まったりダンジョン配信①
ユウがナニのサイズを公表した翌日。
彼は朝から忙しなく出かける準備をしていた。目的はもちろんライブ配信。
「やっぱり八王子A1また行くか。まだまだ奥にいけそうだし」
今日は初配信で未探索領域を調査をした八王子A1ダンジョンをさらに奥に進むつもりである。
前回は未探索領域の一区切りであるゲート内で、白い虎のような魔物を狩ったところで撤退した。
ちなみにゲート内でポップする魔物は通称『ゲートボス』と呼ばれ、さらに奥へ進むと通常の魔物のように再びポップする可能性があったりもする。
というのも、ダンジョンはそのおおよそが未解明であり、実のところ『こうなる』と断言できる部分はそう多くないのだ。
昨日の浅草B7ダンジョンで確認されたマンティコアについてはAランクに格付けされている魔物であるため、Bランクダンジョンに現れたことはイレギュラーといって差し障りないだろう。
これによって、浅草B7の格付けミス、あるいはマンティコアの格付けミス、はたまた実は近隣のAランクダンジョンと浅草B7が繋がっており、何かしらの理由で浅草B7に流入した……などなど多くの可能性が浮上してくる。
定説ではダンジョンランクを超える格付けのされている魔物は現れない、とされているが、この定説がそもそも誤りである可能性まで考えなければならないのだ。
言うまでもなく、すぐに結論が出る案件ではないため、協会は非常に頭を抱えながら調査をしているところだろう。
「まずは協会に行ってみよ。昨日のこともあるからなぁ」
ユウもマンティコアというイレギュラーのことは少し気になっていたので、八王子へ向かう前に協会へ立ち寄ることにする。
愛刀と配信機材を忘れずに装備し、軽い足取りで自宅をあとにした。
「あぁっと、告知忘れてた」
『もう少ししたらダンジョン配信するから見にきてね〜!』
すかさずHに投稿し、ついでに出かける間際の自撮りも添付。もちろん、服装バレによって街中で声をかけられるリスクなど考えていない。
いいね! 3844。
瞬く間にいいねが増えることに少しばかり快楽物質が放出される。目に見えて彼の足取りはさらに軽やかなものになっていた。
◇◇◇
「おはよう。昨日は本当にありがとう。色々と助かったよ……それで、今日は朝からどうした?」
はてさて、これは何についてのお礼だろうか。リサ救出の件か、ちんぽサイズ公表の件か。アイナ視点では多分その両方だろう。
それはさておき、ユウはいつものように協会の応接室Bでアイナと面会する。
普段会うときと違って、彼女は一睡もしていないかのような隈をつくっていたが、あえて触れるようなことはしなかった。
「昨日の件で。何かわかったことはありますか?」
「すまないが、まだ何もわかっていないよ。なにせ今朝から調査を始めたんだ。とりあえず、浅草B7は臨時でAランクアタッカー限定入場にするが……いかんせん情報が足りなすぎてな。人手も足りないし頭が痛いよ」
「そのうち浅草にはまた行きますよ。今日のところは八王子A1の未探索領域の調査をしようかなって」
「それは本当に助かるよ。そうか……あまり無理はしてくれるなよ? さすがに八王子A1は明確なAランクダンジョンだからな」
「はい。また配信するつもりなので無理をするつもりはないですよ。ではでは、これからすぐ八王子に向かうので、これで失礼しますね」
「健闘を祈るよ。気をつけてな」
ユウはそのまま応接室Bをあとにし、相変わらずアイナだけが残されている。
なぜ一緒に退室しないのか、その答えは職務中の背徳オナニーに耽るためである。彼女はすぐにスイッチを入れた。
「シャンプーの香り……したぁ♡ん゛……ちゅき♡生ユウはたまらんなぁ♡私だけのユウ♡♡ついつい下半身に視線が向いてしまったけどバレてないだろうか……アレに貫かれたいにゃあ♡ん゛ぁ゛ぁ……んん゛ッ!」
率直に言って狂っている。彼女の職務中の自慰行為は、ユウの事実上専属となってから長らく続いている。
これが未だに協会内でバレていないことが不思議としか思えない。
最近はライブ配信によるオカズの供給が止まらないため、かなりの睡眠不足に陥っていることは言うまでもない。
溢れ出る性欲を制欲できない超エリートのアイナさんであった。
「あぁ、ユウ♡イっちゃう♡♡」
◇◇◇
「よし、始めるかー」
八王子A1の入り口に到着し、早速スフィアを起動する。
――待ってたゾ
――昨日は沢山ごちそうさまでした
――朝までコースだったよ♡
――さっきまで失神してましたぁ……
――今日は未探索領域の調査?
同時接続68149。
初動はバッチリである。やけに一睡もしてない系コメントが多いのは仕方ない。彼の知らぬところで祭りとなっていたのだから。
「そうだね。今日は無理のない範囲で未探索領域の調査をしようと思ってるよ」
最低限の目標は次のゲートまで到達すること。協会から無理をしないよう念押しされているため、ゲートの処理はそのときに考えることとした。
――初配信と同じ八王子かな
――相変わらず人気がないね〜
――Aランクダンジョンだけど実入りがないし……
――有識者ちらほらいて草
――皆さん、リア凸は禁止ですよ!!!
