赤ずきんちゃんに御用心!!
@aoi_sumire_
プロローグ、終わりを迎えた青い鳥
第0話
中学校生活最後の授業が終わった。
須崎葵(すざきあおい)が下校準備をしていると、教室の隅の席で女子達がざわついていた。
「ほら、早く言ってきなよ!」
誰かが、確かにそう言うと、西島明音(にしじまあかね)が輪の中から弾かれ、おさげ髪を揺らしながら葵の元へと歩み寄ってきた。
「あ、葵君......今日、一緒に......帰らない?」
「西島さん......ごめん!今日は用事があって」
「あっそうなんだ」
両手を合わせて謝罪する葵を前に、明音は長いまつ毛をそっと伏せ、落胆した様子をみせた。葵が少し遠くに目をやると、女子達が葵の方を睨みつけながら見つめている。
「せっかく誘ってくれたのに......本当にごめん、それじゃ」
「あっ、ちょっと......」
詳しくは分からないが、後ろの女子から察するに、恐らく厄介ごとに巻き込まれてしまう......
そう思った葵は、念押しの謝罪をすると、小走りで教室を後にした。
「ただいまー」
家に着き、リビングに向かうと須崎雄弘(すざきたけひろ)が椅子に腰掛け葵の帰りを待っていた。
「話がある、座ってくれ」
雄弘は真剣な表情で葵を机に誘導する。
「どうしたの?」
「......仕事の都合で3月10日から、6月頃まで北海道に出張することになった」
「......そうなんだ。それじゃ、卒業式の日に出張なんだね」
「......すまない」
葵の言葉に、雄弘は弱々しい声で返事をする。
「気にしないで、死んだ母さん達の代わりに僕を育ててくれてるんだし、おじさんが謝る要素なんてどこにも無いよ」
「だけど、始業式にも行ってやれないし、高校生活が始まると慣れるまでは大変な事も出てくるだろう。それに寄り添ってやれないのが本当に情けない」
「そう思ってくれるだけで充分だよ。6月まで出張って事は、3ヶ月くらいは一人暮らしするってことだよね?」
「あぁ、生活費は仕送りでどうにかなるだろうが、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「暇だったら友達とか、うちに呼んでくれても構わんぞ?」
「うん、ありがとう」
「......あと、俺がいないからってやましい事ばっかりするんじゃないぞ?」
「しないよ!!」
「新生活が始まる時期なのに、本当にすまないな」
「......うん、おじさんも仕事頑張ってね」
「ありがとう」
雄弘は葵に軽く頭を下げると、話は終わった。
月日が流れ、3月10日を迎えた。
朝、葵が目を覚ますと、そこに雄弘の姿はなかった。
「声をかけてくれたって良いのに」
広くなった家を見て呟くが、考え事をする時間はない。急いで身支度をし葵は1人、家を後にした。
ーーーーー
「このクラスの担任に慣れて本当に良かった......皆、元気でね」
卒業式が終わり、松田夏菜(まつだかな)は最後のホームルームを行う。初めて持つ3年の担任という事もあってか、感情が溢れて涙を浮かべている。
「それじゃ、ホームルームは終わりです。解散!!」
松田の一言で教室が騒めきだす。
個々が立ち上がり集まる中、1人の生徒が葵の肩を軽く叩いく。振り向くと、そこには固い表情を浮かべる明音の姿があった。
「西島さん......どうしたの?」
「あ、あの......一緒に写真撮らない?」
「写真?うん、いいけど......」
葵の返事を聞いた明音は安堵のあまり笑みを溢す。
「やった!ならお母さんのいる所まで一緒に行こ」
明音は少し早口で言うと、焦るようにして教室から出ていった。
学校から出た2人は、最寄りの公園を目指して歩く。少しして公園が見えてきた時、1人の女性が葵達に向かい手を振っているのが見えた。
「やっと来た......って隣の男の子、明音のお友達?」
「うん、葵君って言うの」
「そう、明音がね......」
「は、初めて須崎葵っていいます」
「初めまして、明音の母です。葵君も卒業おめでとう」
明音の母親は爽やかに微笑み、祝福の言葉を贈る。
「ありがとうございます」
「今から葵君と写真撮りたいんだけど、お母さん撮ってくれない?」
「うん、いいわよ」
明音の母は、明音のお願いを嬉しそうに引き受けた。カバンからスマホを取り出すや「撮るわよー」と葵達を急かす。
「どうかしら?」
明音の母が撮った何枚かの写真には、ぎこちない笑顔の葵と、ピースサインをしながら葵の肩に寄り添いニッコリと笑う明音が映っていた。
「葵君の笑顔、なんだか変だね」
明音は写真を指さし、葵の笑顔を可笑がる。
「悪かったな......嫌ならまた撮ってもらう?」
「撮らなくていいよ、とっても素敵な写真だから......3年間、ありがとうね」
「......うん、西島さんもありがとう。高校でも元気で」
「うん。まぁ私、隣町の女子校だし今生の別れって訳じゃないんだけどね」
明音は重い空気を遠ざけるかのように、うっすらと笑い、冗談混じりの言葉を葵にかけた。
「確かにそうなんだけどさ」
「付き合ってくれてありがとう。はやく行かなないと、向こうで皆待ってるよ」
何か言いたげな葵とは裏腹に、明音は2人の時間を早々と締めくくり、葵の後ろに向けて人差し指を向ける。
葵が振り向くと、そこには4人の男友達が葵を呼んで待っていた。
「皆、いたんだ」
「私も他の子達と写真撮るから、ここで別れようか」
「そうだな」
「それじゃ葵君、またね」
2人はしばらく見つめ合い、明音のこの言葉を最後に解散した。
長く短かった中学生活は終わりを告げた。そして葵は新たな日常へと歩み始める。
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