときがきたか……
自分のナニ(元気なとき)の大きさなど普通であれば恥ずかしくて言えたものではないだろう。
それも十万を超えるリスナーの前でそれを発言するのは狂気の沙汰に等しい。だが、そのリミットを解除してしまうものがある。自己承認欲求だ。
ちなみに運営側は、ユウのことを貴重な男性配信者として運用上特別扱いをしているため、この程度ではBANされることはない。これは誰も知らぬ真実である。
「うぅーん……ちょっと待ってて」
ユウはふらっと立ち上がり、朝ごはん用に買ってあるバナナを吟味する。多分、多分これくらいの大きさ(朝ワッショイのとき)はあるだろうなと。
やたらと詳細情報を求められるが、それはお預けしてとりあえず今回は長さだけ開示しようと決めた。
――ユウくん顔あかくなってた
――照れ顔まじでそそる♡
――べちょべちょですよ……
――何してるんだろね
――とりまディルドページ待機
――↑アクセスエラーですが
――まじで教えてくれる流れなんか!?
「お待たせー。多分だよ。絶対とは言わないけど、これくらい……その、さすがに太さとかは全部秘密ね! あくまで、長さだけ、的な……」
自己承認欲求が羞恥心を破壊した瞬間である。
ユウは一本の立派なバナナ(果物)を映し出した。
――ふぁ!?
――こんなんあかんやろ。トイレいってきまぁす
――神に感謝を……
――ディルド購入ページ接続できねえって!
――↑海外サイトならまだいける
――でっっっか!!!!!
――ユウくん特濃ミルク♡ごきゅごきゅさせて♡
――ふむ……バナナに練乳かけてみたら幸せになれる。妄想が捗りますよ
――↑明日はバナナと練乳売り切れやろな
――照れ顔×鬼畜デカてぃんぽ♡
――あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛
この日、国内のえっちな玩具の販売サイトのうちディルドのページがアクセス困難となり、翌日にはなぜかバナナと練乳が各所で売り切れるという現象が起きたとか。
それでナニをするのか、そんなことは知ったことではない。
「(これはさすがに恥ずかしいな……ただこのコメントの勢いはたまらん……震えるわ)」
羞恥心が破壊された彼もまた快楽に溺れていた。自己承認欲求を最効率で満たす方法の一つが『えっち系』なのだが、彼は意図せずそれをやってのけたのだ。
ある意味で彼がやってきた上半身晒しもえっち系にカテゴライズできるが、ここで言うえっちとはもっと生々しく直接的なもののことである。
そして破壊されつつも僅かに残る羞恥心すらも変態淑女にぶっ刺さっていく。
「はいはい! この話はおーわり! もう忘れてね。頼むよー」
――魂に刻みました
――太さやらは今後の情報開示に期待か
――まずは長さをまんまんに覚えさせるところから始めるね♡
――ママのおっぱいで挟まれたくない?
――ユウの長さ……至急子宮に覚えさせないと……うへぁ……ヨダレが止まらんよ♡♡
――全てが逞しい♡抱かせてェェエエ♡
一時的に快楽に溺れたものの、なんとか正気を取り戻し、ユウは話題を終わらせる。一方のリスナーは大興奮状態が収まっていない。
「それと、今日はちょっと冷えてるから服は脱がないよ! みんなも風邪引かないようにね?」
――いいえ、物凄く暑いです。特に下腹部が♡
――湯冷めならぬオナ冷めで風邪引くやつぅ
――私は朝までコースです♡倒れちゃうかも♡
――明日休み勢羨ましいな
――ここ数日睡眠不足でやべーのに、また燃料投下は鬼畜すぎ
――天然鬼畜ユウくんとか国宝ですわ
――心配してくれてるのに指が止まらない♡ごめんね♡お仕置きしてぇ♡
ユウの心配に反して、『暑い』とのコメントが異常に多く流れる。もちろんこれは大半が自慰行為によるセルフ発熱のせいだろう。
彼自身はそういった知識に乏しい部分があるため、ぐいぐいとコメントに触れないようにしている節がある。
相変わらずの勢いであるコメントの流れにはホクホクしているが。
「んー、ナニしてるかよくわからないけど……風邪引いても俺は責任とらないからねー」
――無責任♡孕ませずっこんばっこん♡
――↑わかる
――えっちすぎる
――音声班よろちくび
――イ゛ッた゛ヨ……
――ゾクゾクしてくるな♡
別に狙っているわけでもない発言一つ一つを舐め回すように突っ込まれる。変態淑女のセンサーは並のものではない。非常に高品質なのだ。
「はいはーい。次は健全な質問を受け付けるよー」
妙に変態コメントの圧が高まってきたため強引に流れを変えにいく。健全な、を少し強調することを忘れない。
――そいや、投げ銭つけないの?
