破壊王と魔術師
@Majuchushi
第一章 鏡の中の世界
家の鏡を見つめて、とある少年はブツブツと呪文のように唱えていた。家宝と思われる書籍から一冊持ち出し、毎日違う書を洗面所の鏡の前に立って唱えていた。
ただ、オカルトのように唱えているわけではなかった。よくあるのが鏡の中に違う人格の自分が映し出されることだ。だが、家宝の書はによると鏡に立ち呪文を唱えると過去に戻りもう一度人生をやり直せると記録されてあった。
家宝の書は大きく分厚く、長い文章で唱えるのに丸一日かかる事もあった。そして、五ヶ月は過ぎた。今日も失敗と思われる瞬間、鏡をもう一度見るともう一人の自分が誘い込んできた。俺は思わず鏡に手を触れ、連れて行かれた。
少しずつ意識が回復し、立ち上がった。目の前の辺りは草原。少し離れた所に森で囲まれていて、薄らと奥に見えるのは山だと思われる。俺は森の方に向かう事にした。
森は少し薄暗く、入って最初は小動物は愚か、虫も見当たらなかった。辺りを見回し数時間歩いた時、気づいた。ずっと同じ場所を歩いていたということを。背後に戻るとすぐ、草原に辿り着いた。もう一度森に入り、少し経路を変えた。そして同じ道から外れ、辿り着いた場所は、流域に出た。川の流れは強くないと思い、浸かっていこうと思い、足を踏み入れた瞬間、何かに引っ張られたかのように背後の叢に座っていた。好奇心でもう一度浸かろうとすると、奥から声が響いてきた。
「コラァぁぁああああ!!せっかく助けてやったのに無駄死にする気か‼︎」と背後から白い煙を出しながら走ってきた。何より、怒鳴られた。
怒鳴った人を見ると、姿がコアラなのか何なのかわからなかったが人ではないように思えた。
「いいか。この道を渡りたかったらまず、この川をずーっと左合わせで歩いたら橋がある。そこを使うんだぞ」
俺は薄笑いで「……説明ありがとう」と言った。
「しっかし、この川を渡ろうとする奴らはそこそこの奴しかいないが……もしや、人間か⁉︎」
俺は今でも頷きそうだったが、次の説明で背筋が冷える。
「この地は人間を悪魔と扱われている。もし人間なら今ここで捕まえるが」
俺は無表情で答えた。
「いいえ」
「そうか、そうか。じゃあ大丈夫だな…………とはならんなぁ‼︎お主、どっからどう見ても人間だろ‼︎この顔筋、身体、何よりの髪の毛と判断できる毛‼︎」
そう言われながらコアラに身体のあちこちをいじられた。俺は太極拳の構えをとった。
「こらこら、乱暴はよせ。私はそこら辺の者と違って中級魔術師だぞ。この私を簡単に倒せると思うな。何よりこの杖が…」と言った瞬間、杖を奪ってへし折った。
「あぁあああ!!私の杖が……」
そして俺は森の中に逃げ込んだ。コアラはその後すぐに追いかけてきた。奴を見ると背中から羽を生やし上から飛んで探していた。俺は目の前の雑草の茂みに潜り込んだ。上を見上げると奴はそのまま行ってしまった。俺はこの場から離れて先程の橋を渡り、人が住んでいそうな建物を探した。空を見上げると鳥らしい生き物が飛んでいた。何時間歩いているか忘れていた頃に、目の前に人影が見えた。声をかけようと駆け足になる。だが、近くまで向かうと人間の顔ではなかった。首元は鱗のようなものでできていて、ろくろ首のようだった。恐る恐る近くによると俺の方を見て走ってきた。
「シャァァアア」と掠れた声を出して、爪を剥きながら襲いかかってくる。
俺は咄嗟に目を瞑り防御した。後もう少しで引っ掻けられそうな時、突如目の前が光り輝き出した。目を開けるとヨーロッパの神話に出てきそうな天使のような女性が地面に足をつけた。
「其方は何故、この世界に降りてきた」
また変な人が現れたと思い、嘘を吐こうとした。
