アフター・C=ジャスティティア────炎魔と呼ばれた男はジャスティティアに神を求む
金剛ハヤト
Title
「なんだコレ?」
ある晴れた日。サルベージで入手したお宝を売って日銭を稼いでいるトレジャーハンターが海底から奇妙なものを引き揚げた。
形は長方形で、大きさは辞書よりも一回り大きい。海藻や固着したフジツボに覆われており、手に持ってみるとズッシリ重い。
トレジャーハンターは期待に満ちた目で海藻やフジツボをナイフで取り除いていった。
「……分厚い、本?」
十数分にわたる作業の末、明らかになった正体は本。長い期間海の底にあったにも関わらず、紙やインクは新品のように綺麗で乾いている。ナイフでフジツボをこそげ取る際に一緒に剥がれてしまった表紙の一部を除けばどこも傷一つない。
「お宝じゃなさそうだが……ただの本じゃねぇな」
想像していたものではない。しかし、普通でもない。物理法則が正常に機能しない本など、トレジャーハンターの知っている世界には存在しないものだった。
「タイトルらしいものもあるが……こりゃ一体何語だ? こんな言語初めて見たぞ。地球外生命体が書いたのか?」
期待と興奮に胸をいっぱいにしながらトレジャーハンターが本を吟味する。
「……『アフター・C=ジャスティティア』?」
初めて見る未知の言語をスラスラと母語のように解読した後、トレジャーハンターは困惑した。
「あ、あれ? 今なんで読めたんだ?」
困惑しながら表紙に刻まれた未知の言語を見つめる。トレジャーハンターはあることに気が付いた。
「────なんて読むのか分からないのに、何が書いてあるのかは分かる。いやいや、何バカなことを言ってんだ俺は。でも実際そうだしな……」
恐怖と興味を抱きながら背表紙に目を通す。
「著者は「ネオ」か……知らねぇな。何処のどいつだ?」
やはり読めないのに理解出来る。その理由はいくら考えてもトレジャーハンターには分からなかった。
「珍品好きのコレクターか博物館にでも売ればそこそこな額になるか?」
不思議な感覚に少しづつ慣れ始めたトレジャーハンターは頭の中で金の計算を始める。この本を買い取りそうな相手は誰か、売った金をどう使うか、次々に浮かんでくる。
「……」
しかし、その途中でまた本に目を向ける。そのたびに思考と意識が本に対する好奇心と興味に侵食されていく。気づけば視線は本に固定されていた。
「まぁ、売り払うのは全部読んだ後でも出来るか……」
ついに我慢の限界を超え、トレジャーハンターは本を開いて読み始めた。
♢
これは、とある世界で観測されたある出来事の全てを記録したクロニクルである。
その世界の名はジャスティティア。同じ名前を持つ一つの超大陸といくつかの島で構成されたその世界は、霊力という高次元エネルギーによって文明が極めて発達している。
例えば空を高速で翔ける鉄の箱。
例えば瞬間移動することが出来る魔法陣。
例えばスマートフォンのような通信機器やインターネットなどの生活を豊かにするハイテクノロジー。
或いは人間と同等以上の自律的思考を有する戦闘機兵。
或いは大量破壊兵器など。
それほど発達した技術を獲得してもなお、人類は霊魔という天敵に脅かされている。
そんなジャスティティアの北部に位置する氷雪の大国に、燃え盛る正義の心と灼熱の異能を持って生まれた男がいた。
男の名はスルトという。スルトは祖国が崇める正義の女神を深く信仰する騎士であったが、とある戦争に参加したことで心が折れてしまった。
────物語ではない。これから諸君が目撃するものは、深い絶望から正義の女神を捨てた青年の一生を追う人間賛歌のクロニクルである。
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