――↑協会に縛られてるから大丈夫。ユウくんはみんなのユウくんや
「それじゃあ、進むね〜」
ユウは早速八王子A1ダンジョンへ入場する。
「(ん? もしや先客がいるのかな。珍しい)」
ふと彼の目に入ったのは、あってないような素材を掘った痕跡だ。パッと見で今日のものかはわからないが、今日のものだとすれば先客と出会う可能性は大いにある。
「(んま、その時はその時か)」
一応ユウも協会による自身への接近禁止令のことは知っている。本人としては別に気にすることはないと思っていて、これは自分がどれほど狙われているか十分に理解していないためである。
なお、この接近禁止令はダンジョン内で予期せぬ接触をすることを禁じているわけではない。浅草でのリサが良い例だろう。
つまるところ、これは実質的に彼をパーティに誘うことを禁止しているお触れなのだ。ユウを巡ってダンジョンアタッカー間の対立などが生じるリスクを失くすためである。
それもこれも彼の実力が協会に認められているからこそ実施されているものだ。
――魔物を片手間に処理していくの震える
――緊張感がなくて安心できるわ
――チラリと見える腹筋がキュンポイント♡
――あぁ、また脱いで欲しいな
――いっそ全裸でもええよ
――↑ユウのちんぽは私だけのものだから全裸はNG
「今日はちょっと寒いから脱がないよ。ごめんね? それにしてもさー、ほんとここのダンジョンって何もないよね。未探索領域にお宝でも眠ってないかなぁ……」
ダンジョン内では稀に未確認鉱物などが発見されることがある。もし未探索領域でそういったものを見つけることができればそれなりのお金になるのだ。
ただし、未探索領域の調査は3Kと呼ばれるだけあって、そんなことは滅多にない。宝くじを買うようなものだろう。
――今日はチラリズムの素晴らしさを学ぼうぜ
――私はもう脱いじゃってるのですが……
――↑みんな脱いでるよ。安心せい
――ダンジョン配信がオカズになっちゃうの本当にすごい
――未探索領域で一攫千金期待!!!
――↑一等前後賞のない宝くじを買うのと同じようなもんやぞ
――まあまあ、3Kですからね……
「たしかに……現実的には未探索領域の調査は旨みは少ないよね。でも、開拓するってロマンがあるというか、カッコよくない?」
彼が未探索領域の調査を続ける理由はカッコいいと思っているから。ある種の自己満足といって良いだろう。
今はさらにライブ配信によって自己承認欲求まで充足されるため、ユウの頭の中は割とお花畑状態だ。もちろんダンジョン内で不要に気を抜くことはしない。
その点は紛うことなくAランクアタッカーである。
――ユウくんと一緒にロマンを追い求めたいわ
――↑ライセンス剥奪されてもよければ
――男の子っぽくない冒険心に溢れてて可愛いわ♡
――いくらユウくんに会いたくても生活考えたら未探索領域の調査には手が出せねえのよな……
――↑同意。まあ、露骨に未探索領域の調査ばっかしてるやつは協会にヤキ入れられるだろーよ
そんなこんなで特に見せ場はなく、まったりとダンジョンを進み続ける。ちなみに“先客”と出会うこともなかった。
素材回収の痕跡は今日のものではなかったのだろうか。
「お、前のゲートのところに着いたよ〜。相変わらずでっかいね」
同時接続84255。
配信の折り返しにしてはなかなかの同接数にユウはホクホク気分になり、そのままゲート内へ入る。
――白い虎みたいなやつがいたところか……
――またでないよね? あれはビビる
――ここから奥に進めばまた出る可能性は否定できない
――↑まじ? ダンジョンってやべえな
――平然としてるユウくんかっちょええよ♡
「(あれれ? ここにも素材掘った跡あるな……)」
再びユウは違和感を覚える。わざわざ探索済み領域のキワまできて素材回収をするものなのだろうか、と。
そもそもの話、ここは全体的に換金効率が異常に低く、そのくせ魔物は強めという不人気ダンジョンであるのに、素材一つのためにこんな奥まで来るのか、と。
ユウは直感的にこの奥、つまり未探索領域にアタッカーがいる可能性を考え始めていた。だからといってやることは変わらないけれど。
「それじゃ、これから未探索領域に入るからコメントあまり見れなくなるけど許してね」
――見てるだけで大満足だよ♡
――気をつけてね!
――お宝ありますように
――怪我しないでよぉ〜
ユウの雰囲気もコメントの雰囲気も比較的まったりなまま未探索領域へと足を踏み入れる。
「(んー、昨日みたいなことにならなければいいんだけど……)」
自己承認欲求を満たすべく『見せ場』が欲しいとは思いつつも、さすがに人命危機を積極的に願うほど狂ってはいない。
できれば対魔物か新発見で見せ場をつくれればいいな、なんて思いながら進み始めた。
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