第10話玄鏡司

「―――っく...なんだ...ここは」


目を覚ますと、石造りの牢のなかに鎖に繋がれ閉じ込められていた。

牢の前の燭台が不気味に揺れ、暗闇の中の唯一の光となってた。


「まさか、霊障獄れいしょうごくか...。」


怨霊や妖怪による重症患者や罪人を留め置く、クソ陰気な場所だ...。


「最悪の気分だな...おい、誰かいないのか?おーい!!」


しばらく叫んでいると、見張り番と思われる黒子くろこのような黒い法衣を着た者が現れた。

顔は退魔の札が張られた頭巾を被っており、見ることはできない。


「お目覚めですか、水月様」

「ああ、ばっちし最高の目覚めだよ!それで?俺は出してもらえないのかい?」

小生しょうせいには判断致しかねます。獄長ごくちょう沙汰さたを仰ぎます故」


そう答えると足早に看守は去り、しばらくして赤い法衣をきた女を連れてきた。

ボブヘアーに口元にのみ退魔の札を身に着けており、氷のように冷たい目が俺を見つめてきた。


「月御門の若様、調子はいかがですか」

「すこぶるいいよ~お嬢さん。ここを出たら都合がいい時にでも遊びに...」

「念の為に術式を展開します。動きませんように」


あっさりとスルーされた。

獄長が牢の外から両手をこちらに向けると何らかの紋が出現した。


「――成程なるほど、確かにけがれは祓えたようです」


そう言うと看守が牢の鍵を開け、俺に繋がっている鎖を外してくれた。

ようやく薄暗い地下の牢獄から抜け出すと、夜になっていた。


「はー...しんど...」


玄鏡司はいつ来ても辛気臭いが、夜は特にそう感じてしまう。

帰ろうとしていた所には連絡があったのであろう、兄の静月が迎えに来てくれていた。


「無事でよかったな。どうなることかと思ったぞ」

「まったくね~散々な日だったよ...はやくシャワー浴びて寝たいわ」

「そうだな...明日は大変になるだろうから寝ておけ」


玄鏡司から車で実家に戻ると、俺はすぐに汗を流し眠ることにした。

大変だったのは翌日からだ...。


次の日、俺は玄鏡司にまたもや呼び出しをくらい会議の場に出ることになった。

会議室には天威や癒水などの各部門の長、そして霊障獄の獄長までも揃っていた。

そして一番奥、真ん中の席に座るは玄鏡司を統括する俺の父、月龍げつりゅうだ。

俺はまるで審問されるかのように中央に立たされていた。


「...昨日の動乱の件について、お前からも事情を聞かねばならん」


はそう言って眉間にしわを寄せてこちらを見た。


「その件は皆様に多大なるご迷惑をおかけし――――」

「そのような言葉はよい、お前が遭遇した妖魔についてだけ答えよ」


相変わらず威圧的だな。こいつの息子であることが忌々しくて仕方がない。

俺は樹海で遭遇した女の妖魔の事を知る限り話した。


「もしや鬼面童衆きめんどうしゅうの使役するあやかしでは?」

「いや奴らの首魁しゅかいかもしれませんぞ、姿かたちは知られておらぬゆえな」

「そのような上位妖怪の存在、易術師えきじゅつしは感知できなかったのか」


各々が主張を繰り返す中、会議室に長身の黒いコートを着た男が入ってきた。

黒刀を携え、黒い髪はボサボサに乱れていたが合間から鋭い眼光が光っていた。


「本家の小僧が語った容姿、生死すら流転させる秘術、圧倒的な力...これらから導き出されるのはもはや一つしか考えられんがな」


その場にいた全員が男を見る。


「クク...あえて言わんのなら俺が言ってやろう」

「月御門のみ子、大逆を犯し、神に謀反を起こした魔姫...」

「"妖の巫女"だろう?」


そこまで男が言うと、月龍が睨みつけるように男を見た。

場が静まり返る。


「口が過ぎるぞ、雷牙らいが。その名を口に出すな。あり得ぬこと」


「なぁ、月龍よ...お前とてわかっているのであろう?奴は死すら超越しているのだ」

「何の因果か知らんが、いまこの時代に再臨したのだ。クク、復讐のためか?」


雷牙とよばれた黒コートの男は確か俺を斬ったやつだな...あんなやつ見たことない。

それにしても妖の巫女だと?大昔に妖怪を率いて日本を混乱に陥れたとする魔王の如き存在。

それがあの、深紅の瞳の女...だが、そいつは――――――


「あれは清明様に討たれておる。復活などありえぬ」


末席に座っていた老人がそう語った。

清明――――安倍晴明。

最強の陰陽師であり酒吞童子しゅてんどうじなどの大妖怪を征伐した男だ。


「この世界に"絶対"などあるものか。だが安心しておけ...」

「俺が狩ってきてやろう...この鬼切おにぎりでな」


そう言うと男は会議室を出ていった。

しばらくして会議は終了となり、各々が各自の職場に戻っていった。

俺も会議室を出ようとすると月龍が話しかけてきた。


「水月。雷牙には関わるな...あれは鬼子おにごだ」

「術は大して使えぬが、対魔剣術に優れ邪気すらも纏う異端の退魔師よ」

「天威最強といっても過言ではないが性格も苛烈かれつ過ぎる...よいな」


そう言うと月龍も去っていった。


俺はこれからどうするべきか―――

そう考えていた時に事件は起こった。


「た、たいへんです!!やつら...鬼面童衆の奴らが攻めてきました!!!」

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