――↑同じく思ってた
――投げ銭したいねぇ
――貢がせて♡
「投げ銭? んん、よくわからないなー。てか、お金は自分のために使って欲しいかな? 俺は生活する分にはお金に困ってないし」
――投げ銭はリスナーが投げた金額の九割が配信者の懐に入る機能よ
――ユウくんの一部になれるような気がするから投げ銭させてぇぇ♡
――投げ銭の上限額と回数制限は設定できるから、最低額で一人一日一回にして! お願いしますぅ!!
「な、なるほど……いちお、考えておくね……(欲しいのはお金じゃないんだよなぁ……うん、投げ銭はないかな)」
『投げ銭』という機能をはじめて知ったユウだが、今のところあまり利用するつもりはない。お金のためではなく、あくまで自己承認欲求を満たすためにライブ配信をしているのだから。
彼にとっては投げ銭よりも、リスナーのコメントのほうが重要なのである。ただ思いの外投げ銭を望むコメントが多いため、即時拒否ではなく検討ということにした。
――次の配信は何するのー?
「次のライブ配信は考え中! またダンジョン配信でもするかなあ。何かして欲しいこととかある?」
――また筋トレがみたい♡
――ソフトな感じの入浴配信!
――お料理配信
――しこしこリアタイ実況ゥウ
――↑不健全ですよ!
――お散歩配信
――散歩は場所特定からのリア凸で大変なことになりそう……
――何の配信をしてくれても! 私はひたすらナニをしてましゅ♡
リスナーのほとんどが彼の体を見れるものか、リア凸されかねないことばかりを要望する。
オカズor直接会う……とても欲望に忠実であることは微笑ましい。
「俺、料理はあまりできないんだよね。少し練習してからでいいなら……今度やってみようかな」
――ぎこちなくてもいいから見たい♡
――私のために作って♡
――ママが手ほどきしようか?
――あ……私、料理は得意です!
――ユウくんの特濃ミルク混ぜ込んだ激ヤバ濃厚オムライス作らせて♡
――↑ミチュラン星三やね
――ユウくんの裸エプロン……想像だけでイける♡
無難な話題であるはずの料理すらも変態淑女にとってはオカズの宝庫。シンプルに気持ち悪いコメントも散見されるが、それはご愛嬌。
「あとね、散歩配信するくらいならダンジョンに行くかなあ……それと筋トレは要望あれば全然またやるから!」
ユウの感覚では散歩は配信内容として物足りないと思っている。せっかく外に出るならばダンジョンの方が盛り上がるだろう、と。
結局のところ何をしても今の勢いだと盛り上がることは必至だが、彼なりにバズりたいと考えてのことだ。
筋トレには味を占めているのでそのうちまたやろうと思っていたりもする。自分を鍛える、リスナーは喜ぶ、ウィンウィンという優しい世界がそこにはある。
同時接続124471。
「(トゥンク……今日はこのへんにするかな)」
さて、ユウは同接数に満足し、今日もしっかりと満たされたのでライブ配信を終える決意をする。
すでに気持ちは明日何をするか、というところにある。
「んし、それじゃ今日はここまでー。見にきてくれてありがとうね。明日もまたよろしくだよー!」
――寂しいけど乙
――またねえ
――明日まで全裸待機します
――今日もオカズ供給ありがとうございました
――おつおつ〜
――おつかれさま
「明日何しようかな」
スフィアの接続を切ってもホクホク気分は冷めぬまま、ユウは次の配信のことを考える。
自己承認欲求が突き抜けると過激なことをする配信者も少なくないが、そうした者の末路は悲しいものだ。
彼はそうならないよう、今はただ祈るばかりである。
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