第14話神子

「私が命じる。雷の精霊、く走れ【天光雷迅てんこうらいじん


愁命しゅうめいが水晶に手をかざすと、強力な雷が放たれ牛鬼の半身を吹き飛ばした。

俺がその光景に戸惑っていると、怒り狂った牛鬼が術を詠唱し始めた。


「ギギ―ウマレイデヨ――ガンオウノキバ―――【地牙残骸ちがざんがい


地面の石材がまるで猛獣の牙のように飛び出し、俺と愁命に襲い掛かってきた。


「くそっ!こいつ術を....」


「側にいて。私が命じる。貝の精霊、堅く閉ざせ【守護閉殻しゅごへいかく】」


愁命が防御結界を張り、岩の刃を防ぐ。

その隙に俺が【九字切り】を放ち、牛鬼を完全に切り刻み絶命させた。


「ハァ...助かったよ。きみほど幼い子がこんな術の使い手だなんて...今までどこに?」


「まだ油断しないで」


愁命は息も切らさず、淡々と話しまるで人形のようだ。

他にも3匹召喚されていたが、全て雷牙が黒い剣で首を落し塵と化していた。


「ふん...あとはお前だけのようだな」


雷牙が赤い鬼面を見下したような目で見る。


「ぐっ....ここまでか...。だがいずれ必ず同志が貴様らの首は落とす!」


「俺が逃がすと思うのか?」


「見くびるなよ退魔師!妖の巫女様ご照覧あれ!我が血肉を御身に...!!」


そういうと赤い鬼面の男は自らに火炎の術を放ち、生きたまま燃えていった。

笑いながら燃えていく様は狂信的であった。


「つまらぬことを...」


不満げに呟いた雷牙はそのまま玄鏡司の敷地の外へと向かっていく。

愁命もそれに続くようについていく。


「あんた、天威の退魔師じゃないのか?この惨状で救助もせずにどこへいくんだ!」


「...弱者が敗れただけの事。俺には行くべき所がある」


「どこへだよ!そんな自分勝手が許されると...」


「小僧、お前と話している時はない。止めたくば力づくでとめるのだな...」


そういわれ俺は黙ってしまった。


そうだ、俺もこんなやつに構ってる暇はない。

兄貴や涼華の安否を確認しないと――――――


「兄様!無事だったんだよかった...」


「涼華!?お前こそ....けがしてないのか?」


「平気だよ。ただ静月兄が...かばってくれたときに腕を斬られちゃったんだ...」


そういうと、ススだらけの顔をこすり涙を浮かべながら涼華はへたり込んだ。


「重傷なのか!?」


「...心配するな、かすり傷程度だ」


背後から右腕を抑えながら静月が歩いてくる。

刀で斬られた傷のようで血を流している。


「これぐらいなら癒水の術師に頼めばすぐだろうが、なんせ重傷者が多いからな」


「ごめんね静月兄...あたしが癒しの術が使えたらいいのに...」


「気にするな。お前が無事でよかったよ、グッ...」


辛そうにしている静月の側に愁命が歩いてきた。

そして、水晶玉を持っていない方の手を傷口にあて術を唱え始めると傷口が塞がっていく。


「こ...これは?癒しの術か...すまない...」


静月の顔が少し穏やかになっていく。

右側の眼鏡のレンズが割れているのが痛々しい。


「愁命?だっけ?雷牙のおっさんと一緒に行ったんじゃなかったのか?」


「後から行く。気にしないで」


すると静月が怪訝な顔をして愁命の事を見る。


「愁命...?確かその名は...」


「治療終わり。他をみる」


そういって愁命は他の退魔師の治療へと向かっていった。

その背中を追いかけるように見つめる静月に俺は尋ねた。


「誰かしってんの?」


「...ああ、彼女は神子みこだ。神の子...と書いて、な」


「みこ?それは神社とかのやつとは違うのか?」


「同義ではあるが、彼女は神ではなく精霊を降臨させて使役することができる」

「退魔師の用いる術というのは基本的に自らの神気を使うもので、使えば消耗する」

「だが彼女の場合は別だ。大気に満ちる精霊の力を借りることで一切の消耗がない」


「めちゃくちゃ便利じゃない...」


「ああ。だがそれ故、その力を求める連中に狙われるすい。よって存在は一部の者しか知らなかったはずだ...。なぜ玄鏡司にいて雷牙といるのか...」


静月はそう言いながら立ち上がり、周囲を見て険しい顔つきになる。


「...荒れるな、この国も。俺はこの件を行政府に報告しなければならない」


「大変だな、兄貴...」


「俺は出来損ないだからな、お前や涼華のように退魔術が使えない」

「だが腐ってるわけじゃないぞ。人は結局できることをするしかないんだ」


俺はうつむいた。


本来であれば兄貴が月御門家を継いで、それで、オヤジも安心して...。


俺の心中を察したのか静月が肩をポンと叩く。


「焦らなくていい。お前はしっかりとやっているし、それを父上も理解している」

「涼華を守ってやれ。じゃあな」


そういって静月は去っていった。

火のついた建物を消火するもの、負傷者を手当するもの...

鬼面童衆が残した傷跡は中々治りそうもなかった。


俺は涼華と一緒に、負傷者の救助に向かうのだった――――――

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