「今、嘘を考えていたな。正直に申すんだ」と嘘を一瞬で見抜かれた。
面倒くさいと思いながら「姉を生き返らせる、ため」と正直に言った。
「そうか。では何故この世界で人が生き返らせる事が出来るかご存知か」
俺は顔を横に振ると女性は答えた。
「なら教えよう。もともと、この地はエルフによって構成されていった。だが、数千年生きると言われているエルフでも病気を持ったら命を断つものもある。そこで息を吹き替える粉を作りエルフ達は病気に怯えず暮らせるようになった。その粉が固まってできたのがシェルファーの鉱石だ」
今の話を聞いてひとつ疑問を持った。
「シェルファーはどうやって作られてんだ」
女性は喉をつっかえて言った。
「シェルファーはエルフが死体となってできるもの。つまり骨から鉱石に変わっているわけだ」
石油と同じ原理か、と思った。
「其方の名は」
「原田 壹岐(はらだ いき)」
「では、原田。あと数秒で木の裏から敵が現れるぞ」
草原の走る足跡が聞こえ、俺の背後から襲い掛かろうとする。すぐさま後方転回を行い構えをとった。その時、女性はアドバイスをくれた。
「この世界では魔力がある。空気と同じで見えないが、自分が出したい呪文を深く思えば放てるだろう」
嘘でもついいやと思い、心底願って敵に手を向けた。そうすると手から雷が出てきて、怪物に雷を当てた。敵は焦げ倒れた。面白半分でやってみたものだが、本当に呪文が出せるとは思わなかった。 俺は思わず、木に向かって呪文を放とうと思ったが、何も起こらなかった。
「魔力切れだろう。始めてだからな、何発も撃てるわけじゃない」
少しだけガッカリしたが、のちにまた撃てるとわかって立ち直った。気を取り直し、シェルファーの場所について聞いた。だが、女性は答えてくれなかった。そして女性は最後に言った。
「北西の方に向かえば町がある。そこで鉱石を聞くのだ」といい、北西と思われる方に指を刺していた。
そういい女性は消えていった。俺は北西と思われる方に向かった。
もう時期、日の入りの時間になり夜の森は何も見えない為、今日は洞窟で朝になるまで休もうと考えた。洞窟を探してる間に木の枝を多く拾った。洞窟を見つけたら中に進み、枝を置いて雷の呪文を撃った。見事に火はつき、焚き火をした。数時間座り込んでいると眠くなり目を閉じた。
翌日、洞窟から出て北西一直線で進んだ。途中で襲ってくる怪物がいたが、呪文で追っ払った。目の前を向くと森の終わりが見えた。走って森を抜けると少し先に町が見えた。二度走り、街の目の前まで来た。赤い煉瓦で囲まれていた。中に入ろうと門を潜ろうとすると、人が出てきた。
「何者だ」と聞かれた。
俺はどう答えればいいのかわからず、取り敢えず答えた。
「日本人です… …」
「聞いたことのない町だ。まぁいい。化身でないならな。早く入れ」
化身とは何のことだろうか。その人に聞いた。
「化身を知らないとは、随分と世間知らずなんだな。もしかしたら、貴族の子どもだったりして。ってこんな所に一人で行くわけないか」
その人は愛想に笑った。笑いは長く続き、やっとの事で化身について話した。
「途中で襲って来たり、言葉を喋らない奴がいただろ」
あの怪物らの事だろうか。
「そいつが化身。七百年前、エルフと魔王の戦いによって魔王が息を途絶えようとした時に、幻想を生んだ。それが魔王の化身と言われている」
初めて知った。あれが魔王の配下だという事を。
「そして、幻想が幻想を生み出し、今日世界中に広がっている。酷い世界になったもんだ」
俺は拳を握りしめた。
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