再婚相手の連れ子が学年一のマドンナだった件

たいよさん

第1話 学年一のマドンナ


 あの日、大好きな君と、家族になった。

血こそ繋がっていないけど、誰よりも大切で、信頼していて、必要不可欠な存在で。

 

「今日からよろしくね、桜木くん」

「よ、よろしく。七瀬さん」


 ――思えばそれが、君との"初めての会話"だった。


◇◇◇◇◇


 時は、新学期が始まって一ヶ月経った5月の頃だ。


 桜木雄也さくらぎゆうやのクラスには、"学年一のマドンナ"と称される女の子がいる。

 高校二年生になり、学校生活にも慣れきった時期だ。

 そんな時でも、周りの男子も、女子も、「マドンナと言えば?」と聞けば、満場一致の答えが返ってくる程の女の子だ。


「――」


 今日も、そのマドンナ――七瀬麗奈ななせれなは健在で、自席で本を読んでいた。


 マドンナと呼ばれるには相応しすぎる理由が、七瀬麗奈にはある。

 まずは、透き通るような銀髪だ。

 まるで、異世界から来た美少女が居るような勘違いをしてしまう程に、美しいセミロングの銀髪を垂らしている。

 

 次に、透明感のある顔だ。

 長いまつ毛、つぶらな瞳、綺麗な鼻筋、血色の良い唇。

 その全てが、さながら「モデル」の様で、否、モデルの数十倍可愛いかもしれないと思わせる程だった。

  

 そんな麗奈だが、男子と話している所はほとんど見たことがない。

 とはいえ、容姿が強すぎて、男子たちは麗奈に惚れる者が多かった。

 

 ――勿論、雄也もその内の一人だ。


 生粋の陰キャということを自覚している雄也は、アピールは愚か、麗奈と話したことも、勿論無い。

 

 本を読む麗奈を見ながら、雄也は心の中である事を思った。


『もしも七瀬さんの彼氏が俺になったとして、隣に立っているとしよう。

 地味な見た目で、何の特徴も無い無造作な黒髪の俺が、光り輝く七瀬さんの隣に……って、悲しくなるな』


 と。


 そんな、生粋の陰キャである雄也は、麗奈を見ているだけで充分だった。

 俗に言う、高嶺の花というやつだ。 

 何と言うか、憧れの存在すぎて手が届かないのは分かりきっているし、何より七瀬さんが俺という陰キャを彼氏にする訳が無い、と、雄也は結局悲しいことを考える。

 

 だから、雄也は麗奈を見ているだけで満足だし、無理にアピールをしたり、話しかけたりはしなかった。


「おい、また七瀬のこと見てんのか?」


 陰キャとはいえ、こうして話しかけてくれる友達もいる。

 高校一年生の頃に同じクラスになり、そこから仲良しになった唯一の友達、鈴木涼太すずきりょうただ。


「……悪いかよ」

「はは、可愛いやつだなーお前は。ま、分かるけどさっ」

「おい……重いから降りろよ……」


 雄也をからかいながら、涼太は雄也の膝の上に無理矢理座る。

 そして涼太は、本を読む麗奈の方へ視線を向けながら、


「……マジで、どこのアニメヒロインだよって言いたくなるよな、あれ」

「……だな。その通りだよ」


 麗奈から醸し出る。あまりの麗しい雰囲気に、二人の意見は一致する。

 そして、涼太がおもむろに雄也の方へと顔を向けると、


「……応援するぜ、俺は。どんなに難しい相手でも可能性はあるからな。こんくらいは」


 と、最早開いていない親指と人差し指で、可能性のメーターを表した。

 とはいえ、応援している気持ちは本物だ。


「んだよそれ。開いてないじゃん!」

「いやいや、1パーセントくらいはあるって。まじで」

「あって1パーセントかよ……」


 そう言う涼太の言葉は、割と過言では無い。

 むしろ、話したことも無ければ、目が合った事も少ないので、0.1パーセントと言われても過言では無いだろう。


「――いるのかな、彼氏とか」


 不意に、雄也はそんなことを呟く。

 まさに恋する男の子、と言った質問だ。


「さあな。俺は見たことねえ」

「やっぱそうだよな。俺も無い」


 彼氏所か、男の子と話している所すらあまり見たことが無い。

 とはいえ、"いなかった所で"という話ではある。

 陰キャすぎてアピールなど出来ない雄也にとって、麗奈の彼氏の有無など無関係なのだ。何とも悲しい話だが。


「いなかったらどうすんだ?」

「……は? どうするって何が?」


 涼太からの質問に、雄也は目を開く。


「いや、そのまんまだよ。いなかったらチャンスがあるだろって」

「ああ。別に何もしないな。見てるだけでいいって感じだから」

「んだよそれ。1パーセントを引こうとは思わねーのか?」

「普通は思わないだろ。99パーセントで振られて傷付くんだから」


 一応、雄也だって男だ。

 好きな女の子に振られれば、普通に傷付く。


「いやーでも、お前意外と顔は良いし、行けると思うんだよな。こんくらいだけど」


 涼太はそう言うと、再び開いていない親指と人差し指を雄也へ向ける。

 

「だから、全然お前の指開いてないし、意外とって何だよ」

「あはは、わりーわりー。でも、まじでイケメンだと思うよ俺は」

「そんなことないけどな」


 謙遜する雄也だが、涼太の言葉も過言では無かった。

 雰囲気は根暗な陰キャだし、これと言った特徴も無いのだが、顔は中々に良い方なのだ。

 自慢では無いが、小さい頃に「ベビーモデル」を経験したこともある。いや、自慢か。


「まあ、お前が本気になるなら俺は応援するぜ」

「おう、ありがとう。さすがに1パーセントは怖いからやらないけどな」


 そんな会話を挟みつつ、涼太は雄也の席を後にした。


 ――今日も美しいなあ……


 涼太が居なくなり、一人になった席から見るマドンナ。

 やはり、いつ見ても美しく、可憐で、麗しい。

 もし引けるならば、1パーセントを引きたいけど、生憎と強制的にアピールしなければならない状況に陥らないと、雄也は動けない。

 そんなありえない出来事が起こる確率は、0.1パーセント程だろうか。

  

 ――この時はまだ、その1パーセントを引けてしまうことを、雄也は知る由もなかった。

 そして、0.1パーセントの、ありえない出来事に襲われることも。


――――――――


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