第5話 悪の生態系内で始まった食物連鎖
大矢と赤井を頂点とする扇台中学校の不良たちは、校内において暴行やカツアゲ等やりたい放題、教師もほぼ放置していたもんだから誰も逆らうことができない存在だった。
しかしその威力が及ぶのは扇台中学校内の在校生だけである。
その学校の外には極悪非道な彼らでも恐れおののく存在があった。
扇台中学校の卒業生、大矢たちの先輩だ。
その中でも特におっかなかったのが一学年上の増田潤(仮名・16歳)である。
増田は土木作業員であったが、暴走族の支部長を務めるほどの本物のワルであり、中学校時代は下級生の大矢をボコって金を脅し取ったこともある。
恐怖が身に染みている大矢たちは増田の前では借りてきた猫のようにおとなしかったという。
そんな増田は一成への恐喝が本格化し始めた秋頃から後輩である大矢の様子が変わったのに気付く。
タクシーに乗ってブランドモノの小物を持っていたりして、なんか明らかに羽振りがいいのである。
「こりゃなんかある」とにらんだ増田は周囲にいろいろ聞いて回った後で大矢を呼び出す。
「おめえ最近羽振りええな。だいぶ巻き上げとるみたいだがや」
「いやあ、そんなに巻き上げてないっすよ。特に前と変わらんですよ」
「ほんなら神谷って奴に聞いてみよか?神谷呼べや」
「!!」
増田の耳にはとっくに情報が入っており、あとはいくら巻き上げているかを聞き出すだけなのだ。
呼び出された気の弱い一成が、大矢よりおっかない増田にウソをつけるわけがなく、正直にうたってしまう。
「大矢!テメー何百万もとっとるそうだがや!ウソつくなてコラ!!」
「え、あ…すいません!すいません!」
これ以降、大矢は増田に分け前を上納する羽目になった。
ばかりか増田は直接一成からも恐喝するようになり、最終的には大矢たちから巻き上げた分も含めて合計千三百万円もの金をふんだくる。
そしてこの増田も無双ではなく、上にはさらに上がいた。
当時中区でハバを利かせていた不良少年グループ(当時はチーマーと呼ばれていた)を仕切っていた村上慎一(仮名・19歳)、慎二(仮名・18歳)の兄弟だ。
暴力団ともつながりがある村上兄弟はかねてより増田や大矢たちにパーティー券を売らせるなどしていたが、扇台中学で行われている豪快なカツアゲとそこから増田が上前をはねていることが彼らの耳にも入った。
村上兄弟は彼らに頭が上がらない増田に三百万円を上納させたばかりか、実行犯である扇台中トップの大矢も呼び出して「こっちにも回さんかい」と要求。
増田以上におっかない兄弟の命令を断ることなんてできない。
大矢は一成を新たに脅して巻き上げた八十万を兄弟に渡したが、直後に再び呼び出され、そこでナイフまで突きつけられて三百五十万円を要求された。
兄弟を恐れる大矢はそれ以後逃げるように友達の家を渡り歩くようになり、警察に捕まれば安全と、強盗を働こうかと考えるほど追い詰められる。
扇台中学ではやりいたい放題の大矢たちだったが、しょせんは中坊のヤンキー。
悪の生態系の中では底辺層であり、その系の中で展開される食物連鎖の末端に近かった。
しかしこの嫌な食物連鎖の最末端で一番割を食うのは、金を一方的に巻き上げられる一成だ。
先輩やそのさらに上のおっかない奴らにたかられて追い詰められるようになった大矢が一成に要求する金額はさらに跳ね上がり、加える暴力もさらに苛烈になってゆくことになる。
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